豚から人へ
それから何日もの間、祐介はカレーライスを食べ続けた。しかし、一日につき三皿ものポークカレーが追加されていくとなると、いくら食い意地の張っている彼にも飽きが来てしまう。
「残りは明日食べよう…………」
彼はそう言って、日に日に冷蔵庫にカレーを蓄積させていった。
「もう飽きたよ、美味しく感じられねーよ…………」
食べても食べても、冷蔵庫には容赦なく三皿のポークカレーが追加されていく。食事のマンネリ化に辟易している祐介は、完全に目が死んでいた。
(あはははは カレーだ やったぁ、じゃねぇんだよ! 死ね! ゴートゥーヘル!)
カレーを食べ進めていくにつれ、彼の心は荒んでいく。今の彼には、願い事が叶った時のあの笑顔など欠片も残っていなかった。
(しょうがねぇ…………俺を散々肥溜め呼ばわりしたアイツらにご馳走なんか振る舞いたくねぇけど………………このカレーをどうにか処分しねぇとな)
祐介はそう思い立ち、三人の友人を自宅に招待することにした。
それから数日後の土曜日のことだった。三人は、約束通り祐介の家を訪れた。
「前は言い過ぎたよ。ごめんな、飯塚」
「ああ、俺も悪かった」
「すまん」
三人は真剣な声色で謝った。そんな彼らに続き、祐介も謝罪した。
「俺もごめん。皆で割り勘したお菓子を一人でいっぱい食ったりして。だから今日は俺が皆にご馳走を振る舞うよ」
こうして、四人は飯塚の食卓でポークカレーを食べることとなった。
「よく煮込まれた野菜が、まるでマッシュポテトのように柔らかくなっていて旨いな」
「口どけの良いルウだな…………それでいて具材の素材の味が口の中に広がっていくようだ」
「この豚肉もまた身が引き締まっていて良い歯ざわりだな」
祐介の願い事によって生まれるようになったカレーライスは、友人たちに好評だった。
「へへへっ まあね!」
祐介も上機嫌である。
それから彼は友人たちと談笑し、楽しい時間を過ごしていった。そんな中で、彼はあることに気付く。
(あれ…………? このカレー、こんなに旨かったっけ?)
祐介は周りを見渡し、友人たちの屈託のない笑顔を目にした。
(そっか、同じ食べ物でも、友達と一緒に食べるだけでこんなに美味しいんだな。最高じゃないか…………『分け合うこと』って)
この日を境に、彼は皆で金を出し合って買った食べ物を均等に分け合うようになった。「毎日冷蔵庫に可食期間内のカレーライスが三皿追加される」という願い事を通し、飯塚祐介は「友達」というスパイスを知ったのだ。そんな彼と友人たちを、ちょきんぶぅは窓の奥から密かに見つめていた。
*
その日の夜、とある郊外にて。
時間帯はとうに街の寝静まる頃だったが、ある二階建ての一軒家の脇にあるガレージは窓から光を漏らしていた。
埃をかぶったガレージの中には、白い髪をした中性的な顔立ちの美少女とたくさんのちょきんぶぅが居る。少女は白いパーカーに身を包み、風船ガムを噛みながら一匹のちょきんぶぅの話を聞き流していた。
「――――ってことがあって、まあ飯塚祐介は願い事のおかげで結構上手くやってるみたいだぶぅ!」
ちょきんぶぅは嬉しそうな声で近況報告をしたが、少女はあまり興味を抱いていないようだ。彼女はただ、虚ろな目で突っ立ったまま風船ガムを膨らませるだけだった。