無頼
梨桜は驚愕した。
(おかしい…………さっきまでアイツの心を読めなかったのに、今はまたアイツの心を読める。まさか、あの状態で意識を取り戻したというのか…………)
彼女が首を傾げたのも束の間、その眼前では灼熱の炎を帯びた乗り物が一斉に弾け飛んだ。燃え盛る業火の中心では、白尾和沙が両腕で自動車を持ち上げていた。彼女はそのまま、梨桜めがけて燃えている自動車を投げつけた。
「!」
梨桜はすぐに念力を使い、飛来してきた車の軌道をずらした。彼女は無事に車をかわしたものの、それを覆っている炎は彼女のオフショルダーのワンピースに引火した。
「くっ…………」
彼女はすぐにワンピースを脱ぎ捨てようとした。しかし、二人の戦いにおいて、この一瞬の隙は命取りとなる。
「そこだ」
梨桜がワンピースを脱ぎ終わる前に、和沙は彼女の顔面に拳を叩きこんだ。その圧倒的なスピードは、和沙が自らの身を包み込んでいる炎をかき消すには充分だった。この一撃により、梨桜は後ろに吹っ飛ばされた。彼女の体は半壊した土産屋の壁に叩きつけられ、腹部の傷は更に流血した。
「がはっ…………」
痛みに悶える彼女に追い打ちをかけるように、土産屋はすぐに崩壊した。崩れ落ちた壁や天井の破片は、彼女を容赦なく生き埋めにした。その上空からは、ガス爆発で炎上した大型トラックを両腕で持った和沙が迫ってくる。
(さっき僕が気絶していた時、僕の外傷は焼かれて塞がったようだ。これで、止血に筋力を回す必要はなくなったな)
ここにきて、和沙はようやく全力を出すことが出来たようだ。彼女の持っていたトラックは、梨桜の埋まっている瓦礫に容赦なく投げつけられた。後から落ちてきた和沙はトラックの後部を蹴り、そのまま後ろに着地した。
(あの超能力者が這い出てくる前に、さっさと家に帰ろう。あの怪物がたくさんの死人や怪我人を出し、あれだけ街を破壊したんだ――――ちょきんぶぅに助けを求めた奴もいれば、自宅の修復や怪我の治療のために大金を払った奴もいるだろう。つまり金も充分に集まったはずだ)
彼女はそう考え、サービスエリアの跡地を去ろうとした。
「…………どこに行く気だ?」
突如、土産屋の瓦礫は竜巻のように渦を巻き、梨桜の周りから離れていった。
「…………!」
和沙は後ろに振り向き、すぐに身構えた。彼女が目を遣った先に広がる砂煙の中には、直立した人影が見える。
――――そこには、全身に傷を負った黒羽梨桜が立っていた。
彼女は再び和沙と話をした。
「お前、冥府で死神と対峙したんだろ? そして、お前は生きて帰ってきた。白尾和沙…………お前は何様のつもりだ」
「…………僕は神とやらを敬おうとは思わない。お前は神とやらを信じて、救われたことでもあったのか?」
「そ……それは…………」
「お前だって、神とやらが何もしてくれなかったからちょきんぶぅから超能力を買い取ったんだろ? お前が超能力を買うに至った経緯は知らないが…………お前が僕を裁こうとしているのも、神が僕を裁かないからだろ?」
和沙の言葉は、梨桜の心に深く突き刺さった。
(私は…………法で裁けない悪を滅ぼすために超能力者になった。あの時、神様はお父さんを助けてはくれなかったし、紅林茂を裁いてはくれなかった。和沙…………お前も私も、神様に見放されていたんだな………………)
ほんのわずかだが、梨桜は和沙を憐れんだ。一方で、和沙は自分が同情されていることに気付いていなかった。
「この世界には、四十一日も性的暴行を受け続けたあげく死体をコンクリートに詰められる女子高生もいれば、拷問で洗脳されて互いを殺し合う七人家族もいる。こんな風に罪のない命が弄ばれる世界で、どうやって神を崇拝しろと言うんだ」
そう語った彼女の横顔からは、言い知れぬ哀愁が漂っていた。




