それぞれの使命
あれから二年――――――賑わっていた街は怪物に破壊され、廃墟と化していた。街外れのサービスエリアの跡地にて、二人の少女が出会った。
一人は、親友の命を蘇らせるために二年間奮闘し続けた白い髪とパーカーの少女――――白尾和沙。もう一人は、実の母と結婚詐欺師に父親を殺害され、その復讐を果たした黒髪の超能力者――――黒羽梨桜。両者ともに初対面だが、梨桜は和沙のことを知っている。彼女の超能力をもってすれば、相手の過去を霊視することもまた容易いのだ。
梨桜はまず、和沙との話し合いを試みてみた。
「私は黒羽梨桜…………ちょきんぶぅの力で超能力を得た者だ。お前のことは超能力による霊視で把握している。お前が親友を蘇らせようとしていることも、そのための金がもうすぐ揃うということもだ。そうだろう――――白尾和沙」
「ああ、そうだ」
見知らぬ赤の他人に自分の素性を言い当てられてもなお、和沙は一切動揺を見せなかった。自らの全身に刻まれた傷をものともせず、彼女は涼しい顔をしていた。そんな和沙に突き付けられたのは、梨桜の抱える敵意の刃だ。
「お前は罪を重ねすぎた。人を一人蘇らせるために、自然の摂理を冒涜するために、お前は星の数ほどの命を奪ってきたんだ」
彼女の声は怒りに震えていた。彼女の堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だ。しかし、彼女の威圧感も、和沙の精神力を前にしては何の意味も持たないようだ。
「この世界は…………幾度となく美希を苦しめてきた。僕はただ、美希を大衆の快楽のための犠牲にしてきた腐った世界を、同じように美希のための犠牲にしてきただけだ」
「それで柊木美希が喜ぶと思うのか?」
「愚問だな。死人が出たことを美希に伝えなければ良いだけの話だ。お前は遊園地の入園者に着ぐるみの中身でも見せるのか? サンタクロースの正体が親であることを子供に伝えるのか? 死ぬまでずっと非情な現実に叩きのめされてきた美希に、僕が幸せな夢を見せてやる」
和沙は歪んだ使命感に燃えていた。彼女の眼差しには、一切の迷いがなかった。
「…………どうやら、これ以上話し合っていても無駄らしいな」
梨桜は近くに倒れていた観光バスを念力で持ち上げ、それを和沙に叩きつけた。
梨桜の目の前のバスは一瞬にして真っ二つになり、彼女の頭上にはいつの間にか和沙がいた。
「…………!」
梨桜が咄嗟に自分のスカートの裾を上げると、そこからは何十本もの短剣が零れ落ちてくる。彼女はその全てを操り、上空の和沙めがけて発射した。その一本一本の飛来する速さはマッハ二十を軽く超えていたが、短剣はたった一本を除いて和沙の周囲で勢いよく弾け飛んだ。弾かれなかった残りの一本は、和沙の手に握られていた。
(は……速い…………それに、自力でバスを一刀両断したのか!?)
その俊敏性と馬鹿力に、梨桜は度肝を抜かれるばかりだ。和沙はそのまま地面に着地し、瞬時に間合いを詰めた。梨桜の鳩尾めがけて、鋭い右ストレートがさく裂する。
「かはっ…………」
彼女の腹部は、和沙の拳に貫かれた。その握り拳が引き抜かれた時、力強い右腕は肘から指先にかけて梨桜の腹から出た血を浴びていた。しかし、彼女も一方的に翻弄されるばかりではない。三本の短剣が、突如和沙の背中に突き刺さった。
「うっ…………」
和沙は吐血し、そこにはわずかな隙が生まれた。この瞬間を逃すまいと、梨桜は念力で二台の大型バスを発射した。ちょうど、眼前の強敵を挟み撃ちにする形だ。二台のバスは和沙を挟んだまま勢いよく衝突し、そのまま炎上した。
(こんなもんじゃ、あの化け物じみた女は殺せない…………だが、法で裁けない悪は、同じ法で裁けない悪が裁くしかない!)
梨桜は意識を集中させ、周りに倒れている様々な乗り物を二台の大型バスめがけて飛ばしていった。和沙を囲う車やバスは次々とガス爆発を起こし、黒い煙でサービスエリアの跡地を覆っていった。
(…………よし、後はコイツをこのまま焼き殺すだけだ。私はまた人を殺さなければならなくなったが、正義や道徳を盲信する者には何も守れない。誰かが罪を背負ってでも悪人を排除しない限り、平和は決して訪れないんだ)
梨桜は青い瞳を光らせ、和沙が生き埋めになっている乗り物の山に圧力を加えた。外側から内側にかけて、和沙の体を潰していくような圧力を。
(私の念力では、人間やちょきんぶぅを含む動物の肉体は動かせないし、自分の視界に映っていないものを動かすことも出来ない。だが、それでも念力が使えないよりかマシだ! 私が、白尾和沙という悪魔を倒すんだ…………)
――――――それから数分後、和沙は紅蓮の炎の中で意識を失った。




