死の商人
あれから数日もしないうちに、和沙は戦うことを余儀なくされるようになった。というのも、彼女の親友の美希が校内でのいじめの標的にされてしまったからだ。元々いじめられていたのは二人と何の面識もない女子生徒だったが、彼女が「自分の代わりにいじめられる身代わりが現れる」という願い事に四千円を払ったことで美希は犠牲となった。
そんな美希を守るため、和沙は喧嘩に明け暮れた。
美希が、男子生徒に現金を全て脅し取られた時――――和沙はその男子生徒が失禁するまで彼を殴り続けた。彼女は、彼が奪った分の二倍以上の金を奪い返し、それを美希に手渡した。
美希がたちの悪い女生徒たちに服を脱がされ、モップでトイレの水を頭から被せられた時――――和沙はその女生徒たちを一人で叩きのめし、彼女たちの顔面をトイレの中に押し付けた。
和沙が喧嘩をすればするほど、彼女には敵が増えていった。しかし、より多くの敵と戦っていく内に、彼女の身体能力は更に成長していった。
(僕が…………美希を守るんだ)
かつていじめに遭っていた身として、和沙は美希のことを放ってはおけなかった。その上、負け知らずの彼女が戦いを拒む理由などどこにもない。やがて、和沙の強さは校内に知れ渡り、美希をいじめていた生徒たちが彼女に抱いている憎しみもまた大きく膨れ上がっていった。
*
別の日の夜――――ついに、何体かのちょきんぶぅの体内が金で埋め尽くされた。そいつらは孝一の前に現れ、報酬を待っていた。
「灰賀孝一――――約束通り、ぶぅたちは満杯になるまで金を稼いできたぶぅ!」
「それで、満杯になったぶぅたちにはどんなボーナスが支給されるんだぶぅ?」
「この日のために、ぶぅも一生懸命願い事を売り続けてきたぶぅ!」
この三体の他にも、五体の満杯のちょきんぶぅが彼の前に姿を現していた。孝一はおもむろに金属バットを手に取り――――――
――――――ちょきんぶぅたちを一体残らず破壊した。
彼の足元には、そいつらの破片と、紙幣と硬貨が散らばっていた。孝一は金を一枚ずつ拾い集め、邪悪な顔つきで頬を綻ばせた。
(笑っちゃうよ…………何もかもが俺の計画通りだ。ちょきんぶぅには人智を超えた力があるみたいだけど、どうやら知恵比べでは人間に劣るらしいなァ)
彼は勝ち誇ったような顔でちょきんぶぅの破片を見下ろし、手に入れた金を財布にしまっていった。
孝一の真の目的は、金を効率的に稼ぐこと――――ただそれだけだった。
(まあ、アイツらの敗因は…………せいぜい金の価値を理解していなかったことくらいだろう。力を得た人間は、金のためなら容赦なくその力を振りかざす…………もし、それをアイツらが理解出来ていたならば、俺がはなから金目当てだったことにも気付けたんだろうよ)
彼は、金を稼ぎたいがために学校の秩序を破壊し、生徒たちを争わせてきたのだ。
もちろん、彼は自分自身の行動によって死人が出たことも把握している。そもそも、彼は最初から犠牲者が出ることを想定していたのだ。自分の力でどれほどの命が失われようと、それは彼にとっては至極どうでもいいことである。
(いつの時代も、闘争が経済を回してきた。いつの時代も、闘争が歴史を動かしてきたんだ。そして、戦争とは闘争の炎に油をぶちまける武器商人どものビジネスだ。戦場で散っていった無数の命は、札束に生まれ変わるんだよ)
財布の札入れから顔を覗かせている何枚もの紙幣を前にして、彼はすっかり上機嫌だった。




