元凶
白い髪の少女がちょきんぶぅをばら撒き始めたのは、黒羽梨桜が超能力者になったのとちょうど同じころだった。彼女は白尾和沙――――ある願い事を叶えるために金を集めている少女である。
*
全ての元凶は、和沙と同じクラスの一人の男子だった。彼の成績は良く、彼の人間関係もまた充実していた。表向きでは、彼は品行方正で爽やかな少年として通っていた。彼の名は灰賀孝一――――灰色の髪が特徴的で、優しそうな雰囲気を醸している十四歳の少年だ。彼は比較的優秀な生徒だったが、実力を隠していたためあまり嫌われることはなかった。教師の間でも、生徒の間でも孝一の評判は良く、誰もが彼を信頼していた。
そんな彼の裏の顔を知る者は、この世の何処にもいない。
孝一が豚の貯金箱のような何かと出会ってしまったことは、全ての発端であった。その日の夕方、綺麗に整理整頓された自室のベッドに腰かけつつ、彼はちょきんぶぅと話をしていた。
「…………なるほどね。ちょきんぶぅ三大原則は俺が噂で聞いていたものと同じみたいだ。ところで、一つ聞いても良いかな?」
「なんだぶぅ?」
「未成年にしか存在を認識されない君たちが金を使える機会なんて、相当限られてると思うんだけど。強いて言えば、せいぜい高校生のバイトがレジに立っている店か、あるいは自動販売機や券売機にしか金が使えないじゃないか。君たちは、一体どういうメリットがあって願い事を売るの?」
孝一には、少し疑い深い一面があった。こんなことを問いただしてくる相手は、ちょきんぶぅの目にも物珍しく映るようだ。特に、今回孝一と接触している個体は、彼のような人間を過去に一度も見たことがなかった。
「そんなことを指摘する奴、初めて見るぶぅ」
「え? 逆に今まで誰も疑問に思ってなかったの? 俺はむしろ『ちょきんぶぅが未成年にしか認識されないのなら辻褄は合わない』『よってただの都市伝説』って考えてたから、君が実在していたことに物凄く驚いているんだけど」
「…………ま、一応説明出来ないわけでもないぶぅ。ぶぅたちは願い事を叶えることで生命力を得られる生き物なんだぶぅ。でも、願い事を叶えるには金を取らないといけないルールになっているんだぶぅ。相応のコストをかけずに願いを叶えることは、自然の摂理に反しているんだぶぅ」
「なるほど。それじゃ、体内に蓄積された金はどうなるの?」
「願い事に払われた金に対する釣り銭にするためにある程度は貯蓄しているけど、あまり溜まりすぎたら体内で熱して蒸発させてるぶぅ」
ちょきんぶぅの話を聞き、孝一はひらめいた。
「それじゃ、願い事カタログを見せてくれ」
「わかったぶぅ」
ちょきんぶぅは、彼の頭にホログラムで出来たワイヤーフレームのようなヘルメットを装着した。孝一はある提案をした。
「俺が『好きな時に争いを生めるようになる』という願いを買ったら、俺と一緒にビジネスをしないか?」
「どんなビジネスだぶぅ?」
「俺が争いを生む。そしたら、争う奴らは攻撃の手段として君たちに願いを叶えてもらうはずだ。そうすれば君たちはより多くの願い事を叶えることが出来るし、俺は潰したい奴同士を共倒れにさせることが出来るんだ。未成年者があまり表をうろついていない夜中は、俺の部屋に泊まると良い」
「それは良い考えだぶぅ! お互い協力していくぶぅ!」
意外にも、ちょきんぶぅは彼の案に賛成した。そいつにも、人間と同様に「利害の一致」という概念は存在するようだ。
「決まりだな。じゃあ、『好きな時に争いを生めるようになる』を叶えてくれ」
孝一は財布から五千円札を取り出し、それをちょきんぶぅの背中に入れた。
こうして、彼は争いを生む能力を得た。
孝一が最初に生んだ争いは、ちょきんぶぅたちの間での「客の取り合い」だった。翌日、彼の学校にはたくさんのちょきんぶぅが押し寄せるようになった。
(なるほど…………案外、ちょきんぶぅも人間に騙されるモンなんだな)
ちょきんぶぅだらけの校庭を窓から見つめ、孝一は薄ら笑いを浮かべた。




