遠征
ちょきんぶぅと契約を交わした日の晩、梨桜は予知夢を見た。夢の中で、彼女は電車に揺られていた。
(私の意志に関係なく、体が勝手に動いていく…………)
彼女の体は勝手に電車を乗り換え、挙句の果てには勝手に新幹線にも乗った。まるで、梨桜の体が夢に操られているかのようだった。最後に彼女が辿り着いた場所は、彼女の知らない大きな街だった。その街の中を突き進んでいった先には、彼女が誰よりも憎む男――――紅林茂がいた。
*
翌朝、梨桜は目を覚まし、すぐに外出の準備をした。
(なるほど…………場所はわかった)
梨桜は隙を見計らい、児童養護施設を抜け出した。彼女の肩には、一体のちょきんぶぅが乗っていた。
梨桜には少し気がかりなことがあった。
「ちょきんぶぅ…………お前は体内の金がなくなったらどうなるんだ?」
「別に何も起こらないぶぅ。ぶぅは願い事を叶えることで腹が膨れる生き物だから、金がある程度増え次第体内で熱して蒸発させてるんだぶぅ。ぶぅの体内には、主に釣り銭にするための金が蓄えられているんだぶぅ」
「じゃあ、その中身を貰っても良いかな?」
「別に構わないぶぅ」
どうやら、ちょきんぶぅにとって、自らの体内に投入された後の金はあまり重要ではないらしい。
「…………ありがとう」
梨桜は礼を言うと、念力を使ってそいつの体内の紙幣を投入口から排出させた。彼女は総額五万円前後の金を手に入れた。
「足りるぶぅ?」
「ああ。これでアイツに会いに行ける」
彼女はちょきんぶぅの体内から取り出した紙幣を懐にしまい、現在地からの最寄り駅へと向かった。
*
梨桜は昨晩の予知夢に従っていった。彼女は必要に応じて電車を乗り変え、必要に応じて新幹線に乗った。そうこうしている内に、約三時間もの時間が経過した。彼女が遠出した先には――――――
――――――彼女自身の夢の中に出てきた大都会があった。
梨桜は確信した。
(間違いない…………この街だ。ここは私の知らないはずの街だったのに、昨夜の夢の中に出てきた)
恐る恐る辺りを見回しつつ、彼女は文字通りの「親の仇」を探しながら街の中を練り歩いていった。
(ちょきんぶぅ…………お前には本当に感謝している。お前に貰ったこの力が、本当に役に立った)
梨桜は不敵な微笑みを浮かべ、自分の肩の上にしがみついているちょきんぶぅの頭を優しく撫でた。
それから数十分ほど経ち、彼女はついに紅林茂を見つけた。
茂は彼女の存在に気付いていなかった。否、正確には、彼女のことなど覚えていないのだろう。彼は腕時計を見つめつつ、誰か他の人を待っているようだ。梨桜は超能力を使い、彼の心を読んでみた。
『ククク…………次の女も簡単に騙せそうだな。金持ちの夫とはご無沙汰で、男の優しさに飢えていると来た。コイツはちょっと優しくしてやれば、すぐに金目の物をよこしてくれるだろうよ』
彼女の平常心は、一瞬にして決壊した。




