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ちょきんぶぅ  作者: やばくない奴
憤怒編
17/31

殺意と憎しみ

 実の父を失ってからというもの、梨桜(りお)はすっかり心を閉ざしてしまった。彼女は自室にこもり、実母の千冬(ちふゆ)やその交際相手の(しげる)とはなるべく干渉しないようにしていた。

(お父さんが亡くなるや否や新しい男を家にあげるなんて…………いくらなんでも非常識的すぎる………………)

 無理もないことだが、もはや今の彼女に千冬を信用することなど出来なかった。何しろ、梨桜の最も信頼していた実父の死は、千冬にとって何よりも好都合なことだったからだ。もしも当時の梨桜が二人の動向を観察していたならば、彼女の人生がこれ以上狂うことはなかった。



 黒羽直樹(くろばねなおき)の死から二週間――――――紅林茂(くればやししげる)は、遺産と死亡保険金を持ったまま失踪した。



 後に警察の調査によって明らかになったが、千冬は結婚詐欺師に騙されていたらしい。彼女は茂の指示に従い、夫の直輝を毒殺した。この時、彼女は自殺を装うため、床に大量のカフェイン剤を撒いたのだ。このことが発覚するまで、直輝の死は世間的には完全に自殺として取り扱われていた。



     *



 元々、茂と千冬はSNSを通じて知り合った。茂が金を騙し取る相手を探していた結果、二人は出会ってしまったのだ。彼はあの手この手で結婚式の日程を先延ばしにし、千冬を陥れていった。

「いくらなんでも、夫が亡くなった直後に式を挙げるのはまずい。これでは、『再婚の邪魔になったから夫を殺した』ということがバレてしまう。結婚するのはもう少し様子を見てからにしないか?」

「ええ、そうね」

「全てを俺に任せてくれ。必ず千冬を幸せにする」

 もちろん、彼の言うことは真っ赤な嘘である。茂は大金を騙し取るため、いくつもの夜を彼女とともに過ごしていた。高価な服に身を包んでいた彼は、貧しい千冬の目には頼もしく見えた。茂が金持ちの女ではなくわざわざ彼女を選んだのも、詐欺を疑われにくいと判断したが故のことである。



     *



 結局、黒羽千冬は殺人罪で逮捕され、娘の梨桜は児童養護施設に預けられた。しかし、紅林茂は上手く逃亡し、警察の手を逃れた。梨桜は実の母親が逮捕されたことに対し、少し複雑な心境を抱いていた。

(私は、お母さん――――いや、黒羽千冬が嫌いだった。だから、黒羽千冬が裁かれたのは本当にありがたいことだと思う。けど…………私は犯罪者の娘になってしまった。私は…………死ぬまで後ろ指をさされて生きていくんだろうな)

 詐欺師に人生を狂わされた梨桜は、人間不信に陥っていたため児童養護施設では孤立していた。故に、彼女は新しい環境に馴染めずにいたが、そんなことは本人にとってどうでも良かった。彼女の胸の中で、父親の死を弔う気持ちと、母親への憎しみと、紅林茂へのどす黒い殺意が渦巻いている。

(紅林茂…………私は絶対にお前を許さない。いつか必ず報復してやる。今の私には、失うものなど何もない)

 彼女はこの時から、茂に復讐することを誓っていた。



 そんな梨桜の前にちょきんぶぅが現れたのは、彼女が孤児院に来てからわずか三日後のことであった。



 豚の貯金箱のような外見のそいつと出会った時、彼女は願い事カタログを頭に装着しながら思い悩んだ。

(私は、もう一度お父さんに会いたい。でも、お金で買えない私を愛してくれたお父さんの命を、お金なんかで買いたくない)

 彼女が結論を出すのを、ちょきんぶぅは無言で待っていた。そいつは人間の感性を理解することは出来ないが、他の人間が願い事を吟味するのに時間をかけている姿はごまんと見てきている。

(人間の傲慢で自然の摂理を蹂躙して、お父さんは喜ぶのだろうか。一生懸命病気と闘ってきたお父さんを、私は安らかに眠らせてあげないといけないのだろうか。私の一存で死者を蘇らせるなんて、あまりにも無責任なんじゃ…………)

 彼女には、彼女なりの正義があった。彼女は命を尊んでいるが故に、それをみだりに蘇らせることを忌避していた。

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