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人形のパラード

人形のパラード 2

作者: 藤樹 翠

初めましての方は初めまして。

また書きました。

よろしければどうぞ。

私が目覚めたのは、確かその老人がまだ自分で歩くことができた時でした。

老人はすっかり白くなってしまった髪の毛をわさわさと搔いて、気恥ずかしそうに私に話しかけました。

何がそんなに嬉しいのかと尋ねると、


『上手くいったから、嬉しくてね』


と言いました。

私はそれを聞いて少し笑いかけました。

まず、私には仕事が与えられました。

それは老人の生活の世話をする仕事でした。私はそのために指先を器用に扱えるようになっていました。

老人は手芸や料理が得意ではありませんでした。そのため、私はそれらを勇んで行いました。

老人は私がそれらをしている間、晴れている時は玄関の前に置いた切り株に座って昼寝をし、雨の日は家の中で音盤を回していました。

老人が集めていたらしい音盤は、そのどれもが女性が好きそうなものであったので、私は気になって尋ねました。


『それは貴方の好みですか?』


すると老人は少し口元を緩ませて答えました。


『いいや、これは私の妻のコレクションなんだ』


老人は低い、しわがれた声の中に確かな温かみを含ませて言いました。

私は老人の声を聞くことが好きでしたから、用事が終わるたびに老人に話しかけたりしていました。

私があんまり頻繁に話しかけるものでしたから、老人は困ったように


『君の好きなようにしたらいいよ』


と言って私を困らせました。

ある時、私は老人が庭で本を読んでいる間に、老人の部屋を掃除することにしました。

それは、私が普段決して入ることができない部屋でした。

さぞ埃がたまっているのだろうと、私は勇敢に掃除用具を抱えて部屋に入りました。

部屋の中はほとんど真っ暗でした。

リビングにはついているランプも、部屋の中には無いらしかったのです。

部屋には小さな窓が一つだけ壁の上の方についており、それは真円であったためまるで月明かりのようにぼんやりと部屋の中を照らしていました。

私は部屋の床を掃除すると、その場から立ち去ろうと思いました。

それはその部屋があんまりにも人に優しく無い空間であったためかもしれません。

掃除用具をまとめた時、私の視界には老人が集めていたらしい音盤が見えました。

正しくは老人の妻のものらしいのですが、私は老人が持っているところしか見たことがありませんでしたから、なんとなく老人のものであるというイメージが強かったのです。

老人はいつも音盤をむき出しにして一つの袋に入れていましたから、音盤が本来包まれているはずの紙のカバーを見たのは、それが初めてでした。

音盤には決まって、同じ女性が描かれていました。

恐らく老人の妻は、その女性のファンだったのでしょう。


『あら、まぁ』


その音盤のカバーに描かれていた女性は、私と全く同じ顔をしていました。

瞳の色も、鼻の形も、顎のラインも全く同じで、私とは違う表情をたたえて描かれていました。

私はすぐにそれを片付けて、部屋から出て行きました。

その時、私は自分の存在の一切を理解したのでした。

私は老人にそれを話すことはありませんでした。

なぜなら、私は自分でもわからないいつかに、老人を信じると決めてしまっていたからでした。

私はそれからも普段と変わらず老人の世話を続けました。

ただ、事あるごとに話しかけていた私は、その会話の数を前よりは減らしていました。

しかし、会話の数が減っても、老人は変わらず、


『君の好きなようにしたらいいよ』


と言いました。

私は言葉の意味がわからなかったので、酷く言葉通りにしました。

つまり私はずっと老人の世話をするのだと思っていたのです。

しかし、それは長くは続きませんでした。

私は一切を理解したつもりでいましたが、私は一番大切なことを知らないまま、ただ綺麗にいたかったのでした。

ある時、私は何も物が置かれていない廊下につまづいてこけてしまいました。

木の床が重く軋む音がなって、私は床に寝転びました。


『あの、起き上がれないのです』


私が困ったようにそういうと、老人は目を細めて、


『もう、そんな時間だったか。君と過ごすのは楽しかったから、忘れてしまっていた』


老人はうつ伏せになっていた私を仰向けにして、私の顔の横に膝をついて座りました。


「自分で決めている時間を忘れてしまうなんて、もう歳だな」


「あら、私はまだまだお若いと思いますが」


私は体が動かない恐怖から逃れるために、冗談めかして言いました。


「君、良かったら歌を歌うといい。そう言えばついぞ聞かなかったから」


私は頷いて、老人が一番多く聞いていた音盤の歌を口ずさみました。

私は今まで行ってきた、掃除や洗濯、手芸よりもずっと上手に歌いました。

それは私が、恐らくはそう作られたからなのだと、理解したからでした。


「どうでしたか?」


私は歌い終わると恐る恐る尋ねました。


「とても良かった。あぁ、君を作って本当に良かった」


老人は笑いました。

ただ、私は老人にどうしても尋ねたいことがあったので、老人の顔を見ることができませんでした。


「なぜ、私の寿命を決めたのですか」


老人は少し考えて、


「…秘密だ」


老人は口元に人差し指を当てて、わるで少年が親に秘密のお願いをしている時のように笑いました。


「残念です。…あぁ、眠くなってきてしまいました。ごめんなさい、私はお先に眠ります、ね…」


「あぁ、お休み。良い夢を」

私は瞼を閉じました。

私の歯車が、とまって、

友人に言われたので、今回から会話パートと地の文の間には一行開けるようにしました。

読みやすくなっていたらいいと思います。

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