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銀影の白い凶刃

「どういうことですか、クラウド様?」


 突きつけられた銃口。ワイヤの声のトーンが低くなる。クラウドが一歩前に近づき、口を開いた。


「それはおかしいんじゃねえか?」

「なにがです?」

「契約はこいつの身柄を引き渡す代わりに金を払うことだろう?連れて行く前に200万スターラをきっちり払ってもらおうか」

「もちろん、それは後日改めて……」

「おいおい盛大なマナー違反やらかした奴がなに言ってやがる。こっちを信用していない野郎を信じろっていうのは無理難題ってもんだぜ」


 クラウドはまた一歩前へと進み出た。


賞金稼ぎ(ハンター)は金と信用、各々(おのおの)のポリシーで動く。貴族様の接待なんか要らねえんだよ。こいつの身柄は金と引き換えだ」


 ワイヤはしばらく沈黙していたが、「わかりました」と銀のスーツの懐へ手を入れた。


「ストップだ」


 鋭い制止の声と共にカチャリとクラウドの銃が音を立てた。


「賞金を支払うためHID(ハイド)を出すだけですよ」


 ワイヤは懐に入れたまま手を動かさずにクラウドへ説明する。だがクラウドは照準を動かさない。


「悪いがお前達に対する信用は最低レベルになった。次に怪しい動きをしたら撃つ」

「それは悲しいですね」

「だが喜べ、警戒レベルは最大に引き上げてやる」

「はあ……ついていけませんよ。何を根拠にそう言うのですか?」

「勘だ」


 クラウドの返答に、ワイヤは失望と呆れを表情に浮かべた。


「ビジネスを勘なぞで判断しないでもらいたいですね」

「俺のはけっこう当たるんでな。今回の依頼はきな臭い」

「真っ当なものだと思いますが」


 涼しい表情で返したワイヤをクラウドは鼻で笑い飛ばす。


「尾行をつけるのがまともだとでも?それに依頼の内容だが俺に隠していることがあるな」

「機密に関わることまで話すわけにはいかないでしょう」

「言い方が悪かったか?お前らは俺に依頼する時、嘘の理由を言っただろう」

「それも勘ですか。酷い言いがかりですね」

「認める気はないんだな……おいユビーナ、こっちへ来い」

「え?」


 視線をワイヤ達から離さないまま、クラウドがユビーナを呼び寄せる。ユビーナは困惑した顔でクラウドとワイヤ達とを見比べた。


「俺はこいつらから依頼を受けたが、たった今、事情が変わった」

「どういうこと?」


 ユビーナが顔をしかめる。


「依頼主に対して金の保証と互いの信用がなくなったってことだ。今の俺はお前をあいつらに引き渡す気はない」

「子供を人身売買しようとした賞金稼ぎ(ハンター)を信用しろってこと?」


 半眼で睨むユビーナにクラウドは苦い表情になる。


「そりゃ耳が痛いな……とにかくこっちへ来い。まあ、お前が自主的にそっちに行くなら止めないがな」


 ユビーナはわずかに逡巡する様子を見せたが、ぐっと拳を握りしめると、クラウドの方へ走り寄った。


「クラウド様、あなたとは良いビジネスができると思ったのですが」


 ワイヤが少し苛立ちを滲ませた声で非難の目を向けてくる。だがクラウドはそれを鼻で笑い飛ばした。


「ハッ……金を払う気がない奴が何を言ってやがる。何がビジネスだ笑わせるな」

「だから今きちんと支払うと……」

「次からは上着の後ろに隠したものが目立たないように、もう少し生地を分厚くしておくんだな。俺が知る限りHID(ハイド)にそんな形の端末はない」


 そう言うや否やクラウドはユビーナを背後に隠して光線銃(ビームガン)引き金(トリガー)を引いた。


「がぁあああ!!?」


 黒ずくめの男の一人が光線に当たり、苦悶の声をあげて崩れ落ちる。射線上にいたワイヤは隠していた銀色の棒を抜き放ちつつ、緑色の光線を後ろに飛んで避けた。

 ずれたサングラスを人差し指で直したワイヤが持ち手のスイッチを押すと、銀色の柄から白く光る刀身が現れた。残った黒ずくめの三人も散開して同じ武器を取り出し、展開させる。


「レーザーソードか……しかも軍用だ。やっぱただの秘書じゃねえな。傭兵崩れか?」

「答える義務はありませんね」

「やっぱり金を払う気はなかったみたいだな」

「武器を抜いたのはあなたが攻撃してきたからです。立派な正当防衛ですよ」


 ワイヤがだらりと無造作な構えをとる。クラウドもユビーナを庇ってじりじりと後退しつつ光線銃(ビームガン)を握り直した。

 互いから漏れ出す殺気が辺りに充満していた。


「おじさん!」


 肌を刺すような緊張感に耐えられずユビーナが声をあげる。


「おじさんじゃなくてクラウドだ!なんだ?」

「なんなのこの状況!?」

「交渉決裂ってことだ。このコート持ってろ」

「わからないけどわかった!」


 ユビーナが投げ渡された白いコートを腕に抱える。

 左手が空いたクラウドはポケットから小さな球形の装置を一つ取り出した。ワイヤがそれを見て訝しげに尋ねた。


「なんですかそれは?」

「答える義務はねえな」


 おうむ返しのようにそう言ったクラウド。ワイヤが苛立たしげに黒ずくめへと指示を出す。


「少女さえ確保できればそこの賞金稼ぎ(ハンター)の生死は問いません。やれ」


 正面から一人が地面を這うような低い姿勢で突進してきた。残る二人は左右から飛びかかってくる。


「クラウド!」


 ユビーナが叫ぶ。だが、クラウドは不敵な笑みを浮かべていた。


「おいおい。相手の武器が分からないのに突っ込んでくるのは蛮勇を通り越して阿呆だぜ?」


 左手を突き出したクラウドが球形の装置を指で飛ばした。


 宙に放られた装置がパンとはじけ、光の網が展開される。大きく広がった網は襲いかかってきた三人をまとめて包み込むと、みるみる小さくなって男達ごと装置の中へ仕舞い込まれた。


 地面に落ちた装置をクラウドが拾い上げる。ワイヤが驚愕をあらわにした。


「な……!?それは一体……」

「大サービスで教えてやる。これの名前は『マルマルツカマエルン』だ」


 胸を張ってそう言ったクラウド。ワイヤの目が点になる。


「は?」

「だから『マルマルツカマエルン』だ」

「……なんですかそのふざけた名前は」

「作ったやつのネーミングセンスだからしょうがないだろ。これは簡単に言えば物体転送装置と物体縮小装置を合わせたものだ。これから飛び出す網の中に入れたものを、このちっこい空間の中に閉じ込めることができる。中はちゃんと生物が生きていける環境にしてあるから大丈夫だ……たぶん」

「そこは言い切ってよ……」


 最後の方で歯切れの悪い言い方になったクラウドにユビーナが呆れたような視線を向ける。


「あいつの発明はとんでもないが、欠陥や故障が多いのも事実だからな……」

「なんでそんなものをいま使ったの」

「作動しなかったら銃で撃つから問題ない」


 数の不利を一瞬で覆されたことに焦ったワイヤだが、すぐに落ち着いてレーザーソードの切っ先をクラウドへ向けた。


「先手はしてやられましたが、私が部下たちのように行くとは思わないことです」

「それは次の場面でやられる悪役の台詞だぜ?」

「……いいでしょう」


 表情を消したワイヤが一歩踏み出す。


「!」


 何かに気づいたクラウドが光線銃(ビームガン)を撃つと、ほんの1メートル先で光線となにかがぶつかって火花を散らした。


「よく対応しましたね」


 ワイヤの持つレーザーソードの刀身はそれほど長くない。十メートル以上離れている相手に届くはずもなかったが、クラウドは何かを見抜いたようだった。


「刀身が伸びるタイプか」

「ご明察。少々扱いが面倒ですがその気になれば100メートル先のものでも斬れますよ」


 クラウドの持つ装置(マルマルツカマエルン)を警戒してか、ワイヤは距離を詰めてこない。しかしクラウド達は、彼の攻撃の間合いの中にいた。


「くそっ……ユビーナ、駅まで走るぞ。俺の体の影から出るなよ」

「なにそれ走りにくい!」

「文句言うな。ちょっとでも隙を見せたら斬られるぞ!」


 ワイヤから放たれる凶刃を撃ち落としながら、クラウドとユビーナは路地を後退していく。


「面倒ですね……」


 疲れたようなワイヤの声にクラウドの背筋が凍った。

 ワイヤがレーザーソードを脇だめに構える。

 それを見たクラウドはなりふり構わず前方を走るユビーナに覆い被さった。


「伏せろ……!!!」


 白刃一閃。


 直前までクラウドの首があった高さを光が通り過ぎたかと思うと、路地の壁はおろか、ワイヤの周囲一帯にあったものが丸ごと切断された。

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