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列車上の激戦

めっちゃバトル。


 ダンッッッッ!!!

 

 ガガガガガガガガガ!!ガンッ!ビシビシッッ!!!


 ユビーナを抱えたクラウドが貨物コンテナの上に降り立った直後、鋭い音と火花が散った。

 

「対応が早いなおい。ちったぁ、休ませろや」


 ピュンピュンピュン!!!

 

 いつの間にか抜き放っていた光線銃を後ろ手に三点バースト。着弾ちゃくだんを確認もせずに、クラウドはユビーナを抱いてコンテナからコンテナへと駆けた。


「っっどうなってるの!?」

ききれなかった追手だっっろっ!」


 ピュンッ!ギャイーン!!


 息つく間もなく襲い掛かる凶弾きょうだんち落としながら、二人は列車中央のコンテナ間にすべり込んだ。


「追手は二人。もう連絡は行ってるだろうからこの列車に乗り続けるのはやばいな」

「ど、どうするの」

「チャチャっとご退場(ねが)って、次の駅に着く前に列車を変えるぞ。」

「た、戦わないといけないのね」


 年相応としそうおうおびえるユビーナ。焦らず光線銃を構え直したクラウドは安心させるようにユビーナの頭をポンポンと叩いた。


「お前は安全なところにかくれてれば大丈夫だ。だからそんな顔すんなよ」

「こ、子供扱いするなっ!」


 ユビーナが顔を赤くしてブンブンと手を振り回す。


「とにかくこのコンテナの中に隠れていろ。万が一俺がやられたらこれを使え」


 クラウドはふところから取り出した黒いキューブをユビーナに渡した。


「さっき使ったやつ?」

「見た目は似てるが、効果が違う。下に赤いボタンが付いているだろ?」

「あ、うん」


 ユビーナがキューブをひっくり返すと、真ん中に四角い赤色のボタンが付いていた。


「なるべく使って欲しくないが、お前一人になって逃げきれそうもない時は使え」

「使うとどうなるの」

「きっかり二星系ぶんの範囲内にあるどこかの星に飛ばされる。場所はランダムだから気を付けろよ」


 「それと……」とクラウドは小さな銀色の機械を追加で渡した。


HID(ハイド)の予備端末だ。俺の仕事仲間が五、六人登録されてる。逃げた先で安全なところを見つけてバームロールって奴に連絡しろ。他の奴らには連絡しなくていい」

「わ、わかった」

「あと、『ルージュ』って奴からの連絡が入っても無視しろ。面倒なことになる」

「………女の人?」

「……そうだが。なんだよその目は」

「べつに……」


 ユビーナが何故少し不機嫌になったのか、クラウドは訳が分からなかった。










「っし、やるか」


 クラウドは光線銃のエネルギーメーターを確認して深呼吸、コンテナの屋根に一気に飛び出した。


 ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!

 ガガガガ!!ビシッッ!!


 姿を見せるや否や飛んできた弾丸を、自分が斜線上にいる二発のみを迎撃、間髪入れずに光弾を四発撃ち返す。

 放たれた光弾は二発、一直線に黒づくめの男二人の胸に向かった。

 男達は左右に身体を低く倒して回避する。しかしそこに合わせるように、床に跳弾した光弾が男達の眉間みけんせまっていた。


「っっっ?!!!」


 無理な体勢で首をひねって避けた男の一人が、足を踏み外してコンテナから滑り落ちた。

 

「死ね!!」


 もう1人はレーザーソードで光弾を斬り払い、床を這うような低姿勢のまま急接近してきた。


「お前がな!」


 クラウドは振り抜かれた光刃を難なくかわし、足刀蹴りを黒づくめの鳩尾みぞおちに叩き込んだ。


「ぐぅっっっっ!!」


 後ろに蹴り飛ばされた男は転がりながら受け身を取ると、床を蹴ってさらに後退し、膝をつく。そしてレーザーソードを脇に構え、腰を落として前傾姿勢になった。


「っっ!!」


 クラウドは追撃の足を止めた。一歩先が崖下になったかのように、それ以上前に出ることができなかった。

 脳裏に浮かんだのは数刻前に一戦を交えた、ズッパ伯爵の執事ワイヤ。目の前の男と銀髪の執事の構えが重なる。


「やり辛え構えだな」

「一撃避ければいいと思うなよ?射程こそ短いが、お前を千切りに出来るくらいは放てる」

「そうかよ」


 ワイヤと戦った時に比べて地形が悪い、とクラウドは分析する。男が放とうとしている抜刀術は今みたいな直線上の地形でこそ真価を発揮する。疾走しっそうする貨物列車のコンテナの上で遮蔽物しゃへいぶつもない平坦な長方形、という逃げ場のない地形で相手をするのは、かなりこちらが不利だった。

 クラウドの記憶が正しければ、男が使っているレーザーブレードはワイヤの持っていた物と同じフォース社製『F1123式レーザーソード』。ワイヤの使っていた軍用程の出力は無いが、射程距離は同じく最大100メートルといったところだろう。光刃の距離は持ち手のボタンで調整できるので、近づこうが遠ざかろうが確実にクラウドの急所を捉えてくる。

 逃がすべき存在(ユビーナ)がいる以上、クラウドに退く選択肢は存在しない。


 ならば、作戦は一つ。


 光線銃を絶え間なく撃ち続けて距離を詰める。近づけば近づくほど単位時間あたりに捌かなければいけない光弾の数が増えるので、どれかを処理し切れず、すきを見せた瞬間に一気に畳み掛ける。


 クラウドはふーっと、細く息を吐き、光線銃を単発シングルショットモードに切り替えて走り出した。


「馬鹿め!!」


 顔を歪ませた男は神速でレーザーソードを抜き放つ。頸動脈けいどうみゃくを切り裂く軌道で放たれた一撃を、クラウドは二発重ねて撃った光弾でらした。

 光刃を逸らすために撃った二発の後ろに、男の眉間と胸に二発、両肩に二発、膝に二発の計六発の光弾が迫る。


「舐めるなぁ!!!」


 素早く刃を収めた男は同じ構えに戻ると、裂帛れっぱくの気合と共に六発の光弾を三刃の線で斬り払う。

 眉間、眼球、人中、頸動脈、鎖骨、肘、指先、心臓、肝臓、大腿部、膝、足先。クラウドは上から下まで全身の急所を狙いつつ、床の跳弾も合わせながら、無数の光弾を放ち続けた。しかし、男はクラウドのブラフも本命に隠した本命すらも見切って全弾を斬り落としつつ、針の穴を通すような隙間を狙って斬撃を入れてくる。クラウドは早撃ちで光刃を弾き、返す銃口で男に光弾を放った。

 

 ジリ、ジリとクラウドと男の距離が詰まっていく。

 一弾一刃の間合いが一歩詰まるごとに、処理すべき攻撃は加速度的に増してゆき、始めはさばけていた攻撃が少しずつ互いの身体をかすめるようになっていった。

 険しい表情で光刃を放っていた男が一転、汗ばむひたいに歪んだ笑みを浮かべた。


「クハハ……愚かな奴だ。距離をわざわざ詰めてくるとはな」

「あンだよ?」

「お前の得物の光線銃は中距離で戦ってこそ。近距離になればなるほど後ろの死神の鎌が近づいていくぞ?」

「そのまんまお返しするぜ。お前の攻撃は中距離(ミドルレンジ)の方がまだプレッシャーがあった。今はぬるくて欠伸あくびが出そうだぜ」

「一発毎に『構える』、『照準を合わせる』、『撃つ』、の三つのアクションを取らないといけない銃器に対して、こちらは『抜く』、『斬る』が一体となったワンアクション。近接戦において銃は刃に劣るのだよっっ!」

「!!?」


 男が大きく一歩踏み込んだ途端、そのプレッシャーが何十倍にも増したことにクラウドは驚く。

 左右からほぼ同時に光刃が迫る。それに対するクラウドの回答は一発。わずかに速い一撃目を出力を上げた光弾で逸らし、二撃目に一撃目を逸らして跳ね返った弾をぶつけてはじく。


「甘い!!」


 しかし既に構えを戻していた男の斬り込みが同時に三太刀。二太刀を光弾と銃身でからくもらすが、三太刀目が脇腹に突き刺さった。


「かはっっ!!」


 臓腑ぞうふに衝撃が走り、一瞬呼吸が出来なくなる。たまらず後退したクラウドの脇腹から鮮血は出ない。


「何か仕込んでいる様だな?ならばそれごと断ち切るまでだ!!」


 息つく間も与えず、首、腹、膝に光刃が迫りくる。首と膝をギリギリで守るクラウドだが、さっきとは反対の脇腹に一撃を喰らってしまう。


「クハハハ!!どうした!?動きが悪くなったぞ!!」


 動きが鈍くなったクラウドの全身に無数の斬撃が襲いかかった。体の節々(ふしぶし)が切り裂かれ、鮮血が舞う。


「くぅっ、そっ……!!」


 苦悶の声をあげ、クラウドは膝から崩れた。


「終わりだ!!!」


 だらりと腕が下がったクラウドの首に必殺の光刃が振り抜かれた。






 ガキィイイイイイン!!!!!






「なに!?」


 男の放った死の一撃は、膝立ちになるクラウドの頭上で静止していた。ありえない軌道変更に、男の動きが一瞬止まるが、すぐにクラウド目掛けてレーザーソードを振り下ろす。


 ガキィイイイイイン!!!!!


 しかし、またもや不可知の一撃によってその攻撃が阻まれる。


「誰だ?!」


 見えない襲撃者に、男は辺りを見回すが、星界を高速で走る貨物列車に遠距離から攻撃を加えることなど不可能だった。


「他の誰でもねえよ」


 そう言葉を発したのは満身創痍のはずのクラウドだった。


「なに!?」

「……『近接戦において銃は刃に劣る』か……。そりゃそうだろうよ。あの近距離(インレンジ)であの数の斬撃を捌くことなんか俺には無理だ」


 男が顔をしかめる。クラウドの言う通りなら、さっきまでのクラウドは自殺志願者。わざわざ勝てない距離で戦っていたことになる。


「意味が分からねえって顔だな?まあ、もう(、、)決着(、、)()()いてるから(、、、、、)教えてやる。俺が戦ってたのは初めっから中距離(ミドルレンジ)だ。お前が勝手に勘違いしてただけさ」

「どう言うことだ!?」


 要領を得ないクラウドの回答に男は苛立ち紛れに一歩踏み込む



 が



 ドヒュンッッ



 「?!」


 一歩詰め寄った男のほほを、後ろから撃ち込まれた光弾が掠めた。


「おっと、気を付けろよ?そのエリアはもう必殺圏内(キリングレンジ)だからよ」

「!?」

「お前の手数が俺を上回った訳じゃない。お前に直接撃ち込む俺の弾数が減ってただけだ。お前の攻撃をギリギリ死なない程度に捌きながら、俺はちょっと先の未来に弾を届けてた」


 クラウドが指さす先を見やれば、男の周囲にはいつの間にか、無数の小さな漆黒の穴が取り囲んでいた。


「そいつはワームホールだ。きっちり3分前の過去の俺から、未来のお前に花火のプレゼントだ。全部余さず受け取ってくれよ?」

「クソが!!!」


 毒づく男が動く間もなく、無数の光弾が男を貫いた。



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