3人兄妹の次男の友達と3人兄妹の次男。
電車を降りて外に出た。
あまり強い冷房が身体に合わないから、いつも弱冷房車を選んでいるのだけど、駅のホームに立ってしまうと冷房が恋しくなる。
ネットのニュースでは連日暑さを伝えているし、この街でも今年の最高気温を更新したらしい。雨でも降らないかな、ってちょっと期待もするけれど、通り雨どころか台風が近付いてきているみたいなので、それは嫌だなと思い直した。
神さま、どうかわたしに暑さと寒さに強い身体を下さい。そしたら今の身体を下取りに出します。
改札を出て北口へ。
約束の時間までは2時間ぐらい早いけど、遅くなるより良いと思って、家を早めに出てきていた。……今日が楽しみで、家にいても落ち着かなかったのだ。でも、さすがに2時間は早すぎたかもしれない。約束は午後からだけど、まだ午前中だ。できればどこかでお昼が食べたい。
ファーストフードとコーヒーショップ、どちらにしよう。のどが渇いているので炭酸が良いかな。でもこのあと友達と会うんだから、避けた方が無難だよね。じゃあコーヒー、よりは紅茶の方が好きだから、それならあっちのお店で気になってたフルーツトマトの冷製パスタにしようか。期間限定って聞いたし、今日食べられるならちょうど良いかも。
歩きながらようやく決めて、お店に向かう。お店はちょうど、友達の家の方向だ。待ち合わせ場所は直接家なので良かった。
……遊びに行くんだから、駅までは迎えに来て欲しいなぁ、なんて期待をしても落胆するだけなので、友達にはそういった気遣いを求めないようになった。友達のお兄さんなら、そんなのは言わなくてもわかってくれるんだけど。同じ兄弟でなんでこんなに違うんだろう。女性経験の差かな? お兄さんは遊び人っぽいし。
お店に向かう途中で、変な男を見つけた。両手に重そうにビニール袋を下げて、ふらふら歩いている。着ている半袖のTシャツには『ふれんどり~ふぁいあ』なんて書かれていた。ひらがなで書いてあっても言葉自体に友好的な雰囲気はない。だって意味は誤射だ。わからず着ているのだろうか。わかって着ていたら正気を疑う。
あんな頭の悪い服を着るような眼鏡男子は、わたしは友達しか知らない。というか友達だった。知らないふりをしようかな。
「次は、こう、悔いの残らないような一撃必殺を狙おう」
頭の悪い眼鏡男子が頭の悪いひとりごとを呟いていた。周囲を見回して人通りがないことを確かめる。誰かに聞かれたら通報されかねない。違うんです。この子は良い子なんです。テストの点も良くて地頭も良いんです。ただ変なんです。
とりあえず、見える範囲にはわたしと友達以外の人影はないようだ。危ない危ない。
「……ずいぶん物騒なひとりごとだね?」
「んぁ?」
やっぱり地頭も悪いのかもしれない。声をかけたら反応がどこか間抜けだった。
「聞いてたのか?」
「けっこう大きなひとりごとだったしね。聞いてたと言うより、聞かされたって感じかなぁ」
「恥ずか死ねる」
「……これぐらいで死んでたら、君は日本の人口ぐらい命があってもたりないと思う」
もっとか。地球上の生物だけで足りるかなぁ。
少し不服そうだったけど、友達もその通りだと納得したのだろう。そのことについては流された。代わりに別の質問が飛んでくる。
「それはそうと、ずいぶん早くないか? 約束って、午後からだよな?」
言えない。
友達の家に行くのが楽しみで、家を早く出てしまったとか。言えない。恥ずか死ねる。
「ぁ、えっと。じゃなくて。約束は、午後で、あってるよ?」
ごまかすことにした。眼を合わせないようにして、急いで他の話題を考える。
考えろ-。えっと、なにか。ぇー。……こういう時ってとっさに出てこないよね。ヒントとかとっかかりとか欲しい。すぐに話題が出てくる人って尊敬する。そういえば友達のお兄さんは、話題が豊富な人だったなぁ。しかも聞き上手。やっぱり遊び人っぽい。
……ん? ぁ、そう、これだ! 早く来たんだから早く遊べば良いんだ! 一緒にお昼を食べるとか、それぐらいの気遣いは友達にも出来るはず!
「じゃあ、また午後に」
「えっ」
「え?」
期待を裏切られた。むしろ期待通りだった。わたしはなにを期待していたのか。この流れで期待しちゃだめなのか。期待ぐらいしても良いじゃないか。期待がゲシュタルト崩壊しそうだった。
ぇー……。
「ちょっと待ってて」
わたしが打ちひしがれていると、友達がなにを思ったのかビニール袋を漁りだした。見ていると、紅茶のペットボトルを探し出してわたしに差し出す。
「はい、これ飲んで。熱中症には気を付けろよ?」
「ぁ、ありがとう……?」
「今日遊ぶの楽しみにしてたから、倒れられても困るし」
「そうなの!?」
思わず詰め寄ってしまった。
友達も楽しみにしていてくれたんだ。いや、それは、なんというか。
「なんだよ、驚くことか?」
「ううん。つい、嬉しくて!」
ちょっとテンションがあがってしまう。
いやぁ、持つべきものは友達ですね!
「じゃあまた、午後にお邪魔するね!」
「おう、待ってる」
あがったテンションのまま、友達と手を振ってわかれた。去り際に「君は素直なのかそうじゃないのか、よくわからない」と言っておいたが、友達にはなんのことかわからないだろう。わたしと遊ぶのが楽しみなら、今からでも遊んでくれれば良いのに。やっぱり変だ。
「なんの話をしようかなー」
この前の続きからだと、本棚と本のどちらが前か、って話からかなぁ。わたし的には本が前だけど、友達は本棚が前らしい。あっと、あの話はブックエンドが総受けって結論が出たんだっけ? そう、本を優しく支え続けて、本がなくても本棚とずっと一緒にいるブックエンドさんの包容力はすばらしい、って話になったんだった。となるとなにが良いかなぁ。学校の備品シリーズは出尽くした感があるから、次は部活動でとか、どうだろう? サッカー部と野球部だと王道すぎるからー……じゃあ、吹奏楽部と合唱部で。文系だけど体力が必要だし、両方音楽つながりだからそのあたりを絡めて。……吹奏楽部が前かな。
こういう趣味を話せる友達って、なかなか貴重だ。それに、外で趣味の話をすると、どうしてもまわりの眼が気になってしまう。お互いの家で話すのが1番楽で楽しい。友達は同じ趣味だけど性別は男だから、そのあたりも気を遣って、どちらかと言えば友達の家で話をすることが多い。おかげで友達のお兄さんや妹ちゃんとも仲良くなれた。ちなみにお兄さんも同士だった。むしろお兄さんが友達に布教したらしい。お兄さん、ぐっじょぶ。
友達にもらった紅茶を1口、飲む。
ぬるくなっていたけど、腐ってはいなかった。
恥ずか死ねる。(気に入った
ぁ、あとBL期待してこられた方はごめんなさい。
詐欺じゃないけど詐欺です。ひどいネタバレでした。