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 竜の涙が枯れ果てて、疲れ果て声も出なくなった頃に、女の子はやってきました。そして

「おはよう」

 と、いつものように言いました。服はぼろぼろで、あちこち怪我をしています。

「怪我しているの?」

 竜はとても嬉しかったのですけれど、とても心配になって尋ねました。

「大丈夫よ。ごめんね、遅くなって」

 そう言って、女の子はいつものように笑いましたので、竜はほっと安心しました。

「今日からは、もう帰らないわ」

 竜をゆっくりと撫でながら、女の子は言いました。竜は嬉しくって舞い上がりました。うふふ、と女の子は笑っています。

「これからは、ずっと一緒に居てあげる」

 それから、竜と女の子は、朝から晩までふたりきりで一緒に暮らし始めました。竜は毎日が楽しくて、嬉しくて、幸せでした。

 たくさんの春と夏と秋と冬が過ぎていきました。その間ずうっと、竜と女の子は一緒に起きて、一緒にご飯を食べて、たくさん話をして、そうして一緒に眠ったのでした。


 ある日、竜は女の子の様子がすっかり変わったことに気がつきました。

 カラスの濡れ羽色だった髪は、真っ白になっています。つるつるしていた顔は、竜と同じように皺が寄っていました。竜に乗るのが大好きだったのに、まったく乗らなくなりました。歩くのも、とてもゆっくりです。不思議がる竜に

「私は年をとったのよ」

 と、女の子は言いました。女の子はいつのまにか、おばあさんになっていたのです。あるいつもと同じ夜に、おばあさんになった女の子は、悲しそうに言いました。

「あなたをまた一人にしてしまうのね」

「そんなこと言わないでおくれよ」

 竜は、悲くなって、そう答えました。

「でも、きっとまた会いに来る。必ず、必ず、待っていてくれる?」

 女の子がそう言ったので、竜は、うん、と頷きました。

「お友達を作ってね」

 そう言って女の子は笑います。竜はうーん、と唸りました。それはとても難しい気がしたからです。そうして、いつものように二人で眠りました。


 次の朝、竜が起きても、女の子は起き上がりませんでした。竜は女の子の魂が、神様とやらのところに行ってしまったのだ、ということがわかりました。

 竜は悲しくて淋しくて、また、たくさん泣きました。

「淋しいよう、おはようって言ってよう」

 と、竜は泣きました。女の子は帰ってくるといったけれど、そんなこと信じられません。どうして女の子は嘘を言ったのでしょう。

「淋しいよう、お話してよう」

 と、竜は泣きました。女の子はお友達を作ってと言ったけれど、女の子以外は皆、怖がって逃げてしまうのに、そんなことが出来るわけがありません。

「淋しいよう、淋しいよう」

 竜はたくさん、たくさん泣きました。そうして、どうしてこんなに悲しくて淋しい思いをしなくてはいけないんだろう、と考え始めました。


 竜は、女の子より先に自分が居なくなればよかったのだ、と考えました。でも、女の子が一人で森で泣いていることを考えたら、それだけはどうしてもいけない、と思いました。それならば、女の子に出会わなければよかったのだ、と竜は思いました。そうして、気がつきました。

 竜は女の子に出会って一人ぼっちじゃなくなりました。けれど女の子のほうは、竜に会わなくても、一人ぼっちじゃなかったんです。どうして女の子は、皆と居ることをやめて竜と一緒に居てくれたのでしょう。

 そう思ってようやく、竜は女の子が嘘をついたり、出来ないことを頼んだ理由がわかったのです。竜はすううと息を吸い込みました。こんな時にはなんというのでしたっけ。

「ありがとう」

 竜はそう言いました。何度も、何度も言いました。


 朝起きたときも、ご飯を食べるときも、寝る時も、竜はまるで本当にそこに居るように、女の子の顔と声を思い出すことが出来ます。こんな時には「いけません」って怖い顔で言うだろうな、とか、こんな時は「いい子ね」って撫でてくれるだろうな、ってことが全部わかるんです。竜はどんな時だって、女の子のことを思い出すだけで、ふうわりと優しい気持ちになりました。


 竜はもう、正真正銘、生粋の一人ぼっちではなくなっていたのです。



おしまい。

「このあと竜は、女の子に良く似た目をした男の子と出会うのですが、それはまた別のお話」


と、言うわけで「竜の住む国」の外伝「一人ぼっちの竜」出来上がりました♪

本編の渋いクストとはちょっと違っていますが、童話として書きましたのでご理解ください。


感想・評価などいただけると励みになります。よろしくお願いいたします。


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