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 そんなある日、竜が一人で空を飛んでいると、たくさんの人の中で笑っている女の子を見つけました。竜は嬉しくなって、人の輪の中に降りていきました。すると

「きゃあ! 竜よ! 竜が来たわ!」

 女の子のそばで一緒に笑っていた女の人が、急に大声で叫びました。そして慌てて子供を自分の背中の後ろに隠しました。

「こっちへ来るな!」

 強そうな男の人が青い顔をして、奥さんを抱きしめて叫びました。

「あっちへいって! あっちへいって!」

 人々は手を繋いだり、抱き合ったりしながら、口々に叫びだしました。竜はびっくりしてしまって、おろおろと、まわりを見回しました。みんな怖い顔で竜を睨んでいます。

「お前が呼んだのか」

 誰かが投げた石が、女の子の額に当たりました。竜はとっても怒って、ごごう! と火を吹きました。皆はびっくり仰天して、すたこらと逃げていきました。怒った竜が追いかけようとすると、

「いけないわ」

 と、女の子が言いました。初めて聞く女の子の悲しい声に、竜は驚いて振り返りました。女の子の顔を見て、竜はとても悲しい気持ちになりました。

「森へいこう」

 女の子が言ったので、竜は女の子を乗せて飛び立ちました。そして、いつもの森の中に二人は降り立ちました。

「ごめんね」

 女の子は謝りながら泣き出しました。竜は女の子がどうして謝るのかが、わかりません。失敗をしたのは自分のような気がします。どうしたらいいのかわからなくなって、長い尻尾で女の子をくるりと包みました。

「あなたはこんなに優しくて親切なのに、皆はあなたが怖いだけなのよ」

 ぽろぽろと涙をこぼす女の子を見て、竜はまた、とても悲しくなってしまいました。

「もう僕のところに来てはいけないよ。君まで皆に怖がられてしまうから」

 竜は言いました。女の子が怪我をさせられたり、しくしく悲しそうに泣いたりするのには耐えられませんでした。こんなに悲しいなら、ひとりぼっちで淋しいほうがましだって思ったんです。

「さあ、もうお帰りよ」

 と、竜は優しく言いました。女の子は泣き止んで、そうっと竜を撫でました。

「皆にあなたのことをわかってもらうわ。待っていてね、必ず、必ず、待っていてね」

 女の子は、そう言って帰っていきました。


 それからたくさんのお日様とたくさんのお月様を見ても女の子は竜のところにはやってきませんでした。

 竜はたくさん泣きました。たくさん、たくさん、泣きました。だって、とても淋しかったんです。

「淋しいよう、淋しいよう」

 泣いても泣いても、涙が出てきて止まりません。でも、もう暴れることはしませんでした。暴れても淋しさは居なくならないことを知っていたからです。

「淋しいよう 淋しいよう」

 女の子と会えば淋しくなくなるのだ、とわかっていました。でも、竜が会いに行ったら、また女の子に石をぶつけられるかもしれません。きっとまた女の子を泣かせてしまいます。

「淋しいよう 淋しいよう」

 竜は泣きつづけました。きっと、女の子は皆と笑っているうちに、自分との約束を忘れてしまったのだろう、と思いました。それでも女の子が泣くよりかはずっといい。ずっとずっとそのほうがいい。そう思ったので、竜は一人ぼっちで泣きつづけました。

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