三
「泣いてるの?」
そのとき声が聞こえました。竜はびっくりして目を開けました。目の前には人間の女の子が立っていました。竜は言葉がわからないので、女の子が何を言ってるのか、わかりません。
竜は、あっちへいけ! って火を吹きたかったんですけれど、なにせ精も根も尽き果てているので、ふすーっという息が出ただけでした。竜はどうでもよくなって目を閉じました。
「おなかすいてるの?」
また声がしたので面倒くさそうに片目を開けると、女の子が赤い木の実を差し出していました。
「食べる?」
女の子は何か言って首を傾けました。竜は何を言われているのかわかりません。イライラして、あっちにいけ! と火を吹こうと口を開けました。女の子はその口に、ぽいっと木の実を入れました。竜がびっくりしたまま口を開けていると、女の子は次から次へと木の実をぽいぽいぽいっと竜の口に放り込みました。
もぐもぐごっくん! と木の実を飲み込むと、竜はすこし元気になりました。
「またくるね」
女の子は走っていってしまいました。竜は何を言われたのかわかりませんので、女の子は木の実を投げつけて逃げていったのだなと思い、目をつぶって眠り始めました。
目を覚ました竜はびっくりしました。目の前に沢山の赤い実が転がっています。小さな魚もぴちぴちと跳ねています。
「おはよう」
あの女の子の声がしました。女の子の服はとても汚れていて、頬や膝から血が出ていました。竜はもう、血が出たら痛いということを知っていましたので、この子はさぞかしいやあな気持ちだろう、と思いました。ところが女の子は笑っています。竜はびっくりして口を開けました。すると、女の子はまたしても赤い実や魚を竜の口に入れました。
「またくるね」
女の子はまたそう言って、去って行きました。
木の実と魚を食べてもう一眠りすると、竜はずいぶんと元気になりました。さて、もう飛べそうだぞ、と思ったのですけれど、どこにも行きたくありません。ここにいれば、また、あの女の子が来るのではないかと思ったからです。
そこで、同じ場所に座ったまま、ああお、おあよ、おはよ、おはよう、ああくーね、まあくうね、またくるね、と女の子の言葉を思い出しながら、練習しました。何度も何度も練習しました。
「おはよう」
次の日も女の子はやってきました。竜はとても嬉しくなりましたので
「おはよう」
と何度も練習した言葉をゆっくりと言いました。
「話せるの!?」
女の子はとてもびっくりしました。そしてにっこり笑ったので、竜はますます嬉しくなってしまいました。そこで
「またくるね」
と答えました。だってその二つしか知らないのです。女の子はしばらくぽかあんとして、それからコロコロと笑い出しました。竜も何だかおかしな気持ちになったので、女の子の真似をして生まれて初めて、ははははっと声を出して笑いました。
それからも女の子は毎日やってきました。毎日毎日、竜に話しかけましたので、しばらくすると竜はすっかり話せるようになったのです。
竜は毎日がとても楽しくて、幸せでした。淋しい気持ちはもうやってきませんでした。




