二
ある朝、竜は空を飛んでいました。遠くに仲良く連なって飛んでいるカモの一行を見つけたとき、あの「いやあな気持ち」は突然やってきました。
竜は、カモと一緒に飛んでみたらどうだろう? と考えました。それは、とてもいいアイディアな気がしました。よおし、と、竜はぐんぐんとスピードを上げてカモたちに近づきます。するとカモたちは
ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!
と鳴いて四方八方に飛び散らかってしまいました。仲良く一緒に飛んでいたカモは、一匹づつのカモになってしまっています。
竜はどうしたらいいのかわからなくなって、カモをめちゃめちゃに追い回しました。いやあな気持ちは、ますます大きくなりました。
ふんふん、と鼻から煙を吹き出しながら飛んでいると、巣穴の前で楽しく遊んでいる、ウサギの親子が目に入りました。
竜は、ウサギと一緒に遊んでみたらどうかなあ? と考えて、ウサギの巣穴の前にそうっと降り立ってみました。ウサギを驚かせないためにゆっくりゆっくり降りたんですよ。それなのに、ウサギたちはものすごい速さで、巣穴に飛び込んでしまいました。
竜は巣穴に鼻を近づけますが入れっこありません。ウサギが出てくるまで待ってみよう、巣穴の前に寝そべりました。だけれどウサギは待てど暮らせど出てきません。
竜は諦めてウサギの巣穴の前から飛び立ちました。すると、ウサギが巣穴から出てきて、大きく伸びをするのが空の上から見えました。
竜はもう辛抱堪らなくなって急降下すると、ウサギの巣穴をめちゃめちゃに壊してしまいました。いやあな気持ちはますます大きくなります。
竜はもう居ても立ってもいられません。ごう、ごごう、と火を吹きながらめちゃめちゃに飛びました。
怒ったまま、どんどん飛んでいくと高い山が見えました。竜はぶつかりそうな勢いで山肌に着地しました。まだまだ怒りはおさまりません。フウフウと荒い息を吐いていると、後ろから何かがドン! とぶつかってきました。
びっくりして振り返ると、そこには自分と同じ姿をした生き物が、目をランランと光らせて、こちらを睨んでいました。竜は別の竜に会うのが初めてだったので、とても驚きました。そして、とても嬉しくなりました。
でもどうしたらいいかわかりません。だから、同じようにどん! と体当たりをしてみました。
すると、もう一匹の竜は、竜にガブリ! と噛み付きました。これには竜もびっくりしました。その痛いこと痛いこと。生まれて初めての痛みでした。驚いていると、今度は尻尾で顔が曲がるくらい叩かれました。
そのしているうちに、もう一匹の竜は、また噛み付こうとしてきましたので、竜は慌てて逃げ出しました。もう一匹の竜はしつこく追いかけてきて、横から翼で打ったり、上からのしかかってきたりします。
竜は必死で逃げました。もう一匹の竜が追いかけてこなくなってからも、どんどん、どんどん逃げました。
とっぷりと日が暮れた頃、竜は疲れ果て落ちるように森の中に降り立ちました。精も根も尽き果てて、木々の間にぐったりと倒れ込みました。いやあな気持ちはもう限界です。竜の目からぽちん! と涙が落ちました。




