第5夜 人質ならぬ物質
突然後ろから声がした。
振り向くとそこにいたのは、ソファーで半身を起き上がらせている少女。
「起きて....いたんですか。傷はもう大丈夫ですか?」
「うん.....平気、吸血衝動がどうたらの辺りから起きていたわ」
少女ーー天宮世良は僕にその紅い瞳を向けてきた。
「私がここにいる間、アナタに私の持ち物を預けるわ。ここを出る時には返してもらうけど、仮に私がアナタを襲った時はソレをアナタの物にしていいわ」
「持ち物?」
「そこに入っているわ」
彼女が指差したのは....四角い形のリュックだ。(そこそこ大きい)
「......」
「....どうしましたか?」
「遠慮せず選ぶといい、どうせ私の手に戻ってくるのだから」
中に入っていた物......それは。
携帯ゲーム機(新しい機種)
ノートパソコン
スマホetc
...とりあえずバンパイアのイメージをぶっ壊された。
とりあえずノートパソコンを預かる事にする。
「で、傷の具合はどうなの?」
「多分、2、3日あれば完治するわ」
あの見るからに深々と切られた傷を数日で....さすがバンパイアと言ったところか?
「言いかけたところだったんですが、バンパイアは食事としてではなく、自らの能力を上げる必要がある時に人間の血を飲むそうです」
「具体例を挙げるとすれば、ミアがアナタから血を採って私に飲ませたら出血が止まったでしょう?あれはアナタの血で治癒力を強化したからね」
「じゃあ次はヒトをバンパイアに変える方法ーー」
「血と魔力を対象に流し込む.....ね」
ミアは苦笑いを浮かべた。
「あのー、セラさんは休んでた方が.....」
「水持ってきてくれる?」
ミアがこっちを見てくる。
「そこの棚に入ってるのならどれ使ってもいいよ」
ミアはため息をひとつ吐くと台所に走っていった。
「で、なんでそんな大怪我しているんだ?」
僕はセラの血塗れの身体を指差す。
「....私、アナタより遥かに年上なんだけど」
「見た目が中学生じゃな〜」
「....怪我が治ったら....覚えてなさい」
「襲わないんじゃ、なかったの?」
セラは露骨に「しまった」という顔をした。
「それはその、こ、言葉の綾って奴で...血を吸おうとアナタを襲ったら、そのノーパソをアナタに譲るわ」
「んで、その傷はどうしたんです?」
途端に不機嫌そうな顔になるセラ。
「.....ファンタジー小説とかそういうのによくいるアレよ」
.......。
「わかんないです」
そもそもバンパイアの出てくる話を読み漁ってる訳じゃないし。
セラはため息をひとつ吐くと気だるそうに言った。
「バンパイアハンターよ、少なくともあの女はそう名乗ったわ」
「人間にやられるなんて案外大した事無いんだな、バンパイアってのも」
「....お前の寿命を6、70年削ってやろうか?」
聞いた耳が凍りつきそうな冷たい声で返された。
「何やってんですか!2人共っ!!」
ミアが水の入ったグラスを載せた盆を持って入ってきた。
「...ミア、遅かったな」
「ごめんなさい、入るタイミングを計っていたので.....。大河さん、いくらセラさんでも不意を突かれたらやられますよ。と言うか、セラさんだからこれだけで済んだと言えますよ」
「え?」
「反撃して相手にも大怪我を負わせて退けたんです」
「反撃せず、避けていればもう少し怪我が軽くなってたかもね」
「アレは攻撃した方が良かったと思いますよ、下手に避けても当たっていたでしょうし」
キリが悪いな....。