第19夜 別れの時
さて、当面の危機は去った。
それはいい。
でも、一つ問題が出来た。
「なんですか?」
「2人をどうやって連れ帰るかだ」
片方は足がいう事を聞かず、もう片方は絶賛気絶中だ。
「え、でも....」
「君らの家って近いの?」
「自転車でこの時間からじゃキツいかもです」
「はい、決定。で、どうやって連れ帰ろうか?」
ミアは首を傾げて聞いてきた。
「1人ずつじゃダメなんですか?」
「面倒臭いし、一応自分達の性別把握してるよね?」
この公園は夜になると人気がない。
裏を返せば......、とりあえず彼女達のどちらかが平常運転なら面倒でも1人ずつ運ぶなり、ついて来させるなりしただろう。
でも2人共ダウンしている今となっては.....。
「水道とかありませんかね。ここ」
「あるだろうけど....ああ、でも水を汲む物が無いし、起きたとして歩けるの?」
セラを起こして、ついて来させるか、待たせるかすればこの問題は解決するだろう。
「汲む物が無いなら、水道まで移動すればいいんですよ」
「ああ、ってどうやって連れて行くの?
無言で僕を指差すミア。
「うん、それはいいよ。でも、君をここに残して行くのかい?」
「う.....ぐ」
小さく呻く声がした。
「必要無かったみたいですね」
「だね」
「.....意識が戻ってもまともに動けないなんて」
持ち上げて落とすなんて....ダメージが大きいよ。
タナトスの輝く手の一撃はセラの体の魔力の流れをかき乱し、体の自由を制限しているらしい。
ある程度なら動けるようだが、自衛能力は0に等しい状態だろう。
「歩けますか?」
「歩く分には歩けるけど.....」
うん、めちゃ遅い。
おまけにフラフラしてて危なっかしい。
結局、ミアを自転車の荷台に乗せて、セラのペースに合わせて自転車を押して歩く。
行きにかかった時間の4倍の40分をかけて家に帰り着く。
電気を点け一息つく。
時計を見ると9時を少し過ぎていた。
「....じゃあ、遅くなったけど夕飯作るね」
「お願いします」
「....うん」
送別会のつもりがとんだ事になったな。
ともかくシチューを作り終えて食べ始める頃には10時になっていた。
シチューが空腹に染み渡る。
2人の疲れた顔が和んでいるのを見て、この生活が名残惜しくなる。
まあ、怪我や疲労の回復でもう少し居座られそうだけどね。
・・・・・・・・
「セラさん、セラさん」
物置部屋で崩した寝床を作り直しているとミアが話しかけてきた。
「どうしたの?」
ミアは戸惑いと好奇心がない交ぜになったような顔をしていた。
「タナトスのナイフは魔力で形成されてましたよね?」
「そうね」
一時的とはいえ、私に傷を付けていたしね。
そういえば、複製のはともかく、本物は普通のナイフだったのかしら?
「それをですね。掴んで投げたんですよ、大河さん」
「えっ!?」
きっと今、飲み物を口にしていたら噎せ込んでいただろう。
「じゃあ、彼は......」
「適性があるんだと思います」
・・・・・・・・
あれから3日が経った。
学校から帰って、少し豪華な夕飯を作って2人に振る舞う。
少し食休みしてから2人は外の闇の中に出て行った。
玄関のドアを閉めると2人がそこにいるというのはわかるけど、どんな顔かがわからなくなった。
あっちには見えているのだろうけど。
「じゃあ、コレ」
保険と称して渡されていたパソコンをセラに差し出す。
「どう?バンパイアは約束を守るのよ?」
笑った気配がした。
差し出した手が軽くなる。
周りの家を警戒して、控えめに別れの挨拶を交わす。
そして2人は本当に闇の中に溶けていった。
また明日から1人なんだ.....。




