第六話(幕間)
エウリケは紗綾が必要な物を創造魔法で作っているのをただ黙って見ていた。なんだか心の中に霧が降りたような感じだ。マスターが言った、『エウリケは私と一緒にいなくてもいいんだよ』というあの言葉が漠然とした不安を連れてきたのだった。エウリケはマスターと離れるつもりはない。ないがマスターはどうだろうか。
エウリケ自身光の中にいたというのに紗綾を初めてみたときまぶしいと思った。
それまでは平気だった一人が恐ろしくなった。契約の言葉を言ってみても紗綾の反応は芳しくなくどうしていいのか戸惑って、言葉を繰り返し、一心に見詰めた。彼女の重要性も説明できたと思う。
エウリケの肩まで伸びた髪がさらりと揺れる。髪、と心の中でつぶやく。つい数時間前に大気に包まれた。湿った空気。水が冷たいと感じてそれがどういうことなのか知った。動く。言葉では知っていた。実際の『動く』をくれたのはマスターである。地面に倒れ伏している紗綾をみてエウリケの心が痛んだ。起こさなければ、と思った。
そういう風にエウリケは産まれたのである。ただ一人で。誰もいなくて。殻をかむったままのエウリケ。永遠にも近い時をそうしてすごした。今思うとぞっとする。
マスターができて嬉しいし、良かったが、紗綾はそうではないのだろうか。
エウリケはいらないのだろうか。
何か紗綾に対してアピールできるものはないか。
エウリケは神龍だ。龍の姿になってみるのはどうだろう。
エウリケを褒めてくれ、必要としてくれるかもしれない。
「マスター、エウリケは龍になれます」
「うんそうだね」
「マスター、エウリケは龍になります」
「え、は、いやいやいや。ちょっとまて。意味分かんないけど嫌な予感。やめてやめて。龍って本体だよね」
「はい」
「うん、やめようね。エウリケ」
笑顔のマスターに肩を力強くつかまれた。
龍の姿になるアピールはなる前から禁止されてしまった。
他、エウリケができること。いやエウリケだけができること。
エウリケができることはマスターもできるです。
しょんぼりしてしまう。マスターはエウリケをほうり出したりしないはずだ。契約の瞬間エウリケはマスターを感じた。魂に触れて今の姿になった。マスター心をくすぐる姿に!
紗綾にそんなものはなかったことをエウリケが知る機会は幸いなことになかった。
マスターが無責任に産まれたばかりの自分を放っておけるわけがないのもわかってる。だって旅の用意も二人分だ。
だが怖い。龍族の神龍の自分が怖がっている。たった一人のひとに見放されるのを。それはもちろんマスターの翼はこの世界を覆うくらい大きい特別な、神様なのだけど、そうでなくてもエウリケはマスターを大好きになったです。
エウリケ自身の価値がほしいと痛切に思った。マスターに望まれる存在になりたい。
そこにいていいから、そこにいないと困るに変わりたい。でもそれは長い月日をかけて自分というものを積み重ねてきた者にしかもちえないものだろう。
だったら、この旅の間に紗綾にとってのエウリケの価値を必要不可欠なものにしたい。
そうすれば、マスターとずっと一緒です。