第五話
はっ、ちょっといい話にごまかされかけたけど、エウリケを女装幼児にすることは心から遠慮したい。だからと言って力ずくでっていうのは十歳のエウリケ(実質零歳)相手に大人げないと思うのだ。(先ほど確認した)
私とエウリケの間で力と知識の受け渡しがあった折、主従の契約が結ばれているのでそれにたよるか。とその前に、えーと従者契約っていうのはなにかからだよね。
そはつばさのひとと交わされる剣と盾の契約。契約者は体を剣に血潮を盾に心を翼にして主人を守らなければならない。行く道の露を払い来た道の泥濘を血で固め、ってなんか、調べたらすごいのでてきたよ・・・・!
大袈裟だけど多分なんの誇張もないよね。現在の常識ではそれにあやかって従者契約を結んでいる。けれど言い伝え通りじゃなく簡略化されたそれはちょっと徒弟制度に似ていたので深く調べなかったのが大間違いだった・・・・。ここまでの間にエウリケのお着替えは隙なく完了しており、真一文字に結んだ口が絶対に脱ぐものか
とこちらに意思を伝えてきていてですね。二重の意味においてぶっちゃけどうしたらいいのかと。契約はなー、もう交わしちゃう前はなんにもしらなかったしなあ。で知らんぷりするには重い。重すぎるよ。
まあね、なんで龍族?とは思ったけどね。契約調べたときには種族の特定はなかったからなー。ただハイスペックの種族が選ばれると。龍族といったら王者じゃないですか。しかも金髪金眼イエローダイヤモンドのような角。
知識の中を調べるとでてきた。神龍と呼ばれる今では絶滅した龍族の神ともされる存在。どんだけだよ。あのトルソーには種別問わずふさわしいとされる従者を産む能力がそなわっているようだ。そして普通の契約とは違い、私とエウリケが交わした契約は死をもってしか切ることができない。
前向きに考えると赤ちゃんの面倒をみると思えばいい。実際、このままのエウリケをほっぽり出すことはできないんだから。
でも、経験でいったら十七歳平凡がそうそう役に立つか?という話である。身一つでもどうかというのにさらに知識だけの子とか。私の不穏な空気を感じたのかエウリケが制服の裾を懸命に握ってくる。愛くるしい幼児(女装)だ。その頭をなでて宥めながら、ふと考えまいとしていたことを考えてしまった。エメロテーナーの寿命はほぼ不老不死。それより上位の者にしか殺すことはできない。ではその私は?そっと答案をめくるように恐る恐る情報を探った。
不老不死でした。でも命を大地に返すことも可能のようだ。が、あれこれ制限がついている。これは今すぐでなくていい。十七かそこらで死にたくないし。
念のためにこの世界の常識とてらし合わせると魔力の多いものほど寿命がながく、少ないものほど短命だ。
人間は約百年くらいで(もちろん例外もある)亡くなる場合が多数を占めているので私とエウリケは多分定住は難しいだろう。私もエウリケも成人までは成長するらしい。それがものすっごく時間がかかるのだ。千年単位でも難しいとかどうだろう。
「?」
きゅっと掴まれた手を握り返す。エウリケは単純に嬉しそうだ。
その笑みに笑い返しながらも胸が詰まる感じがする。
世界で二人ぼっちだ。
私は羽の生えた異世界人で、エウリケは神龍だ。
エウリケに関して言えば両親もいない。わたしもこちらでは同じだけど忌憚なく言わせてもらえばエウリケの産まれは特殊なものだった。年齢だって、性別だってそうだ。その原因は私にある。幸い契約には絶対服従などは含まれていないので良かったもののそれにしたってこちらの良心をぐりぐり抉ってくれる。
「エウリケ、普通の龍族の姿、とれる?」
「はい」
瞬時に金髪が白髪に目が碧眼に角の色が乳白色に変わった。
「マスターの服の色です」
自慢げに胸を張られるが、うん、でも、マスター後で着替えるからね。・・・配色は白と青にしよう。
「エウリケはこれから人前ではその格好でいてね。あと種族名を聞かれたら竜人族ってこたえてね」
「?はい」
「自衛しつつ、正体を隠すためだから。ごめんね」
人ではなく竜人族の姿をとらせたのは周囲に対する牽制のためと人の姿をとらせることを良心が許さなかったという事情によるものである。
赤ちゃんになにさせてんだ私と思いつつもエウリケに言い含める。
竜人族は大体人の十倍の長さを生きる種族で、世間にもいる。人間と主従になっているのはすごく珍しいけどねー。
龍族同士は互いが分かるが、竜人族は自己申告と見た目なのでまあまず、嘘とばれないだろう。
「マスター、竜人族になるのは構わないのですがどうしてそうするのですか?」
「私の羽と同じだよ。神龍がいるってわかったら大騒ぎになるから。こっちの都合で悪いんだけど隠していてもらえないかな」
ああ、無垢な赤ん坊になんてことを!
女装を超えて変身させてしまった。あと身元を偽らせた。なまじエウリケがこちらの言うことをはいはいと聞いてくれるので、
「嫌だと思ったらすぐに言ってね」
やたらと力の入ったお願いをしてしまう。
「服を着替えるのは嫌です」
売てば響くように返された。くっ。
***
服を着替えさせるのは諦めて、これからどうするか・力は何をメインにするかをきめないといけない。
エウリケに聞いたら迷わず剣士と答えた。意外な気もするがこういうところは男の子だと思う。魔法属性は水。剣と剣帯もつくらなくちゃな。私は羽を収納と出したまま透明にすることができたので風魔法と剣(エウリケだけに前衛をまかせるわけにもいかないので)をつかう魔法剣士としてギルドに登録するつもりだ。ギルド・・・・ファンタジーだねえ。このギルドEからSSまでのランクがあり、どんなに実力があっても初めはEから始まる。職業、能力も自己申告だ。すばらしいよ。自己申告!何と構わず拝んでしまいそうだ。
「マスター、竜人族になる訓練をしたいのです」
エウリケが訓練の許可を求めてきた。
「うん、私も力の調整したいから一緒にしようか訓練」
地味にエウリケが喜んでいる。これは大切なことなので日課にしよう。それから。
「エウリケ、エウリケは契約で私と一緒にいるよね」
「はい」
「それはエウリケの意志じゃないと私は思う。エウリケは私と一緒にいなくてもいいんだよ?」
「マスターはエウリケがいらないですか」
「いやそうじゃなくて、エウリケがしたいようにしてほしいと思う。契約はもう結ばれちゃっているけど、契約に囚われずにいてほしい」
落ち込んだ様子のエウリケの頭をなでる。これは雛の刷り込みに近いから残酷かもしれないけどだからこそ言っておかなければならない。でも言うのには勇気がいった。
私はエウリケの親なのだと思う。あの瞬間に親になってしまった。でも普通親と契約なんてしないと思うのだ。
その歪を少しでも正しておきたい。
まっとうが一番だと思うのである。それがエウリケのためにも私のためにもなるだろう。