第四話
「ふう」
透明な水を掬い一息つく。ここの水は飲めるし、薬や魔法水的な物にも最適だ。いろいろな知識・常識に頭はパンクしそうだけどそのかいがあったというべきだろうか。いやそれだけならまだしも魔術、体術、剣術、戦闘技能全般習得しちゃってる。いきなりラスボス化ですよ。指先一つでちゅどんとは。魔力(いまだから感じられる)は正直自分でもそこがみえません。がくぶる。
そしてこの遺跡、禁域の中心でした。そんなところから普通の顔で出てったらと思うと、お、おそろしやー。
私に与えられたものは当たり前のものではなく、その力に対する責任の在処は常に自分にあることを忘れたら駄目だと思う。やったことはきっと何らかの形で返ってくる。そうじゃなくてもなにも考えずに使っていい力じゃない。考えることが多すぎて自縄自縛になっている私に構わず、用意した料理(腹が減っては何とやらなので)を次々に攻略していく金髪金眼。・・・・・嬉しそうだ。お目々がキラキラしている。エウリケが預かっていた全てを受け取ったわけだけど肝心のところは抜け落ちてて自分で何とかしろってことでしょうか。それでも十分すぎるほどのあれこれをもらったわけだけど。エウリケは私に仕える従者という立ち位置らしい。が、知識が先に立っているため、経験をつませなくてはならない。これ私の仕事。女子高生に子育てしろと!?エウリケの外見年齢は十一、二歳。これは私がエウリケから受けた印象で決まったようである。耳が尖っているのは龍族だからのようだ。頭にも硬質な細い角が二本ある。でもお色気お姉さんとか連想しなくてよかったあ。成人女性を躾けるって、傍から見たらとんでもない光景だ。想像しただけで胃がいたくなる。
エウリケが生まれた意味についても抜けているので気にとめておかないといけない。
考えてばかりでも仕方ないので私も食事に手をつける。創造魔法でだした材料を、同じくつくった器具で調理したのだ。
玉子コロッケおいしい。日本人にはやっぱり米だ。米が甘くて噛んでいると幸せになってくる。
抜けといえば帰る方法も無かった。これは故意に隠蔽してるのかそもそもないのかわからない。帰りたいけれど深くまで調べるのはこの世界の根幹をかすめてしまう恐れがある。それって異邦人の私がしてもいいのだろうか。
箸のとまりがちな私の横で相変わらずエウリケがまぐまぐしている。はらぺこくんか。全くもってかわいいやつだな!ぐりぐりしたくなる衝動を抑えつつ、コンソメスープをのむ。
ごっきゅんとすごい音がした。エウリケだ。
「マスター、これから先どうなさるおつもりです?」
「とりあえず、羽を隠す練習からしないとね」
「宗教国ルチアにでも行ったら現人神ともてはやされますのに」
「もてはやされたくないから」
「お厭ならちゅどん?」
「ちゅどんしない!」
こいつめ唇に人差し指をあてて首を傾げやがった。小さい指で小さい唇を抑えてかわいいなあくそう。
「エウリケはどうするの?」
「マスターについていきます。主従契約を結んで活動している民は多くいますから」
想定内の返事だ。となるとあとは私次第。どうしよう。あれこれ決めることが多すぎて手がでない。選択肢が多すぎるのだ。できることは多い。でも肝心な私がしたいと思うことはできない。ううん。どうしたものか。
とりあえず目につくところから決めていって大事なことは長い目で考えることにしよう。
エウリケは一枚布の端をふらふらさせながら言った。服もいるよね。あと下着に靴。考えてピンクのフリルのついた一式を用意してみた。
「どうかな」
「マスターが用意してくださったものなら」
一枚布は宗教国ルチアでよくつかわれる、この世界を創世したといわれるつばさある人々に仕える神職のなりになっている。・・・・笑えない。まあ、エウリケにとってはそれが当然といえば当然かもしれないが。
ってあれ、ちょっとまて。
目の前に全裸のエウリケ。
「ついてる?」
何がと聞かないでほしい。
首を傾げたエウリケに口早に確認した。
「エウリケあなた、男の子なの?」
「はい。マスター」
当然のように思い込んでいたそれを当然のように破壊された。
***
いや別に男の子だろうといいんだけど、まさか女性型のトルソーから男の子が生まれるとは思ってなかった。
当然のようにエウリケは女の子だと思っていたので吃驚した。
呆けている間にももそもそとエウリケが幼女服を身につける。いやいやいや。
「ちょっとまってエウリケ作り直すから」
「これで十分だとエウリケは判断します。このくらいの年齢の者は厄払いに異性の格好もいたしますので」
「いや、私が十分じゃないから」
「エウリケは十分です。はじめてマスターがくださったもの。これでなくては嫌です」
ぐは。どうしろと。
とりあえず話し合いが必要だ。私はエウリケのことを知っているようでその実全くわかってなかった。性別間違えるくらいだしな。でもこれって私だけのせい?誘導されたような気がするのは気のせいか。
「エウリケは男の子よね」
「はい」
「そう決まってるの?」
「いいえ、つばさのひとの性別で決まります」
「何でか聞いていい?」
「はい。性的ご・・・・」
迅速にエウリケの口をふさいだ。
聞こえなかったことにしよう。
「次、なんだかまた泉の上に光があつまっているけどどうして?」
「次の従者が待機するのです。名前をつけねばなりませんそれが、これ、エウリケの前任者としての責務です」
「アウロラ」
「それはアウロラといいます」
「無茶苦茶適当につけた感じだけど」
当たり前のように指さして頷くエウリケ。
「マスター、エウリケの意味はご存知ですか」
「古代語で咲かない花」
苦く眉を寄せて私はそういった。
「そうです。エウリケは待機していてもしかたのないもの。もういらないもの」
「エウリケ」
「でも咲きました」
「マスターが咲かせてくれました。次はエウリケの番です。どうなるかはわかりませんが考えるだけは自由です」
「それで、アウロラ『希望の泉』?」
「はい」
「うん。いいんじゃないかな」
エウリケはまつ毛をぱちぱちさせる。顔は相変わらず無表情。だけど喜んでいるのが分かってなんだか温かい気持ちになった。