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人生の転機

「急な呼び出しで悪かったね。驚いたろう?本当は明日でも良かったんだけど、善は急げって言うじゃないか。」


書類に埋もれそうな机に優雅に座っている男前の騎士ことアルトリート・ブランシュは、まるで春のそよ風のような爽やかさでのたまった。

確かに私も善は急げと言ったが、ひとつはっきりさせておこう。

これば善じゃない。少なくとも、私にとっては。

そんな私の気持ちなどお構いなしに、アルトリートは

「また会えて嬉しいよ、ミレアリア嬢。」

などと恋人との再会を喜ぶような口ぶりである。

「・・・はあ。」

私の開けっ放しの口は、びっくりするほど間の抜けた返事しかすることができない。

「キャロルもご苦労だったね。」

ああ、流し目も絵になりますね。ていうか、この巨人さんキャロルっていう名前だったんだ。どうでもいいけど、似合ってないな。

私の思考停止状態の頭では、もはやそんな感想しか浮かばない。

「・・・。」

強面の騎士は、どことなく誇らしげに胸を張った。ような気がした。

なにせ騎士の盛り上がる胸筋はこれ以上ないくらいに盛り上がっているし、何故か姿勢がやたらと良いので下から見上げる私には良く分からなかったのだ。

ただ、口元はわずかだが綻んでいる。上司に誉められて喜ぶなんて、まるで犬みたいだ。

見かけによらず可愛い人なのかもしれない。

ただ、この顔で照れ笑いとかすっごい破壊力だけど。そのままの意味で。

そんなことを考えていたおかげか、私は冷静さを取り戻した。

自分の置かれている状況を把握しなければ。

「ブランシュ殿、こにょ度はどのようなご用件で私をお呼びいただっ。・・・ブランシュ殿、この度はどのようなご用件でお呼びいただいたのでしょうか。」

冷静になったなんて勘違いだった。

緊張で噛んでしまった。顔から火が出るほど恥ずかしい。

しかも何故か言い直したのだが、それがまたなんとも痛々しい気がする。

こちらがこんなに恥ずかしい思いをしているというのに、そのことに関してはこの男前はちっとも反応を示さなかった。

逆に恥ずかしいです。ぷっとかクスリとかしてくれればいいのに。

「・・・フッ。」

すこし遅れて聞こえた息遣いは、信じられないことに隣の強面の騎士からだった。

あの顔が笑いをこらえているところを見てみたいような気がするが、心臓に悪そうなのでやめておこう。私の判断は正しいはずだ。

「ああ、女中頭から聞いていないのかい?」

長い沈黙をはさんで、男前は何事もなかったかの様に完璧な笑顔で返してくれた。

あれをなかったことにするとかものすごくいい人か性格が悪いかの二択だ。

間違いなく、後者であると思うが。

「私はね、君をスカウトしたんだよ。これから君の肩書きは近衛兵付顧問魔術師だ。仕事内容としては私の副官のような立場になる。」

その完璧な顔よりもその顔の隣の書類の山にしか目がいかない私は、間髪いれずに「お断りします。」と答えた。

正直何も考えてなどいなかったとは後日談だ。ただ嫌だった、それに尽きる。

「図書館の隣にある建物に私の執務室があるんだが、そこから何が見えると思う?」

図書館の隣は騎士棟になっている。だから彼の執務室がそこにあるというのは理解できるが、何を言わんとしているのかは理解できない。

「あの部屋の扉や窓の結界の術、私がかけたものなんだ。」

理解力のない私に、男前の騎士はもうひとつヒントをくれた。


「外から窓が見えなくなる結界、私には丸見えなんだよね。」

「近衛兵付顧問魔術師のお話、謹んで受けさせていただきます。」


全部ばれていたらしい。

最後まで言わせてはいけないような気がして、私は男前の言葉尻に被せるようにして承諾の意を伝えた。人生、引き時が肝心だと思う。




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