表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

日課の崩壊(2)

騎士の追求から逃げ帰ってすぐ、私は女中仲間から情報収集をはじめた。

今後の身のふり方を決めるためだ。

しばらく図書館に行かなければ何とかなるのか、それとも今すぐにここから逃げ出すべきか。そもそも閲覧禁止の書庫に入っていたことを見られていないなら、堂々としていれば何とかなるかもしれない。

明日は正直図書館に行きたくないが、逆に行かないと不審に思われてしまうだろうか。


どうしようどうしようどうしよう。


何をするにも、情報は大事だ。

まずは騎士の事を調べよう。

女中の情報網というのは美形、醜聞、恋愛において他の追随を許さない。

あんなわかりやすい美形、噂に上らないわけがないだろう。



そうして集めた情報曰く、あの騎士の名前はアルトリート・ブランシェ、ブランシェ侯爵家の次男。年齢26歳にして王太子殿下の近衛隊隊長を勤める超優良物件と言われていることがわかった。

何が優良なのかはわからないが、相当に才能のある人のようだ。人柄も優れており、誰に対しても穏やかで誠実な人柄だという。

男前で、貴族で、仕事ができて、誠実でって、神様の凡人に対する厭味なんじゃないだろうか。

しかし、問題はそこではない。

問題は、彼がディードリヒ派に属する魔術師であるということだ。

魔術師なら、もしかして私の使う開錠の術の気配を感知したかもしれない。

もちろん、そうそうばれるような魔術の使い方はしていないはずだ。痕跡も残さず、誰も魔術に気づかせないように、結界のほんの小さな矛盾を利用して侵入しているのだから。

騎士が何のつもりで声をかけてきたかは分からないが、おそらく閲覧禁止図書のことについてだろう。

こっちの素性がばれているのがまずい。

どうやって調べたのだろう。


こうなってくると本当に国家転覆を企むとか何とかいって投獄されそうだ。

伯爵家の取り潰しを逆恨みして、城にもぐりこんだ私が、閲覧禁止図書から呪いの儀式を探し出して王家に復讐する痛快サイケティックホラーアクション、みたいな?

理由もしっかりしてるし、むしろ復讐したほうがいいんだろうか。

っていやいや。別に復讐しても何もすっきりしないし、今の生活が気に入っていたのに。

でもそこまで疑われていたとすれば、ここから逃げ出しても追われるんじゃないだろうか。

考えれば考えるほどめんどくさくなってきた。

(今日中に荷造りでもして隣の国とかに逃げようかな)

追跡は魔術を使えばある程度かわせるだろう。

善は急げだ。

仕事中だがもうすぐ終わるし、私がいなくなっても大丈夫だろう。同僚に「ちょっと具合が・・・」とかいって部屋に戻ろうと考えていると、女中頭に声をかけられた。

「ミリアさん。明日から異動です。あなたは所属が変わります」

「はい?」

「部屋も変わります。」

どういうことだろう。

このタイミングで異動というのはおかしいのではないだろうか。

「すでに迎えのものが来ていますから、今日はここまでにして部屋に戻って準備なさい。」

(に、逃げたい・・・)

このまま部屋に戻って逃げてしまおうか。

と、逃走経路をあれこれ考える。

女中頭の後ろに立っている騎士の存在については、考えないことにしたい。

「こちらが迎えに来てくださった、ハートネット殿です。」

女中頭の背を優に頭2~3個分くらい超えている強面の騎士は、その鋭い眼光で私をにらみつけ無言で私に会釈した。その眼光だけで、か弱い私の希望は粉々に砕け散った。こんなのから逃げるとか無理だ。精神が持たない。


お、終わった・・・


そうして従順な私は荷物をまとめたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ