毎日の日課(2)
私は毎日のように日課をこなす。
そんなある日、私は魔術書に熱中するあまり休憩時間ぎりぎりまで読みふけってしまった。
(まずいな)
鬼のような形相を浮かべる女中頭の顔が思い浮かぶ。
あわてて閲覧禁止区域を出て出口へ向かう。
このとき、私は完全に注意を怠っていた。
このときのことは後で後悔しても後悔しきれないくらいだ。
どんっ
壁のような何かにぶつかり、しりもちをついた。壁、にしては・・・やわらかい、ような・・・?
恐る恐る顔を上げる前に、その壁は私に声をかけてきた。
「大丈夫?」
差し出されたのは大きな手だ。騎士なのだろうか、剣ダコがある。
そして壁の頂点には、それはもう端正な顔が乗っかっていた。
(げ。)
思わずそんな顔をしてしまったのは仕方がないことだろう。この国の騎士には珍しく、鳶色の髪を短く切っている。そして、優しい色合いの珍しい紫の瞳。鼻は高いし、目は切れ長だし、すべてのパーツが完璧な姿で、完璧な位置に座している。
私はその顔に慄いたのだ。
「私の顔に何かついているのか?」
顔をまじまじと見られるなんてちょくちょくあるだろうに、白々しくも言ってくるのがまた厭らしい。
よく見たら体も作り上げられたもので、均整が取れている。
「いえ、失礼いたしました。」
そういって、差し出された手をとることなく立ち上がる。
差し出した手を無視されるなんて、あまりない経験なのだろう。ちょっと困った顔をして、手を引っ込める姿も、けして情けなくなっていない。
白状すると、私は美形が嫌いだ。美形で、自分が美形であるとわかっている美形が嫌い。
美形で性格がいいやつなんて、絶対いないが私の心情だ。要するに、性格がひねくれているのだけど。
「ここは図書館だ。次からは気をつけるように。」
そういって笑顔で去っていく騎士に、冷や汗をかく。
(見られてないよね?)
私が閲覧禁止の部屋から出てきたところを。
見つかったら罰則どころの話ではない。閲覧禁止の書庫にいたなんて、絶対国家転覆をたくらむとか何とかで投獄される。
幸い、見られていないのだろう。騎士は去ったのだから。
そう結論付けて、すっかり休憩時間を多くとってしまった私は、女中頭に怒られるべく仕事場に戻るのであった。