隊長の命令は
絶対でした。
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第一印象最低の第二王子フレデリックは、落ち着いて話してみると意外と常識人だった。
はじめの高圧的な態度も、私の入隊を知らなかったために、タチの悪い追っかけだと思われていたらしいことが判明した。まったく、失礼な話である。
世間一般で言えば、美形は確かに無条件に好感を持たれることが多いだろう。
だが私は声を大にして言いたい。
「私にも選ぶ権利はありまふ。」
私の主張は、全部言い終えないうちに隊長に両頬を片手で鷲掴みされて、後半は潰れてしまった。
いいようにされるのも癪なので、そのまま顔面の中心に顔のパーツを寄せるイメージで変な顔をしてやる。年頃の乙女としては大分はしたないが、どうせ見ているのは鬼畜と人外魔境だ。問題はあるまい。
「・・・。お前という奴は。」
吹き出すかと思ったのに、隊長は妙に難しい顔をして私の顔から手を離しただけだった。
「乙女にここまでさせておいて、それはあんまりなんじゃないですか?」
「もう本当にだまれ、見世物小屋に売り払うぞ。」
なんて恐ろしい。あまりの暴言に絶句していると、今まで成り行きを見守っていた王子が感心した様子で、「仲がいいな、君たちは。」等と頷いている。
「誤解です。虐げられている労働者と、人の心を持たない雇用者の図です。」
「ほう。どうやら本当に雇い主を変えたいらしいな?」
一見爽やかな笑顔に見えるが、薄ら寒いその腹の中の凝りを吐き出すような表情。今までのことを考えると、絶対にやらないとも言い切れないのが恐ろしい。そろそろ本当に身の危険を感じた私は、このまま見世物小屋に売られてはまずいので、どうにか罰を軽くするべく、一所懸命困った顔をしてみた。が、逆効果だったらしい。
「辞令だ。しばらく男装してそこの第二王子の護衛の任に就け。]
「え。」
何を言ってるんだこの人は。
「アル、いいのか?」
よくないです。無理に決まってます。
「正式には、王子の護衛の従僕になりすませ。護衛騎士はエドだ。今時珍しくもないが、女兵士が王子の前をうろつくのは目立つからな。」
タチの悪い冗談ではないらしい。
「え、ええ!?本気ですか?絶対バレちゃいますよ。」
美人じゃないけど、これでも年頃の乙女なのだ。胸もそれなりに、それなりに・・・。隊長の視線は、私のささやかな胸部に注がれている。それはもう、悲しいくらいにささやかですよ。最近の地獄の訓練のせいで妙に痩せて筋張ってしまった私の体。十代前半くらいの少年に見えないことも、ない。
「ひ、ひどい。気にしているのに。」
「おかげで俺の役に立てるんだ、ありがたいことだろう?」
一体どこまで俺様なんだ。