閑話:隊長と私(2)
隊長の執務室で私をまっていたのは、膨大な量の資料だった。
机から崩れ落ちそうな紙の束に戦いていると、「全部お前のために用意した資料だ。仕事を教えるのはそれを覚えてからだから、3日以内に暗記しておけ。」と、「あ、ちょっとそれとって」位の気軽さで言ってくれた。
あんまり簡単そうに言うので、「あ、はい。分かりました」と言いかけたほどだ。無理無理。一体を仰るのか、お前のためとか恩着せがましい。
「隊長、貴方には3日で十分でしょうけど私には無理です。」
そもそも見る気すら起きない。
「そう言うことはやってみてから言うものだ。」
呆れたように言われても、目を通すじゃなくて暗記するなのだから、無理だろう。
「出来なくても怒らないでくださいね」
可愛らしく見えるように小首をかしげてみたが、隊長はこちらを見もせずに「出来ないという選択肢はない。」と言って自分の仕事を始めてしまった。美形相手に可愛こぶってネタにもされないとか、いたたまれないのでやめていただきたい。
「まあ、一度内容を見てみろ。俺は出来ない奴にやれなんて言わないから。」
くそう、男前は言うことも格好いい。
「はあ、あまり自分を基準に考えないほうがいいと思いますけどね。」
この人は根っからのたらしなんだろう。
そんなこと言われて、出来ないなんて言えないじゃないか。何となく、イラっとしたので「はいはい、ちょーかっこいいオトコマエー。優良物件だわー。」
と嫌みを言ってやったつもりなのに、隊長はそれはもうため息の出るような整った顔で優雅に笑った。
「分かりきったことを。誉め言葉にもならないな。」
何て嫌みな男前なんだろう。
鼻で笑った後わざとらしく溜め息をつきながら資料の山にてをかけると、狙いすましたかのようなタイミングで顔面に分厚い本が飛んできた。
「暴力反対です、お嫁にいけなくなったらどうしてくれるんですか。」
「そしたら俺がもらってやるとか言ってほしいのか?案外可愛いところがある。」
「慰謝料が欲しいんですよ、顔がよすぎる旦那様と違って、お金は裏切りませんから。」
隊長はこちらを見ることもなく、「可愛く
ないな。」と言って微笑った。そんな一枚も絵になりますね。
「昨日話していた魔術書だ。前褒美で貸してやるから、精々頑張れ。」
魔術書!
そんなものが手元にあったら余計集中出来ないではないか。ああ、でももういいや。
これが読めるなら、後はなんでもいい。
そんなことを考えていたら、しっかり顔に出ていたようだ。
「それ、上巻だから。下巻は暗記が終わったらな。」
しっかりしているんですね。
隊長は私に仕事をさせる方法を熟知しているみたいです。