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天国と地獄(1)

ごめんなさい。

恋愛もの読んだ後だったので、うっかりそっちにいきかけた私をお許しください・・・


神様、ありがとうございます。

私は今幸せです。


鼻歌を口ずさんでしまいそうだ。音痴だからやらないが。

今日も今日とて地獄のような訓練三昧。

一昨日の私ならこの辺で意識が怪しくなってきていたが、奇跡的な集中力で魔道具を完成させた私には「フフフ風が気持ちいいわ。」くらいの心境だ。

途中邪魔者が入ったときには真剣に殺意を感じたし、ご飯も忘れて魔道具製作に取り掛かり寝てしまって、起きたら扉が開かないように針金でグルグルまきだったから遅刻しそうになったりといろいろ大変なことがあったが、この素晴らしさの前にはそんな苦労も霞んでしまう。


ありがとう、神様!

黒翼の皆様、こんにちわ!はじめまして!!

新生★ミリア隊員です!!


喜びのあまりおかしな言動を心の中で繰り返してしまい恥ずかしいことこの上ないが、今の私にはそれすらも喜びだった。

痛くない、苦しくない!

私の作り出した魔道具は力作中の力作で、身体能力を劇的に向上させるアンクレットだ。

いろいろ悩んだ結果アクセサリーが許可されるか分からなかったので、服の下に隠せてそうそう人に見られることがないものにした。

以前、女中仲間が婚約者にもらったといってこっそり見せてくれたのを思い出したからだ。

仕事中でも肌身離さずつけていられるとうっとりした顔をしていた。

足首なんて、嫁入り前の娘が人様に見せる機会なんて絶対にありえないので、これはなかなかいい案だと思っている。

ただ、使用中は持続的に魔力を吸い取られているので、魔力切れ=体力切れとなる仕様ではありますが。しかも、効果が効果なので、結構な量を吸い取ってくれます。元があれなので、職業軍人さんと同レベルの身体能力となると、賄うのが大変です。

こう見えても、魔力量だけは両親もびっくりするくらいあったので今日一日を乗り切る分には問題ないでしょう。


「随分余裕じゃないか。ミリア。」

訓練も午後に差し掛かって、唐突に声をかけられるまで。私は隊長の存在というものを忘れていた。

「た、隊長。」

あまりに嬉しすぎて飛ばしてしまったが、急に運動神経良くなったら不自然なわけで。

隊長がそこに気がつかないわけがない。

「ちょっと話がある。私の執務室へ。」

大量の汗が背中を伝うのが分かった。冷や汗か脂汗かは判断が付かない。

ただ、私の顔は今真っ青なのだろうということは周りの隊員の気の毒そうな顔を見れば分かった。

ドーピング、まずったのでしょうか。


執務室に入るなり、隊長が人払いの結界を張ったのが分かった。

キンと張り詰めた空気が部屋の中を満たしていく。

魔術師にとっては、人が作った結界の中にいるというのは気持ちが悪いもので、そわそわと落ち着くことができない。

「ミリア、君から魔術の気配がする。」

目を閉じて、何かを探るように魔力を私に向けてくる。

魔力で探られる、というのも魔術師にとっては気持ちが悪い行為だ。

普段の私なら「ぎゃーっ!」とか叫んで必死に逃げ出すのだろうが、この何日かですっかり隊長に調教されてしまった私は『蛇ににらまれたカエル』状態で固まってしまっている。

何より顔が近い。人によって魔力を感じやすい部位は異なるが、隊長の場合は額がそうらしい。

目を閉じて額を私の頭に近づけてくる。

神に愛されまくった、超絶美形が目の前に。

魔術師は美形が多い。

精霊たちは美しいものが好きだし、魔力は美しいものに宿る。

隊長のこの膨大な魔力も、この美しさなら納得できる。

私も魔力量の多さから、将来はさぞかし美人に・・・と両親は思っていたようだったが、結果は推して知るべし。特に特徴のない平凡な顔立ちに育ちました。

そんな私には眼福過ぎて見るに耐えない。

美形とか男前とかを美しいとは思っても、それに心を動かされることはない。

・・・と思っていた時期が私にもありました。

至近距離にある美形って、すごい破壊力なんですね。

何回かそんな状況があった気はするが、こんなに長時間この顔を間近で見ることがあるなんて思うはずがない。

とにかく恥ずかしい。同じ人類であることをただひたすらに謝りたくなる。

正直同じ空気も吸いたくない。

同じ空間に自分の顔があるというだけで罪悪感にさいなまれるのだから、そう思うのは当然の事だ。

隊長の顔はだんだんと下に下りていって、しまいには跪くように私の足に吸い寄せられていく。

っひいいいいいいい!

嫁入り前の乙女になんてことをっ!

私の左足を救い上げ、足首に額を近づけた隊長は、おもむろに私の編み上げのブーツを脱がせズボンを捲り上げた。

「ふーん、アンクレットねえ。意味分かってる?俺を煽ってるのなら大したものだけど。」

私の足を掴みあげながら、隊長は意地の悪い笑顔で私の足首を凝視している。

何か含みのある言い方だ。

上司の性的嫌がらせが酷くて仕事を辞めたい。

「ん!これは、身体能力向上の回路かな?」

随分細工に凝った私の設計回路を、隊長は一発で見破ったようだ。

古代魔術が失われつつある近代で、よくもこれだけの知識があるものだ。

「どうしてそう思うんです?」

興味を持って聞いてみると、「この核になっている回路は人体を表すものだろう?随分複雑に練ってあるから分かりにくいが、その周りを取り囲むようにしたこの回路は魔力を人体のエネルギーに変換する回路だ。そして核と回路を繋ぐのは・・・」

正確に私の設計図を理解しているようだ。

私は感激に打ち震えた。

「すごい!そうなんです、人体を表す核にどれだけ苦労したことか!!基本的に生身の人間にかける術は人体に大きな影響を及ぼしますから、より正確にする必要があったんです!この体の構成から内臓・筋肉にいたるまで、すごく苦労したんですよ。なかなか美しくできていると思いませんか?」

「そだな、これだけ細かく練り上げられた人体を表す核は見たことがない。それに体を巡る魔力の流れをエネルギーに変換するところがとても無理がなくて自然だ。とても美しい構成をしている。」

「分かってくれますか!?これ、私がこのために独自に開発したんです!なかなかいい素材がなくて・・・」

鬼の隊長も、所詮は魔術オタクだったようだ。


その日、私と隊長は始めて意気投合し、訓練そっちのけ夜遅くまで語り合った。

今までこんな話ができる友人なんていなかったから、とても楽しかった。




今日が幸せすぎて明日が来るのが怖い。









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