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ベジタラディア  作者:
埋もれた物語
9/11

.1

昨日までの自分達なら、

鍬を手に仕事をしているはずの時間だった。

今はただ、黙々とミコルオンに向かって歩いていく。


しばらくの間、二人に会話はなかった。

靴が地面を踏む音だけが、やけに響く。

やがて、ピーマンがぼそりと口を開いた。

「……ついてくんの、やめてもいいんだぞ。」

「やめないよ、もう決めたんだ。」

端的に言い切るじゃがいも。

「お前って変わってるな。」

「君ほどじゃないよ。」

目も合わせずにする、軽い言い合いは

ピーマンにとって初めの経験だった。

隣に誰かいる、それだけでも心強く居られる気がした。

ほんのわずかだが、ピーマンの歩く速度が緩む。

それに気づいているのかいないのか、

じゃがいもは同じ距離を保ったまま歩き続けた。


真上の太陽を遮る背の高い木々たちが

滑らかで乾いた風で揺ら揺らと踊っている。

木漏れ日が地面を照らすと、青々しい草木が

気持ちよさそうに光って見える。


昨日から何も食べてないピーマンはどんどんと

足が重くなっていく。

「そろそろ休憩しないか?」

じゃがいもは背負っていた荷物を下ろすと、

倒れていた枯れ木に腰掛けた。

「夜までに抜けないといけないのに、この森意外と広いんだな……。」

ピーマンも当たりを見回しながら近くの石に腰掛ける。石の表面はひんやりとしていた。

「ほら、食べろよ。」

じゃがいもは半分にちぎった土パンをピーマンに

差し出した。

「……ありがとう。ごめん。」

「出かける時は、いつも兄弟の分も持ち歩いてたから。多めに持ってきたんだ。気にすんな。」

二人で土パン頬張りながら、地図を広げる。

「この森の先に洞窟があるはずだよ。」

「暗くなる前に行かないとな。」

二人は重い腰を上げ、目的地に向かって歩き出した。


歩きなれていない森の中は

二人の体力を着々と奪っていく。

足は思うように上がらなくなってきたが、

森はずっと先まで続いていて吸い込まれそうだ。

進むほど暗く湿り気を帯びていく森、足元を取られないように下ばかり見て歩いてしまう。


そんな中ピーマンがある事に気がついた。

「あの石……さっきも通らなかったか?」

足元を気にしていたじゃがいもが顔をあげる。

「え、石?似てるだけじゃないか?」

じゃがいもは横目で石を見るが、

暗くて見えないのか、そのまま歩き出してしまう。

ピーマンは違和感を覚えながらもじゃがいもに着いていく。少しずつ二人の距離が離れていく。


「なあ、おい!じゃがいも!」

ピーマンは息が上がり、足も鉛のように重く感じていた。ずんずんと進んでしまうじゃがいもにどうにか追いついて、腕を掴む。

「ペースが……。ごめん、少し休みたい……。」

じゃがいもは突然掴まれて驚いたのか目を丸くしている。

「おお、悪い。そうだな……。あそこで休むか。」

じゃがいもが指差す先には倒れた枯れ木がある。

「おい、嘘だろ……。」

「どうした、ピーマン?休みたいんだろ?」

「じゃがいも、気が付かないのか?あれ、さっき休んだ所と同じだろ!」

「そう言われれば……確かに……。」

「あれから四、五時間は経ってるはずだぞ!

どうなってるんだ……。」

二人で辺りを見回すが、一面木々に囲まれている。

来た時はゆらゆら揺れていただけの木達が

ザワザワとなにか囁いているようだ。

どれだけ歩いてもまた同じ場所に戻ってしまう、

どうやらここは、迷いの森だったらしい。


さっきのように枯れ木と石に腰掛ける。

気が付けば辺りは真っ暗になっていた。

簡易的な地図には森の抜け方など記されていない。

どうしたものか。暗い森の中で途方にくれる二人。

何か考えなければ、と沈黙が続く。

「おい、ピーマン!お前の鞄、光ってるぞ!」

じゃがいもに言われて、鞄を見ると内側からぼやっと光を放っている。

鞄の中に手を入れて取り出すと、

それはあの石板だった。

巻かれた布が少し捲れていて、

その下で白く脈を打つように光っている。

「それ、触って大丈夫なのか?」

じゃがいもは初めて見る光に怪訝な顔をしている。

「たぶん……。でもこれで暗くても進める。」

布を捲ると、光はさらに強くなる。

足元を照らすには充分だ。

ピーマンは石板を持ったまま立ち上がる。

辺りを見回すようにぐるっと回ると、ある方向だけ

光の脈が早くなった。

「こっちだ……!導いてくれてる……!」

ピーマンは興奮して、足の痛みも忘れていた。

「お、おい!待ってくれよ!本当に合ってるのか?」

じゃがいもがうしろを追いかけるように着いていく。



石板の光は強く、脈はどんどん早くなっていく。

それと同時に向かう先は霧が深くなる。

二人の足取りも軽くなり、少しずつ不安が期待に変わる。

「見ろ、もうそろそろ森を抜けるぞ!」

じゃがいもの声も軽く弾んでるようだ。


遠くに赤、紫、緑、黄色と

色とりどりの光の道が見えてきた。

やっと目的地に着いたんだ、と嬉しくなる。

じゃがいもとピーマンは目配せをして光の道に駆け寄る。


森を抜けたと思ったが、その先には霧の中で

大きな口を開けた洞窟が待っていた。

道だと思っていたのは光は

洞窟の奥へと続く道標のように仄かに光っている。


まるで怪物が獲物を誘い込むような光景に、

足が竦み、嫌な汗が滲む。


「不気味だな……。」

じゃがいもは額の汗を拭いながら、息を整えている。

ピーマンの手の中の石板は、

今まで一番強い光を放っている。

どうやらこの先に進むしかないようだ。


「様子、見てくる。」

大きく息を吸いこみ、ピーマンは洞窟の中へと一歩ずつ足を踏み入れていく。

その後ろをじゃがいもが恐る恐る着いていく。

一歩踏み出す度に、足音が反響する。

洞窟内の仄かな光が、音に反響するように瞬いている。


水の滴り落ちる音がそこら中から聞こえる。

石板を持ち上げて洞窟の奥を照らすと、

キラキラと光る粉のような物が舞っている。

ピーマンはすぐに振り返り、じゃがいもに叫んだ。


「今すぐ洞窟から出ろ!」

叫んだ途端、膝の力が抜けて壁に凭れるように倒れ込んだ。指先が痺れて、視界がボヤける。

「どうした、ピーマン!」

じゃがいもが駆け寄ってきて、ピーマンを背負うようにして洞窟の入口へと向かう。


だが、じゃがいもの足も上手く動かなくなっていく。

壁についた手がずるずると滑り落ちる。

気が付くのが遅すぎたのだ。


じゃがいもは、遠のく意識と滲む視界の先で

洞窟の入口に立つ影を見た気がした。

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