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じゃがいもに引きずられるように小屋から離れると
冷たく澄んだ空気が、肺に刺さる。
振り返ると、小屋は原型を留めていなかった。
大きなキャンプファイヤーのように明るい火と
夜空よりも暗い煙が空に登っていく。
「なんで……。」
目の前で、全てが音を立てて消えていくのに
ピーマンは何も出来なかった。
「朝には役人が来るって。」
何故今じゃないのか。どうして朝なのか。
燃える小屋の周りには2人以外誰もいなかった。
「医者のところに役人が来てたんだ。」
「……大根先生のところか?」
じゃがいもは目を合わせずに話を続ける。
「君が貰ったのはネムリグサの粉だ。役人が出ていったあと、嫌な予感がしたから医者を問い詰めたんだ。急いで来たけど……間に合わなかった……。」
だから、身体が動かなかったのか。
ばあちゃんに薬を飲ませたのは俺だ……。
……俺が殺した。
「魔法を使った痕跡があるって言ってた。危険だから消すしかないって。お前のおばあちゃんだったんだな。……俺らを助けたの、魔法だろ。」
ピーマンは何も言えなかった。
泥水を綺麗な水に変えただけの魔法の
どこが危険だと言うのだろうか。
人の家に火をつけること、命を救ってくれた魔法、
どちらが悪かなんて分かりきっている。
ピーマンとじゃがいもの沈黙を破るように
ぽつぽつと雨が降り始めた。
どんどん強くなる雨。
じゃがいももピーマンもその場に立ち尽くしている。
目の前の炎が揺らぎ始め、徐々に色が失われていく。
「……消える。」
ピーマンの声は、どこか呆然としていた。
さっきまで、あれほど燃え上がっていた炎。
ピーマンからすべてを奪った炎は
雨に打たれて、少しずつ、確実に消えていく。
「死んだことにしてくれ。」
ピーマンは静かに言った。
「ばあちゃんの墓を作ったら、俺は出ていく。
もうここには何も無い……。」
「……分かった。」
じゃがいもは頷くしかなかった。
自分にできることはもう何もないと知っているから。
それからピーマンは、声を上げて泣いた。
この雨が、声と炎を消していく。
枯れない涙を拭う手は、炎に熱せられたからか
所々黄色くなっている。祖母の手と同じだった。
魔法は、全てを奪った。
そして同時に、命だけは生かした。
何も持たぬまま、生きるというのは
とても残酷なことだと、今夜、ピーマンは知った。
それはまるで、呪いのようだった。




