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ベジタラディア  作者:
第1章:はじまりの物語
5/10

.4

収穫祭には、たくさんの根菜たちが集まっていた。

花冠をのせたり、鮮やかな化粧を施して

村の中心に立っている木の塔を囲んでいる。

歌ったり、踊ったり、手を取り合って

家族との愛を確かめあっているようだった。


この場で必死になっているのは

ピーマンだけだった。

走りすぎて胸が痛い、息をするのも苦しい。

楽しんでいる根菜たちと陽気な音楽の隙間を縫って、

大根のいる診療所に向かう。


「うわ!なんでこいつがいるんだ!」

「収穫祭の邪魔しに来たのよ!」

ぶつかったサツマイモ達に暴言を吐かれるが、

ピーマンはただひたすらに鞄の紐を握りしめ

大根の元へ走った。


「はあ……はあ……そんな……。」

診療所に着くと、入口の扉には

収穫祭のため休診、と書かれた紙が貼ってあった。

ピーマンは口が乾き、喉が締まり、

もうこれ以上闇雲に走る体力は残っていなかった。


「すみません、大根先生……!どなたか居ませんか!祖母が……!薬を買いたいだけなんです、すぐに帰るのでどうか薬を売ってください!」

もう立っているのもいっぱいいっぱいだ。

扉にもたれかかりながら、ドンドンと叩きつける。


「お願いです……!」

体の水分はもうほとんど残っていない気がする。

だが、唯一の家族である祖母を助けられるのは

自分しかいないと分かっていた。


「うるさいな!……休診だと書いてあるだろ!」

扉が少しだけ空いて、隙間から大根が怒鳴っている。

ピーマンは扉の隙間に必死に指を捩じ込み、

大根の足元に縋り付くように頼み込んだ。

「薬を売ってください。すぐ帰りますから……!」

「なんだ、君か……。こんな所で何をしてるんだ。

収穫祭でみんな村に集まっているんだ。早く帰りなさい……。」

「ばあちゃん……祖母が!咳が止まらなくて、血も吐いてるんです!」

「……持ってくるからそこにいなさい。

中に入ってはいけないよ。」

そう言うと、大根は扉を閉めて診療所へと

消えていった。


薬が買えることに安堵し、ピーマンはつかの間

息を整えて、冷静になろうとしていた。

早くばあちゃんの元へ戻らなければ。

そしてあの続きを聞こう。

もし俺にも魔法が使えるなら……。

まだ聞いたばかりの話を考えても

走り疲れて酸欠の頭がついて行かなかった。


「これを持っていきなさい。水に溶かして飲めば痛みも忘れて、ぐっすり眠れる。

……君も傷だらけじゃないか。多めに入れてあるから、君も一緒に飲むといいよ。」

小さな紙袋を渡される。

中には薄い紙を捻って作った巾着のようなものが入っていた。

「ありがとうございます!この薬はおいくらですか?」

ピーマンは鞄の中からゴソゴソと麻袋を取り出す。

麻袋の口を開くと、銀貨が5枚入っていた。


「そうだね……。今日は収穫祭だから……。

特別にリーフ銀貨2枚で良いよ。」

「そんなに安くていいんですか!大根先生、ありがとうございます…!」

この金額なら、二、三食節約すれば

来週も蜜パンが買える。

ピーマンは深々と頭を下げてお礼を言う。

人前では話してくれなくても、味方になってくれなくても、自分を一人の野菜として扱ってくれることが

ピーマンは涙が出るほど嬉しかった。


「いいんだよ……。ほら、直に村の根菜たちが

私を呼びに来るだろう。その前に家に帰りなさい。」

大根はピーマンを心配するように帰宅を促す。

「この恩は忘れません!」

もう一度扉の前で頭を下げて、ピーマンは

家へと走り出した。

ばあちゃんはきっとまだ苦しんでいる。

この薬飲めば体も楽になるだろう。

早く、帰らなければ。




ピーマンの背中が見えなくなるまで、

大根は扉の前でしばらく動けずにいた。

「……すまない。」

手には、リーフの銀貨が二枚握られている。

診療所の中では、いくつかの影が揺れる。


どうやら、大根のところには

ピーマン以外に先客が来ていたようだった。

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