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魔法が使えるのは、パプリカだけだと思っていた。
それも、悪い魔法しか存在しないと。
「なんでばあちゃんが魔法を……。」
「これはね、光の魔法。神の祝福だよ。」
それから祖母は、たくさんの話をしてくれた。
祖母はパプリカの血縁者だった。
パプリカが本当は心優しく、勇敢な青年だったこと。
平和のために魔法を使いたいと、旅に出たこと。
だが、パプリカが戻ることはなかった。
大きな地震があり、大地が割れ、
世界が混乱に飲み込まれている頃、
あのかぼちゃ王の歴史が語られるようになったのだと。
ピーマンは、なんと言っていいか分からなかった。
今まで、自分が忌み嫌われてきたのはパプリカのせいだと思ってきた。
どんなに優しい心の持ち主だったと聞いても、そいつのせいでピーマンが差別されてきた過去は変わらないのだ。
今まで教えられてきたこの世界の歴史を、
祖母の話しで覆すのは難しかった。
だが、目の前に置かれたコップの中の綺麗な水は
祖母の夢の話として割り切ることは出来なかった。
あの光も、風も、魔法も、全て現実だったから。
「あんたに見せたいものがあるんだ……。」
立ち上がろうと、肘掛けに手をかけた祖母は
バランスを崩して床に膝を着いてしまう。
「ゴホッ……ゴホッ……」
「ばあちゃん!大丈夫かい!?」
ピーマンが駆け寄り、背中を擦る。
大丈夫だと言うが、祖母は咳が止まらず、
口を抑える手には血が垂れているようだった。
「また明日話を聞くから、今日はもう休もう。」
ピーマンは祖母の手を引き、ベッドに連れて行くが
祖母は言うことを聞こうとしなかった。
「魔法を使ったから少し疲れただけなんだよ。大丈夫だから、ちゃんと最後まで聞いておくれ。」
心配させまいと咳を飲み込み、
肩で息をする祖母を落ち着かせるよう
ピーマンは優しい声で言う。
「分かった、最後まで聞くから。まずは横になって。医者の所で咳止めを貰ってくるかららそれを飲んだら続きを聞くから。それならいいだろ、ばあちゃん。」
納得したようで、ベッドに横になる祖母に
毛布を掛ける。
何も言わないのはきっと息が苦しいからだろう。
早く医者に行って薬を貰わなければ。
鞄の底に入った麻袋、今日の分の銀貨じゃ足りないかもしれない。
戸棚を開けて、塩入れの奥に手を伸ばし今までの給料を入れた麻袋を掴み、鞄の中に腕ごと突っ込んだ。
「すぐ戻ってくるから、ちゃんと寝てるんだぞ。」
声をかけると、ピーマンは村へと走り出した。
今夜は収穫祭だ。医者はやっているだろうか。
村の中心地に向かいながら、祖母の話を思い出す。
どうしてパプリカは悪者になってしまったのか。
どうして祖母はこんなに苦しんでいるのか。
どうして俺は孤独なのか。
疑問ばかり浮かぶがどれも原因は同じだった。
何が魔法だ。何が神の祝福だ。
誰も幸せにならないなら、こんなの呪いじゃないか。




