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王都から遠く離れたルートガルド。
一面土に覆われ、規則的な丘が連なる茶色い村。
懐かしい乾いた香りが広がる
ここルートガルドでは多くの根菜たちが住んでいた。
誰もがみな働き者で、自分の家族を養うため
土を耕し、地中に家を作り、
文字通り泥に塗れて生きている。
ルートガルドの朝は遅い。
太陽が登っても、地中まで光が届かないからだ。
光が土に染み込み、温度が上がり、
根菜たちはそこでゆっくりと目を覚ますのだ。
まだ土の下で、じゃがいもや人参が寝ている頃
一人、土の丘に立つ緑の少年がいた。
根菜だらけのこの街には珍しい、ピーマンだった。
村の中心部から少し外れた所に住む彼は、祖母と二人
小さな木の家に住んでいる。
日光を好む彼らにとって、根菜のように地中で暮らすことは難しかった。
また、仲間意識の強い根菜たちは、
ピーマンらを快く受け入れてはくれなかったのだ。
誰よりも早く日光を浴びて、目を覚ますと
彼は一番乗りで土の丘にやってくる。
誰にも会わずに、誰にも見られずに仕事がしたい。
今日の分を終わらせれば、生活費が稼げる。
明日の分も終わらせれば、祖母の病院代が稼げる。
そう言い聞かせながら、ピーマンは鍬を握りしめ
土の丘を耕していた。
「今日も早いな〜」
突然声をかけられて飛び跳ねる。
「なんだ、じゃがいもか……。」
彼はこの村で唯一、ピーマンと口をきいてくれる根菜だった。
「さあ、家族のために働かないとな!」
じゃがいもは長男で、何人兄弟かも分からないくらいの大家族だと言っていた。兄弟よりも体が大きい分、責任も重くなるようで、すぐにピーマンの横に並んで一生懸命に土を耕し始める。
ほかの根菜達とは目も合わせない日がほとんどだったピーマンにとって、じゃがいもと話すこの時間だけが村の状況を知る為の唯一のチャンスだった。
「また、国の兵が村に来ていたらしいな。」
昨日の夜は珍しく丘が騒がしかった。
暗いはずの畑にはぽつぽつと灯りが着いているのがピーマンの家からも見えていた。
「ああ、夜中にまた見回りに来てたよ。そんなことする暇があるなら、早く道路を作ってくれればいいのにな。王都で働く方が金になるのに。」
じゃがいもは手を止めずに答える。
「王都に行ったことあるのか?」
「あるわけないだろ〜、俺ら根菜はここで生きて、ここで肥料になる運命なんだから。」
確かに、それが根菜族の生き方だった。
地を守り、何百年と育てたこの土で国の野菜たちを支える。それが当たり前なのだ。
だが、ピーマンは、そう語るじゃがいもの顔に少しだけ虚しさが浮かんだような気がした。
「おい!パプリカと話してるとお前も焼かれるぞ!」
どうやら、ほかの根菜達も仕事の時間のようだ。
ピーマンとじゃがいもを見つけた御坊が遠くから叫んでいる。
ピーマンは聞こえないふりをしながら、
ただひたすらに鍬を振り下ろした。
じゃがいもに背を向けて、黙々と。
じゃがいもは一言、
「あんまり気にすんなよ。」というと
御坊に向かって歩き出した。
「パプリカと話すなんてどうかしてるのか!」
「ただ、担当場所が同じだっただけだよ。」
2人の声が徐々に小さく、遠くなっていく。
ピーマンはもう慣れてしまっていた。
いつだって、どこに居たって
同じことを言われてきたから。
悪の魔法使いパプリカと同じ見た目をしている。
ただそれだけで世間の目は酷く冷たかった。
そのせいで、ピーマン族の殆どが
滅んでしまったらしい。
だが、ピーマンは
国の歴史や一族の事など興味がなかった。
ただ、祖母と二人で静かに暮らしたいだけだった。
そのためには、何を言われても
働いて金を稼ぐしかないのだ。
ピーマンの願いはそれだけだった。




