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ベジタラディア  作者:
埋もれた物語
13/13

.5

洞窟の中も、三人の空気も

奥へ進むほど暗さが増していく。

ランタンの灯りは頼りなく揺れていて

お互いの顔もよく見えなかった。


進める足を引き止めるように、泥がまとわりつく。

「前より酷くなってる……。」

舞茸は胞子を体に纏わないと先に進めないらしい。

どこかから水が滴る音がする。

やがて、空気が変わった。

取り囲んでいた壁が遠のくように、視界が開ける。

天井はかなり高く、所々隙間から外の光が差し込んでいる。何本かの光の柱が洞窟を支えているかのようだ。

光の柱が立っていない洞窟の奥には傾いた建物のようなものがあり、壁と柱だけが刺さったように残されている。その横には苔に覆われた慰霊碑。

その足元には水が染み出しているようだ。

「すごいな、本当に遺跡だ…。」

じゃがいもの声が反響する。

「昔はちゃんとしてたみたいだけど、今は誰も近寄らないから。」舞茸が答える。

その声はどこか遠く感じる。

「湧いてきた水の原因を探そう。」

ピーマンは、どこか不気味で夢幻的なこの場所から早く離れたいと思っていた。広いはずなのに、息が詰まる。


洞窟の壁際に立っている慰霊碑は、少し傾いていて

苔が被っている。その足元には水が湧いていて、水面には洞窟の天井が映っている。

水の周りには木の杭が雑に建てられていて、異例には近づけないようだった。

ピーマンが杭の近くに寄ろうとすると、じゃがいもが肩を掴んだ。

振り向くと、じゃがいもが舞茸の方を見る。

舞茸は慰霊碑に向かって、目を閉じて手を合わせている。

二人にとってはただの石碑だが、きのこ族にとっては先人たちの犠牲を弔う場所なのだ。

その事を忘れていた二人は、舞茸と同じように目を閉じて手を合わせる。

先に祈りを終えた舞茸は、その姿をただ見ていた。


「おい!そこで何をやってる!」

突然の怒声に三人の肩が跳ねる。

「お父さん……。」

振り向くと、そこには舞茸の父親が立っていた。

杖を使って三人の元へ歩いてくる姿は、不格好だが、怒りが見て取れる。

遺跡の中の暗闇から大きな音を立てて近付いてくる。

目の前にきて気が付いたが、失った片足の代わりに杖を使っているようだった。

「余所者をここに連れてくるなんてどうかしてるのか!」一瞬のことだった。

彼は怒鳴りながら、手を振りかざすと舞茸の頬を叩いた。舞茸は頬を抑えて、呆然としている。

激情に駆られている彼は、何か言いながらまた手を振りあげる。

すかさず、じゃがいもがその手を掴み、舞茸との間に立ちはだかる。

「触るな余所者が!ここへ何しに来たんだ!」

掴まれた腕を振り払い、じゃがいもに唾を飛ばしながら怒鳴り散らしている。

「やめて……。この二人は私達のために手伝ってくれてるのよ。」

舞茸は申し訳なさそうな顔をして、父親に言うがその声は届いていないようだった。

「災いを自ら招き入れるなんて!母さんの努力も無駄にする気か!この役たたず!」

何度も地面に杖を打ち付けているせいで、地面が削れて水が染み出してきている。

「ここは神聖な場所なんだぞ!」彼は水辺に背を向け、杖を振り回す。

「お父さん、ごめんなさい。分かったから、落ち着いて、お願い……。」

「なんで舞茸が謝るんだ。」ピーマンは不服そうだ。

「平気よ、いつもの事だから……。」舞茸の赤くなった頬が痛々しい。

「何をごちゃごちゃ言ってるんだ!今すぐ出ていけ!――うわっ!」 「お父さん…!」


興奮しすぎて足元が覚束なかったのだろう。

木の杭にぶつかった彼は、バランスを崩して前のめりに倒れてしまった。

「大丈夫ですか?」じゃがいもが手を貸そうとするが、杖で振り払われてしまう。

「お父さん、怪我してる。早く手当しないと……。」

舞茸に担がれるようにして立ち上がる父親は、痛みに顔を歪めながらもまだなにか言いたげだ。

「すぐ戻るわ。石板には近づかないでよ。」

舞茸はそういうと、痛みに唸る父親に肩を貸しながら

暗く狭い洞窟の方へと歩いていく。

徐々に遠くなる足音、二人は突然の出来事に呆然と立ち尽くしたままだった。


「酷い父親だな。」ピーマンが口を開いた。

「ずっとここを守ってきたんだろ。あんな身体になっても。」じゃがいもは倒れた杭を戻している。

「だからって娘を殴っていいわけじゃない。」強く言い切るピーマンに、じゃがいもは押し黙ってしまう。

倒れた最後の杭を立てている時、じゃがいもがあることに気が付いたようだ。

「これ、本当に水か……?」

ピーマンが水面を覗き込むと、歪んだ自分が映り込む。近くで見ると若干白く濁っているようだ。

じゃがいもは小石を拾い上げ、水に向かって放った。

弧を描いて飛んだ小石は、音を立てずに着地をすると、飲み込まれるように沈みこんでいく。

「なんだこれ……。」


目の前には慰霊碑、

そしてそのまわりには滲み出てきた粘液。

揺らぐことがない水面が、不気味に艶めいている。

二人は、投げこんだ石のように、この場にゆっくりと沈みこんでいくような感覚に襲われた。



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