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洞窟内は思っていたよりも広かった。
たくさんのきのこが生息しているはずなのに
奥へ進むほど静けさが増していく。
その中に佇むピーマンとじゃがいもはどうみても
異質な存在だった。
「なんだあいつら……。」
「また面倒事を持ち込んで来たのか?」
暗闇から聞こえる言葉は、歓迎とは程遠い。
群がるきのこたちは鋭い視線を二人に向けている。
「せっかく手伝うって言ったのに、こんな扱いされるのか……。」
じゃがいもは舞茸の後ろで苦笑いをしている。
「余所者の運命だな、直接言われないだけマシさ。何を手伝えばいいんだ?」
ピーマンはこんなの慣れっこのようで、なんとも思っていないようだ。
「他の野菜が来るのは珍しいから、みんな怖がってるのよ。お願いしたいのはこの先よ。」
さらに深く進んでいく。洞窟はどんどん細くなる。
低くなった天井の半分くらいは積み上げられている朽木や湿った土の山がある。
空気中には白くふわふわしたものが漂っている。
「凄いな、洞窟の中に雪が降ってるみたいだ。」
じゃがいもが不思議そうに近付く。
「元々ここは子供たちの遊び場だったのよ。前の大雨で外から土砂がなだれ込んで来て使えなくなってしまったの。ほら、ここ分かる?」
舞茸が指差す先を覗き込む二人。
「この、青とか緑のはカビなの。私たちの菌糸は白。これのせいで体が弱ってしまうきのこもいるから、カビが生えてるものは外に運び出したいの。」
「なるほど。これは力仕事だな、得意分野だ。」
じゃがいもは腕まくりをして気合十分だ。
ピーマンは何も言わずに手前の木片を持ち上げる。
水を吸った木片は見た目よりもずしりと重く感じる。
「一緒に持つよ。」
じゃがいもと二人がかりで運び出す。
やることはは単純だった。運んで、積んで、整える。
カラフルなカビが生えたものは外へ。
それ以上の土や枯れ木は、平らに整える。
慣れない暗闇と、狭い通路。
周りからの視線も突き刺さる、肉体的にも精神的にも疲れる作業だった。
「本当にやってる……。」
「変な奴らだな。」
「けど、助かるね……。」
暗闇に目が慣れてきたのか、話しているのがシメジやエノキだと分かるようになってきた。
じゃがいもは時々眉を顰めたが、手を止めずに動き続けた。ピーマンを見習って、同じようにただ働く。
だいたいの大きな木や岩をどけると、きのこたちの体格でも出来ることが出てきたのか
ピーマンやじゃがいもを横目で見ながら一緒に作業をし始めた。
ピーマンが岩を運んでいると、少し先でフラフラと小さなキクラゲが木の枝を引きずりながら運んでいる。
「おい、何本か貸せ。」
ピーマンは引きずっている木だけを選び、自分の運んでいる岩の上に乗せる。
「……ありがとう。」キクラゲは短い木だけを抱えて歩き出す。
信頼にはまだ程遠い。だが、自分たちの行動を見て評価されるのは悪い気分ではなかった。
「舞茸さーん、ここ、光が入ってきてる!どうする?」
洞窟の奥で作業をしていたじゃがいもが呼びかける。
「そこから土砂が流れ込んできたのね。光が入るなら私たちは近付けないわ……。」
きのこたちは暗い方へと集まってザワついてる。
「なあ、ピーマン。俺が外から穴の上に岩を乗せるから、ここから声をかけて誘導してくれないか?」
「わかった。足元暗いから気をつけろよ。」
持ち場を交代して、作業を続ける二人。
1日かけて子供たちの遊び場が出来上がった。
土砂が流れてきた穴を塞ぎ、洞窟の奥には念の為に石の壁を作った。
「だいぶすっきりしたな!」
「こんなに広かったのか。」
カビ臭さも消えて、空気が澄んでいる気がする。
「ねえねえ、遊んでもいい……?」
振り返ると、エノキやシメジの子供たちが恥ずかしそうに二人を見ている。
「そのために片付けたんだよ、これからは沢山遊んでね。」
目線を合わせるようにしゃがんで、優しく笑いかけるじゃがいも。
子供達は小さくお辞儀をすると、遊び場に飛び込んでいく。床にひいた枯葉を振りまいて楽しんでいる。
その様子を見ていた舞茸は嬉しそうに微笑んでいた。
「二人とも、お疲れ様。夕食作ったんだけど食べる……?」
「舞茸さん、いいんですか!俺もう腹ペコで……。」
「ありがとう、助かるよ。」
湿った土の香りの中に、甘く暖かい香りがしてくる。
意識すると急にお腹がすいて来る。
腹の虫が小さな声でさえ、洞窟には響いてしまう。
じゃがいもとピーマンはどちらの腹の虫が鳴いたかを擦り付けあって小突き合う。
「ふふ、休憩もとらずに頑張ってくれたものね。」
こんなに賑やかなのは久しぶりだった。
暗い洞窟の中にも、明るい声や生活が溢れていく。
舞茸の作った食事は不思議なものだった。
菌糸団子のスープは白くとろみがあり、微かに甘い匂いがする。
「これって、さっきの雪みたいなやつだよね?」
木の器を傾けながらスープをみつめるじゃがいも。
「そうよ、菌糸はきのこには欠かせないの。
でも、あなた達には馴染みがないものね……気に入らなかったら残して。」
舞茸は自分のスープを飲みはじめる。
二人も恐る恐る口をつける。
「ほんのり甘いんだな、美味い。」
「溶けるような……粘るような……?なんだか不思議な食感だな!」
「……無理しないでいいのよ。」
そういうが、舞茸の声は嬉しそうだった。
「美味いよ。暖かいし、体に染み渡る感じがする!」
「作ってくれてありがとう。」
二人はしっかりと味わって、一滴残らず食べきった。
作ってくれたからと洗い物もして、お礼を言う。
舞茸はその仕草を見ても決して媚びているようには思えなかった。二人にとっては当たり前の事だったから、自然な行動だったのだ。
「今日はありがとう。子供たちも嬉しそうだった。」
食後に3人で机を囲む。
「子供は元気に遊ぶのが1番だからな!」
「役に立てて良かった。明日は何を手伝えばいいんだ?」舞茸が驚くと、二人は不思議そうな顔をする。
「どうした?」「具合悪いのか?」
「いや……、石板のこと聞かないのかなって。」
じゃがいもとピーマンは目を合わせる。
「たった一日で信じてもらおうなんて思ってない。」
ピーマンの発言にじゃがいもも続く。
「これは助けてもらった分だから。話してもいいと思ったら話してよ、それを決めるのはきのこ達で俺らじゃないから。」
舞茸は何も言わずに二人を見つめる。
やがて、小さく息を吐く。
「あんたたち変わってるね……。」
そう呟きながらも、その表情はどこか柔らいでいた。
ピーマンはぽつりと呟く。
「疲れたけど、気持ちいいな。」
じゃがいもは小さく笑って、背もたれに体を預ける。
その夜は、それ以上深い話をすることはなかった。
ただ、同じ場所で同じ時間を過ごす。
洞窟の奥から子供たちの笑い声が響いてくる。
ミコルオンの夜は静かで、暗い。
けれど、不思議と冷たくはなかった。




