ことば使い師のうた
さみしさだけが
声をはなって
胸のおくで
こっそりと泣くから
メロディーがながれる
街角のちいさなベンチで
道ゆくひとたちをみている
やさしさを空っぽにされた
いっぴきの小鬼を
彼女はみつけることが
できたのかもしれない
ひとは
傷ついたぶんだけ
やさしくなれるから
夢みることば使い師は
嬉しそうな声で
《ありがとう》
って
その小鬼に
こころのなかで
声をかけたんだ
彼女はまえを向いて
美しい小鬼の瞳を
じっとみる
無限の光降り落ちて
ふときづくと
《とき》が止まり
彼女と小鬼だけが
止まった《とき》のなかで
しっかりと
みつめあう
佇んでいた少女は
ゆっくりと
まっすぐに
小鬼のほうへ歩く
止まった《とき》のなかを
夢みることば使い師は
ポッとほおを赤らめて
かけることばを
選ぶ
《ずっとまえから》
小鬼が少女をみあげる
《知っていた》
聴いた小鬼がちいさなベンチから
そっと
立ち上がる
少女へ向かい
ゆっくりと
ゆっくりと
歩きはじめる
こころを潤す
止まった《とき》のなかを
降り落ちる
光
だけが
ふたりに降りそそぐ
小鬼が
初めてしゃべったような
かすれた
震える声で
けんめいに
けんめいに
少女に声をかける
《ぼくも》
《知っていた》
少女は
こころのなかで
いままでのさみしさをあらためて知って
泣きそうになりながら
おずおずと
小鬼の手を取った
小鬼が
頑張って声を出してこたえる
《もうさみしくない》
《ぼくも》
世界が止まったままの街角の
一瞬だけの
ちいさなあたたかい火が灯るふたりのこころ
ふたりは
しっかりと手を握りしめたまま
蒼空へつづく階段を
ゆっくりと昇りはじめる
おたがいをみつめあったまま
ふたりがふたりとも
ポカポカしたきもちのまま
あたたかい世界へ向かって
昇ってゆく
昇ってゆく
……………………………
そしてふたりがみえなくなったころ
止まっていた《とき》が
動きだす
なにひとつ変わっていない
さみしさがふたりぶんだけ減った
やさしさがすこしだけ軽くなった世界が
ふつうの世界が
そこには取り残されて




