【ウマ娘外伝】Ignobleman & the Shrew 伝説のウマ娘エクリプスと大佐の物語~シナリオ~
ウマ娘プリティダービー本編中でも引用されている格言”Eclipse first, the rest nowhere."(唯一抜きん出て並ぶ者無し)を巡る競走馬エクリプスとその馬主デニス・オケリー大佐の物語をウマ娘の世界観に反映してシナリオ化しました。
ウマ娘レース黎明期のイギリスでどの様にしてこの格言が生まれたのかを史実と脚色を織り交ぜて20〜30分程度の作品に仕上げています。
①18世紀後半のロンドン近郊の町
1人の紳士が商店街を歩いている。彼に声をかける者には帽子をとって挨拶を返し、陰口を言う者は無視して歩いていく。
行く先の路上にキラッと光るものを見つける。金貨だ。辺りを確認して足早にコインの許へ。
【ナレーション】
男は一言でいうと悪党だった。
アイルランドの貧しい農家に生まれ、詐欺とギャンブルで成り上がる。二度の破産と一度の投獄、一度の流刑を宣告されたが、持前の悪運ですべてを切り抜け、イギリス国王崩御による恩赦を受けて釈放される。その後も悪事を重ねて財を成したが不思議と彼を憎む者は少なかった。
②同商店街
1人のウマ娘が配達の仕事中。ゆく先々で声をかけられている。
【ナレーション】
そのウマ娘は日食のさなかに生まれた。世紀の天体ショーに彼女を取り上げた産婆までもが空を見上げていたという。
公爵で勇敢な軍人でもあった父が早世すると精肉店の主人に引き取られる。"レースは貴族の嗜み"という空気が色濃く残るこの時代、幼いウマ娘のレースへの道は閉ざされたように思えた。
③同商店街
角を曲がるウマ娘、遠くに1ギニー金貨とそれを拾おうと近づく紳士が見える。「いける!」加速するウマ娘。物凄いスピード。
【ナレーション】
この出会いまでは
④同商店街
もう少しで金貨にたどり着く紳士、物凄いスピードで迫るウマ娘に気が付いて
紳士「な!?」
ウマ娘「うおりゃあ!」
紳士「っ!」
慌ててステッキの先を金貨に突き刺す。
しかしウマ娘の足の方が早く金貨を踏みつけており、その足を突き刺してしまう。
ウマ娘「痛ってえ!」
足を押さえて飛び跳ねるウマ娘を尻目に金貨を拾う紳士。
ウマ娘「おっさん!私の方が早かっただろ」
紳士「そうだな。だが今、金貨は私の手にある」
ウマ娘「卑怯だぞ」
紳士「なんとでも言え。この世は結果だけがものを言うんだ」
ウマ娘「じゃあ、その結果を変えりゃあいいんだな。後で文句言うなよ」紳士に飛び掛かる。
紳士「こ、こらっ、よせ。はしたないぞ」
ウマ娘「知るか!」
ひとしきり揉み合った後...
紳士「わ、わかった。こうしよう。この金貨はお前にやる。その上で相談だ。」
ウマ娘「。。。?」
紳士「レースに出る気はないか?」
ウマ娘「!!」
紳士「ウマ娘たちが持てる力をぶつけ合い勝利を競うレースイベントだ。お前の足なら十分勝負になると思うぞ」
ウマ娘「・・・(暗い面持ち)」
紳士「走るのはウマ娘の本能なんだろ?勝負したくないのか」
ウマ娘「したいよ。出来りゃしたいに決まってんだろ。でも・・」
紳士「私と契約するならレースに出してやる。契約金はこの金貨でどうだ」
ウマ娘「ほ、ほんとに?」
紳士「嘘と溜息は吐かない主義だ」
ウマ娘「はああ~(みるみる表情が晴れやかになる)」
紳士「名前を聞こう」
ウマ娘「エクリプス!」
紳士「エクリプス。走りを見てやるから、明朝はずれの丘に来い。それと私のことは大佐と呼べ」
エクリプス「わかった!ありがとう大佐!」
手を振るエクリプスを見送る大佐。
⑤次の日 町はずれの丘
ぽつんと立ち尽くすエクリプス。
エクリプス「あのクソオヤジ~!」
⑥酒場。まだ明るい時間で客もまばらだ。
入ってくる大佐。
客1「よう大佐。今日は早いね」
大佐「(金貨を見せて)ああ。昨日通りでこんなものを拾ってね。この幸運を皆と分かち合おうと思った次第さ。好きなものを飲んでくれ」
客2「ひゅ~」
客3「大佐のおごりだって?明日は雪だな」
エクリプスの声「誰の金でいい顔しようとしてんだオッサン?」
大佐「!~~~」
恐る恐る振り向くとエクリプスが全身からオーラを放って仁王立ちしている。
大佐「や、やあエクリプス。これから行こうと思ってたところだ」
⑦町はずれの丘に大佐と客1
大佐「(はあ~。適当にほめて機嫌とっとこ)」
丘の下で準備中のエクリプスに
大佐「いつでもいいぞ~」
エクリプス、大佐の声に手を挙げてこたえて
エクリプス「本当に大丈夫かなぁ。なんか胡散臭いんだよな」
「フッ」と息を吹いて鋭いダッシュで駆けていく。爆発的なスピード。
客1「飛ばし過ぎだ。すぐバテちまうぞ。にしてもすげえスピードだな」
大佐「おいおい。。(飛ばし過ぎだ)」
エクリプスのスピードは衰えない
大佐「おいおいおい。(まじか)」
スタートと同じ速度をキープし続けるエクリプス
大佐「おいおいおいおい!(これは!)」
客1「大佐、こいつはとんでもない化け物だぜ」
走っているエクリプス。頬に当たる風に自然と笑みがこぼれてくる。
エクリプス「ハ。ハハッ」(走れる喜び)
大佐も自然と笑みがこぼれる。
大佐「ハ。ハハッ」
⑧季節が流れてゆく
トレーニング風景や勝負服試着、季節感のあるイベント等
⑨部室(のような部屋)
大佐「デビュー戦が決まったぞ。4マイルのヒート競走だ」
【ナレーション】
「ヒート競走とは決められた距離を複数回走り、先に2勝を挙げた者が勝利となるレースである。1回4マイル(約6400m)の競走を勝負がつくまで続ける過酷なレース形態であり、現在ではプログラムからほぼ姿を消している」
客1「ひえー。いきなりヒートレースかぁ。きついとこ入れられたね」
大佐「ああ。だがエクリプスなら問題ない」とエクリプスを見る。
エクリプス「(レースに出れる・・・)」
大佐「前日にレース場に入って試走だ。そこでコースを頭に叩き込め。レース中に迷子はごめんだからな」
エクリプス「わかった」
⑩エプソムダウンズレース場
エクリプス「うわああ!広ーい!」
大佐「エプソムレース場はとにかく坂がキツイ。最初は流す感じで坂の場所と傾斜を確かめるんだ」
エクリプス「(笑)」
大佐「なんだ?」
エクリプス「よく知ってるんだね」
大佐「当たり前だ。何年通ってると思ってる?」
⑪試走者受付前
大佐「レース参加者だ。試走を申し込みたいのだが」
受付「申し訳ありません。ただいまの時間はクラブメンバーの方のみコースの使用が可能となっておりまして」
エクリプス「クラブメンバー?」
背後からの声「ジョッキークラブの事ですよ」
振り返ると貴族風の男性が笑みを浮かべてこちらを見ている。
貴族1「こんにちはウマ娘のお嬢さん。レースにでるのかい?」
エクリプス「え。あ、はい。明日のヒート競走に」
貴族1「では君が噂の・・そのレースには私のパートナーも出走する予定でね。いいレースを期待していますよ」
エクリプス「あ、はい!がんばります」
貴族1(大佐の姿を見とめて)お前は。。」
大佐、少し顔をそむける
貴族1「ふむ。お嬢さん、どういった関係か知らないが、貴女のために忠告する。今すぐこの男と手を切りなさい」
大佐「・・・」
貴族1「この男は必ず貴女を不幸にする」
大佐「・・・」
貴族1「知らないのですか?この男がどの様にして今の地位に就いたのかを」
大佐「いくぞエクリプス」
エクリプスの腕を掴んで行こうとする。
エクリプス「でも試走が」
大佐「いいんだ」
貴族1「待ちたまえ」
と二人の行く手に立ちふさがる。
大佐「そこをどいてくれませんかね」
貴族1「行くなら一人で行き給え。彼女には走る権利がある」
大佐「クラブのウマ娘しか入れないのでは?」
貴族1「私の口添えがあれば平気だよ。彼女の走りは是非とも見ておきたいからね」
エクリプス「え!いいの?」
貴族1「(受付に)彼女を通してやってくれ」
受付「どうぞお入りください」
エクリプス、媚びるような眼差しで大佐を見る。
大佐、首で"行け"
エクリプス、嬉しそうに入ってゆく。
その姿を見送った大佐、去ろうとするその背に
貴族1「一つ言っておく」
大佐「(背を向けたまま)・・・」
貴族1「貴様が庶民どもから幾ら巻き上げようと私には関係の無い事だ。興味もない。だがウマ娘は別だ。彼女たちは我々同様に尊ばれるべき存在なのだ。貴様ら下賤の輩が触れてよいわけがない。だがまあ、エクリプスを見いだした事は褒めてやる。」
大佐、怒りの形相でその言葉を聞いていたが、振り向いた時には満面の笑み。
大佐「身に余る光栄にございます閣下。クラブの皆様にエクリプス嬢をご紹介出来たことは私めの喜びにございます。この上はクラブの皆様のお力で彼女に相応しい舞台をと切に願うばかり」
貴族1「貴様に言われるまでもない。失せろ。二度と彼女の前に姿を見せるな」
大佐「仰せのままに」
貴族1に背を向けた大佐。邪悪な目つきに変わっている。
⑫レース場内コース
試走中のエクリプス。他のウマ娘とは明らかに違う迫力とスピード。上半身を低くしたフォームが印象的。
⑬コース脇の森でキノコを採っている老婆のそばを猛スピードで駆けてゆく。
老婆「ほえ~」
そのあと遅れて他のウマ娘たちが通り過ぎてゆく
後続のウマ娘「む~り~」
⑭レース場内VIP席
貴族たちがくつろいでいる。
双眼鏡でエクリプスの試走をみている貴族2
貴族1「どうだい?彼女の走りは」
貴族2「噂に違わぬスピードだね。もうあんなに差がついてる。正直想像以上だ。だが、あのフォームはいただけないな。まるで小銭を探しながら走っているようじゃないか」
ドッと笑いが起こる。
貴族1「なら君が躾ければいい」
貴族2「…そうだな。でもいいのかい?あの娘はこれからのレースを総なめにするよ」
貴族1「私からの贈り物だよ」
貴族3「借りを作ったね」
貴族4「これは高くつくぞ」
今度は軽く笑いが起こる。
⑮エプソムレース場 レース当日
大勢の観客でにぎわっている。立ち並ぶ露店や簡易遊具などで遊ぶ子供も。
コースではウマ娘のレースも行われている。
柵際で声援をおくる庶民たち。
やってくる大佐。常連客っぽく慣れた足取り。
観客1「やあ大佐。次はどのウマ娘が勝つんだい?」
大佐「赤い勝負服の娘だ」
観客1「ありがとうよ」
大佐モノローグ「どいつもこいつも間抜け面しやがって。カモが大勢詰めかけてやがる。俺はこいつらを2種類に分ける。金のとれる奴と欲の張った奴だ。金はどっちからでも取れるが、欲の張った奴からのほうが大きくカモれる。何より後腐れがないのがいい。ギャンブルなんてモンは普通にやってれば勝ったり負けたりしかないからな。」
観客2「大佐、だれが勝つか教えておくれよ」
大佐「ベージュの勝負服だ。間違いない」
大佐モノローグ「こうして何人かに適当に答えておくと誰かは当たる。そいつは謝礼と言って俺のところへ配当金の一部を持ってくる。だがまあ、こんなのは小遣い稼ぎでしかない。今日の俺の本命は…当然エクリプスだ」
⑯大佐の回想シーン
夜更けの部室。窓辺の椅子に腰かけている大佐。テーブルにはウイスキー。
出入口に立っているエクリプス。
エクリプス「大佐。。。」
大佐「幻滅したか」
エクリプス「(首を振る)大佐がクソなのは元から知ってたから」
大佐「そうなのか?結構傷つくんだが」
エクリプス「もうちょっと客観的に自分を見たほうがいいよ」
大佐「・・・」
エクリプス「荷物を取りに来たの」
大佐「そうか。晴れてクラブの仲間入りだな」
エクリプス「大佐のおかげだよ」
大佐「お前に上流階級の作法が身につくとは思えんが」
エクリプス「うん。私も自信ない」
二人「(笑い)」
エクリプス「もう行くね」
大佐「エクリプス。最後に一つだけ頼みを聞いてくれないか」
エクリプス「…言ってみて」
大佐「明日のレース、私の言う通りに走ってほしい」
エクリプス「・・・(頬をつたう涙)」
大佐、返事がないのでエクリプスを見る。
月明かりがエクリプスの顔を照らす。両方の目から流れる涙。
大佐「…あ、いや冗談だ。忘れてくれ」
エクリプス「いいよ。明日は大佐の言った着順でゴールする」
大佐「・・・」
エクリプス「ありがとう大佐。私を見つけてくれて」
⑰エクリプスのレース 第1ヒート
派手な勝負服を纏い最終ホームストレッチを駆けてくるエクリプス。差がなく4人のウマ娘たちが続く。
実況「さあ、最終コーナーを周って直線だ。先頭はエクリプス。続いてガウアー、差がなくゲード」
コース上のエクリプス、少し覇気がない。が、最後の力を振り絞って後続を突き放す。
実況「並ぶか、並ばない。並ばない。エクリプス1着でゴール!第1ヒートを勝ったのはエクリプス!」
ゴール後、大きく肩で息をしているエクリプス。
エクリプス「試走と全然違う。思うように息ができない。これが本物のレース・・」
⑱レース場内VIP席
レースを見ている貴族たち
貴族4「やっぱり強いな」
貴族1「だが少し重そうだ。まあ初めてのレースだしこんなものか。それより彼女のあの勝負服は君の趣味かい?」
貴族2「エレガントだろ」
貴族1「まあ、君がいいのなら私は何も言わないよ。(ふと庶民たちが集まる客溜まりを見る。大佐がいる)」
⑲客溜まりの大佐
大佐モノローグ「筋書き通りだ。今のレースを見せられては皆、次もエクリプスの1着を信じない訳にはいかないだろう。いわゆる鉄板レースというやつだ。だが、もしあいつが1着を外すようなことがあったとしたら。これは大波乱だ」
客達口々に「次もエクリプスしかない!」「ここは勝負所だぜ」
大佐モノローグ「そうだ。いいぞ、みんなあいつを応援してやってくれ。あいつに期待してくれ。俺がこの黒板に好きな着順を書くだけでエクリプスはその通りにゴールする。あんたらの金は全部俺の懐に舞い込むって寸法だ。すまないな。しかし馬鹿なウマ娘だぜ。わざと手を抜いた事がバレればレースからは永久追放。運よくバレずに済んだとしてもそうだな、そいつをネタにゆすってやることだって出来る」
大佐、VIP席の貴族たちを見上げる。
大佐モノローグ「あんたらの言う事は正しいかもな。認めるぜ。俺は根っからの悪人だ。エクリプスを拾ったのだってあいつが金になるからさ。あんたらが横からさらっていかなきゃずっと甘い汁を吸えると思ったんだが」
大佐、黒板に向かいチョークをとった。
大佐モノローグ「まあ、俺は俺の取り分をいただいて退場するよ」
黒板に書こうとする手が止まる。
大佐モノローグ「どうした何をためらう?好きな数字を書くだけだ。簡単だろ?」
フラッシュバック。金貨を巡っての立ち回り。酒場での仁王立ちエクリプス。初めてエクリプスの走りを見た丘。エクリプスの笑顔。等々
大佐「(吹っ切れたように)…俺も焼きが回ったな(振り向いて場内に轟くように大声で)諸君!提案がある」
⑳ウマ娘控え室(大部屋)
エクリプス以外のウマ娘たちには付き添いがいて世話をしている。
1人で思いつめた表情のエクリプス。どうにもアクセサリーが気になる。落ち着きがない様子。
不意に場内がどよめく。ざわめく控室のウマ娘達。
エクリプス「!!」窓の外に身を乗り出す、遠くに大佐が書いた黒板の文字が。
エクリプス目を大きく見開いて驚いた表情。
㉑VIP席。客溜まりからどよめきが聞こえてくる。
貴族1「何事だ?」
使用人「例の大佐が次のレース、全ウマ娘の着順を当ててみせると言い出しまして」
貴族1「5人全部の着順だと?」
使用人「はい…」
貴族2「随分大きく出たな」
貴族1「その程度でなぜこんな騒ぎになるんだ」
使用人「それが…」
貴族1「いいから言ってみろ。奴は何と予想したんだ」
使用人「1着はエクリプス」
貴族2「妥当な予想だね。面白味は無いが」
貴族1「それでその後は」
使用人「はい。後は…誰もいない」
貴族1「!?」
ざわつくVIP席
【ナレーション】
「当時、レース中に1着から240ヤード(約220m)の距離を空けられるとそのウマ娘は失格となり、着順がつかなくなるというルールが存在した。しかしこれは実に88バ身差という現実味のない数字の為、このルールは事実上形骸化していた」
貴族1「私のウマ娘が88バ身も離されるというのか」
眼下の客溜まりを見下ろす貴族1、大佐と目が合った。
帽子をとって挨拶する大佐。
貴族1「下郎が!」
㉒第2ヒート発走ゲート前
遠くの黒板に"Eclipse first, the rest nowhere."(エクリプスが1着、その後は誰もいない)の文字と、こっちを見ている大佐。
エクリプス「大佐…」
他のウマ娘たち一斉にエクリプスを睨む。目が△。「ぶっ潰す!」
エクリプス「いくらなんでもハードル上げすぎだよお。ナンダヨ88バシンテ」
ゲートインするウマ娘達。エクリプスのゲートから物を引き千切る様な音、布を裂く音が聞こえる。
ウマ娘達「⁇」
ゲートで全身が見えないエクリプスの足元にアクセサリーやリボンが音をたてて落ちる。
エクリプスの口元「見ててね。私の全力」ゲートが開く。
スタートするウマ娘達。芝を啄んでいた小鳥達が一斉に飛び立った。
装飾を取り去って見窄らしいが身軽になったエクリプスを先頭に一列棒状に駆けてゆくウマ娘達。
ウマ娘1「(第1ヒートはゴール勝負出来たんだからこのヒートだって)」
ウマ娘2「(このまま付けきって最後に差す!)」
エクリプス「(一走目と全然違う。体が軽い。こんなのどこまでだって)フッと笑みが溢れて(あんたのせいだよ大佐)」
エクリプス、ギヤを上げて速度アップ。
ウマ娘達「!!」
必死に付いていこうと速度をあげるが、どんどん遠ざかるエクリプスの背中。
ウマ娘1「(あんなの)」
ウマ娘2「(かなうわけない)」
ウマ娘達「む~り~」
大佐モノローグ「一角の男になりたかった。街や通りの名前になるような、残した言葉が語り継がれるようなそんな人間になりたかった。お前は笑うかもしれないが、俺にだってそんな時分があったんだぜ。最近あの頃を思い返す事が多くなっちまった。全くお前の走りには奇妙な力が宿っている気がするよ」
㉓最終コーナーをたった一人で駆けてくるエクリプス
実況「タッテナムコーナーをただ一人で来たのはエクリプス!後ろからは何にも来ない!後ろからは何にも来ない!」
最後の上り坂を一人駆けてくるエクリプス。
大興奮で声援を送る観客達。
VIP席の貴族たちも見入っている。
見つめている大佐。
大佐モノローグ「エクリプス。祝福されざるウマ娘よ。お前は陽のあたる道を行け。見るものに畏怖の念を抱かせ、対戦相手には戦慄を与え、そして俺のこんな人生にも喜びがあると教えてくれたその脚で」
ゴールするエクリプス。さほど息も切れていない。大歓声に手を挙げて応えている。
着順掲示板には
Eclipse 1
Gower dr(失格)
Cade dr(失格)
Trial dr(失格)
Bloom dr(失格)
の文字
大勢の関係者に囲まれて自由に動けないでいるエクリプス。大佐の立っていた辺りを見ながらその姿を探すが見つからない。
数日後
㉔郊外の道を荷車を曳いているウマ娘。
旅行鞄を持った男が乗せてもらえないかと交渉中。大佐だ。話がまとまったらしく、荷台に腰をかける。新聞を開くとエクリプスの記事が載っている。
【ナレーション】
「エクリプスのデビュー戦は強烈なインパクトを残して幕を閉じた。大佐と呼ばれたこの男はその後もウマ娘レース界に足跡を残し続けたが、クラブメンバーに迎えられる事は終になかった」
㉕エプソムレース場の黒板に書かれた"Eclipse first, the rest nowhere."の文字。
トレセン学園生徒会室にも"Eclipse first, the rest nowhere."が額に収まって飾ってある。
【ナレーション】
「彼が『人生最大の失敗』と後に振り返ったこの言葉は別の意味をもって後世に伝えられていく事になる。
㉖再び荷車の大佐
荷台の大佐の隣に飛び乗ってくるウマ娘。エクリプスだ。
エクリプス「よっ…と」
大佐「・・・(目は新聞を見たまま)」
エクリプス「・・・」
大佐「何してる」
エクリプス「別に」
大佐「クラブの練習があるだろう」
エクリプス「やめてきた」
大佐「そうか」
エクリプス「ん」
二人「・・・」
大佐「阿呆かお前は!」
エクリプス「だってあそこ息苦しいんだもん!やっぱり私は自由に走るのが合ってるってわかったんだよ」
大佐「私は面倒見ないぞ」
エクリプス「じゃあ契約金の1ギニー返して」
大佐「うっ」
エクリプス「早く〜、私の金貨返してよ〜」
大佐「あ、あれは…使ってしまった」
エクリプス「それじゃあしょうがないよね。元気出しなよ相棒、次のレースで稼げばいいじゃない。」
大佐「(納得いかない様なうれしい様な)」
エクリプス「それで?次はどこに行くつもりなの」
大佐「アスコットレース場だ」
エクリプス「アスコットかぁ。ご当地グルメとかあるのかな?」
大佐「エクリプス、一つ教えておいてやる。この国のどこへ行っても食い物だけには期待するな」
エクリプス「え〜」
一本道を進む荷車。アスコットレース場まで36マイル。
〜了〜