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ショートショート(短編集)

霊感少年

作者: 清水進ノ介

霊感少年


 その少年は、霊を視ることが出来た。いわゆる「霊感」の持ち主である。生まれつき霊が視えたわけではないが、ある日突然、その能力が備わったのだ。いつものように、電車に乗り、学校へ行き、塾へ行き、また電車に乗り帰宅する。毎日変化の無い暮らしを送っていただけなのに、どういうわけか、霊が視えるようになったのだ。少年は最初、突然目覚めた霊感に恐怖したが、時間が経つにつれ、その恐怖は霊への好奇心に変わった。街をさまよう霊を観察することが、いつしか少年の趣味となっていた。


 しばらく人間観察ならぬ、霊観察を続けていて、気付いたことがある。霊というものは、自分が死んでいることを、自覚していないのだ。体が半透明になり、物体をすり抜けているのにも関わらず、本人達はそれに疑問を持っていないのである。そして生前の生活を、延々と繰り返しているのだ。

 ある老人の霊は、公園で毎日、ハトにエサをやった気になっている。一日中ベンチに座っていて、朝方公園にハトが集まってくると、ゆっくりと立ち上がり、空っぽの手のひらの上から、パンくずを撒くような身振りをして、またベンチに座る。ある女性の霊は、毎日同じルートで、犬の散歩をした気になっている。右手には犬のリードが握られているが、そこに犬はいない。リードをずるずると引きずりながら、時折なにも無い空間に向かって「今日もいい天気ねぇ、ベンちゃん」などと笑顔で話しかけている。


 少年はそのうち、霊に対して、うらやましいような、哀れみのような、複雑な感情を持つようになった。街で見かける霊達は、皆幸せそうに見えるからだ。将来に対する不安など何も無く、自分が望む生活を、この先も延々と続けていくのだろう。それは不幸なのか、幸福なのか。少年が「自分も霊になったら分かるのかもなぁ」などと考えながら歩いていると、通学路が工事で塞がれていた。迂回して行くと、学校に遅刻してしまうが、問題はない。すり抜けて行けばいいだけなのだから。いつものように、電車に乗り、学校へ行き、塾へ行き、また電車に乗り帰宅する。いつものように、いつものように……。


おわり

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