伏線
物語には流れが変わる瞬間のようなものがある。それは無数に散りばめられた伏線から変わっていくこともあれば、1つの強い衝突から変わるものもある。
僕は「ああでもない、こうでもない」といってどうしようもない社会や、ネットの世界を彷徨っている。今年で28才のフリーターだ。
もう少し詳しく書こう。YouTubeの動画の見過ぎと夜遅くまでのスマホゲームのせいで目が慢性的に疲れていて、顔にできるニキビ。薄くなる髪の毛。友達のいない孤独。言い表すとキリがないような、しょうもないような、小さいようで大きいストレスがこの物語の流れを変えてしまうのではないかと心配している。もちろん結末はバッドエンド。
何事もストレスは良くない。負の要素のある伏線はどれも悲しい結末に決まっている。どうせなら、運命の人に出会うとか、自分の新たな才能に気付くとか、ハッピーでラッキーなものが望ましい。
先日、バイト帰りの電車でのことだ。電車から駅のホームに降りた中年のサラリーマンが空けた席に、ピンク色のライターが置き去りになっていた。
僕はちょうどその席に座ろうとしていたので持ち忘れたか、ポケットから滑り落ちたかしたライターが邪魔だった。ただ、ライターをどけて座るような豪快さや、とぼけて気にもせず座るような無関心さは僕に持ち合わせていなかったので仕方なく、たった今ホームに降りたスーツ姿の男性に、
「すみません!このライター落としませんでしたか?」と声をかけた。
「ありがとうございます」
そう言って男性はライターを受け取るとこれから待ち受ける幸せな家庭へと帰っていった。
このなんて事ないちょっとした出来事に、僕は希望のような変化を求めている。つまらない、みじめったらしい28才男性の人生に。
例えば、これが中年サラリーマンではなく、黒髪ショートで文学好きな女性だったらば。ピンク色のセンスの一つもない下品なライターではなく、文庫本から落ちてしまった1枚の栞だったなら。これはハッピーでラッキーな伏線になりえたのかも知れない。
どうか、このつまらない人生を変えてくれ。この男に幸福を。
本当に何かを変えたいのなら、生活の一つの習慣から変えることだろう。YouTubeで配信者が銃を撃ってるのを観るのではなく、腕立て伏せでもしておくとか。夜中にスマホゲームをするのではなく、BARでマティーニでも飲むとか。
ただ、腕立て伏せよりストレッチ。マティーニよりジントニックのほうが僕の好みではあるが。