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第1話

 どこまでも果てしなく広がる、乾いてひび割れた赤土の荒野。

 灰色に澱んだ空の下に、ウェイストランドと呼ばれる町があった。『棄てられた大地』という名が示すように町は静まりかえり、まるで無人の廃墟のように活気を失っていた。


 そんな寂れた町のうらびれた片隅に、一軒の古ぼけた宿酒場がある。

 昼に差しかかろうというにもかかわらず、店はしんと静まり返っていた。砂嵐に晒され傷んだ木造の建屋の入口には、掠れて辛うじて視認できる文字で「デュワーズ・イン」と読める木札がかかっている。


「あれは……」


 水を汲むために店から出てきた少女が、がたついた蝶番のドアを開いて足を止めた。年の頃は十の半ばほど。陽に灼けた暗褐色(ブルネット)の長い髪に、繕って古ぼけたドレスを身に着けている。

 あどけなさの残る少女の視線の先には、一人の男が倒れていた。帽子を目深に被り、擦りきれて襤褸切れのようになった砂除けのコート(ダスターコート)を身体に巻きつけている。

 ここまでずっと、歩いてきたのだろうか。周りに馬がいる気配はなく、脇に転がったズダ袋に大した荷物が入っていないようだ。

 遠目からでは生きているのか、死んでいるのかの判別がつかない。倒れた男を遠巻きにおそるおそる声をかけるが、返事は返ってこなかった。意を決した少女が男の身体に手をかけると、身じろぎをして微かな呻き声をあげる。


「もし……。もし……?」

「ぅ……ぁ……」


 男は息も絶え絶えによろよろと顔をあげた。白髪に近い、色褪せたアッシュブロンドのくせ毛をしている。何かを伝えようとして、乾いてひび割れた唇を力なくわななかせる。


「は、は…………」

「だ、大丈夫ですか? もし……」


 呼びかけながら、微かな言葉にじっと耳を傾ける。やっとの思いで、男はひと言の言葉を絞りだした。


「はら……へった……」


 そのまま、ぱたりと倒れる。唖然とする少女をよそにして、胃袋が蠕動する、ぎゅるぎゅるという音が荒野にこだまする。

 砂交じりの風に運ばれた回転草(タンブルウィード)が、侘しく地面を転がっていった。

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