5:勇者として過ごした日々のこと。
皇帝陛下から事情を説明されてから、僕は怒涛の日々を送った。
まずは創造神様たちから授かった力の確認から。
授かったのはこの世界で生きていくために必要な知識。常識とか、言語とか、そういうの。
次に戦うための力。高い身体能力、望む形へと変化する神器とそれを揮うための戦闘技術、魔法の知識とそれを扱うための莫大な魔力、あとは強力な防具や装飾品といったいくつかの神器。
最後に僕の戦いをサポートしてくれる神獣たちや天使族の人たち。彼らは僕と一緒に戦ってくれる。僕一人じゃ魔王の軍勢を相手になんてできないから。多勢に無勢ってやつだ。
授かったものを確認したら、すぐに戦場へ向かった。一刻の猶予もなかったから。
今にも陥落しそうな六大陸を、それぞれに残った最後の国を、守らなくちゃいけなかったから。
僕が最初に向かったのは火の神様が守護する大地、「火の大陸」。そこではじめての戦闘を行った。はじめて魔獣を、生き物を殺した。
創造神様が授けてくれた精神耐性のおかげか、思ったよりも動揺はしなかった。というよりも、してる暇がなかっただけだったのかもしれない。
魔獣も魔族も、ひっきりなしに襲い掛かってきていたから。
僕はひたすら戦った。神獣たちや天使族の人たち、そしてこの大陸に生きる大勢の人類種たち。皆の力を合わせて、火の大陸を人類種の手に取り戻した。
そのあと僕はすぐにお隣の大陸へ渡った。次は水の神様が守護する大地、「水の大陸」。
そうしてまた戦い続けて、また水の大陸を取り戻して。
次は風の神様の「風の大陸」、その次は地の神様の「地の大陸」、次は光の神様の「光の大陸」、最後は闇の神様の「闇の大陸」。それぞれを一年に一つくらいのペースで取り戻していった。
時折取り戻した大陸に大規模な襲撃とかが起こって、そのたびにその大陸に向かったりして防衛したり蹴散らしたり…。本当に、よく生きてたな、って思うよ。
そして最後。魔王討伐に向けて、「暗黒大陸ゼーレイ」の攻略が開始された。
手伝ってくれたのは他七大陸に生きる多くの人類種たち、聖獣たち。そして今までずっと僕を支えてくれていた、神獣たちに天使族たち。
特に七大陸それぞれの英雄・聖女と呼ばれる彼ら彼女らは、すごかった。今までの恨みを晴らすべく、多くの魔獣を、魔族を蹴散らしていった。
彼ら彼女らのおかげで、僕は魔王討伐に集中することができた。皆が居なかったら、きっと僕は魔王と魔族を同時に相手しなければならなくなっていただろう。
そして。
僕は、無事魔王を討伐した。
激戦だった。何度も死にかけた。終わった時には満身創痍で、殆ど死に体だった。
あのあと僕が死なずに済んだのは、水の大陸の聖女さんと天使族の皆が頑張って癒してくれたからだ。おかげさまで後遺症もなく、五体満足で生きられてる。本当にありがとう、皆。
魔王が討伐された知らせは、全世界同時に伝えられた。創造神様たちが、神託を降ろしてくれたから。すべての人が見られるように、知られるように。そして、傷ついたすべてのものが、少しでも癒えるように。奇跡の雨を降らせてくれたんだ。
奇跡の雨の効果は、そんな劇的によくなるようなものじゃなかった。
じんわり、じんわり、染み込んでいって、少しずつ少しずつよくなるものだった。
あんまり派手にやるとせっかく守られた世界が更にぐちゃぐちゃになっちゃうから、これが限界だったらしい。
それでもこの奇跡の雨のおかげで多くの人が助かったし、荒れ果てた大地にも海にも力が戻った。十年もすれば、かなり豊かになるんじゃないかって、光の大陸の英雄さんが言っていたっけ。
こうして僕の戦いは終わった。魔王は討伐され、世界に平和が戻った。
もちろん、これからも大変だ。魔王によって荒らされた大地や国を元に戻していかなければならないし、魔族は魔王を倒した時に一緒に死んじゃったみたいなんだけど、魔獣は取りこぼしたものが結構残っているから。
だけど、一区切りついた。だから、これでいいんだ。僕の勇者としての冒険は、ここでおしまい。
僕に残された仕事は、神聖帝国での報償授与式くらいなのだ。
魔王を倒した僕が褒美をもらわないと、他の人たちも貰えないもんね。
そして報償授与式当日。僕は皇帝陛下から願いを問われた事で、忘れていたことを思い出したのだ。
勇者として降り立ったあの日に、いつかと願ったはずの思いを。