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(元)勇者の異世界旅行記 ~お仕事終わったので旅に出ます!~  作者: 天宮
序章:「勇者」のはじまりからおわりまで。
3/15

3:勇者となった日のこと。

 ぱちり。


 目が覚めた。

 いつの間に眠っていたんだろうか。あのまま、縁側で寝てしまったんだろうか。今、何時だろうか。

 そんなことを考えていたはずなのに。そんなことは、一瞬で吹き飛んでいった。


 白かった。

 辺り一面が、どこまでも。どこまでも。ただただ白い。けして同じ白さじゃない。はっきりとはわからないけれど、でも、ほんの少しずつ違う白さで、その場所は出来ていた。


 床は絵の具のような白さ。

 空は雪のような白さ。

 床と空の間にはどこかくすんだような白さの、雲のようなものがふわふわと浮かんでいた。


 あまりの光景に、言葉をなくしてただただ茫然と見ているしかなかった。






「君が、わしの声に応えてくれた子だね」


 我に返ったのは、そんな言葉が聞こえてきたとき。

 後ろから聞こえてきたのは、しわがれながらも柔らかい、優しい声だった。

 振り返れば、そこにいるのはおじいさんだった。優しそうな顔立ちの、丁度祖母くらいの歳の。

 おじいさんはまるで仙人みたいだった。木でできた杖を持っていて、白いローブみたいなのを着てて、真っ白で長い髪とお鬚。

 おじいさんは僕に笑いかけながら、ゆっくりとした口調で話し始めた。


「まずは自己紹介といこう。といっても、わしは君に名乗る事は出来ないのだが」


 おじいさんは苦笑しながら続ける。


「わしはとある世界で創造神をしておるものだ。わしのことは、創造神とでも呼んでおくれ」

「創造神、さま?」

「うむ。わしが君に名乗れない理由は、君を守るためだ。わしら神の名というのは、それ自体が強い力を持つ。人の子は脆い。わしらの名を知るだけで魂が潰れてしまうからの」

「つぶ、れる」

「魂が潰れてしまっては、輪廻を巡る事すらできなくなってしまう。だからこそ、わしは君に名乗る事ができんのだ」


 魂が潰れる。輪廻を巡れなくなる。

 それってつまり、死んじゃう上に魂が消えちゃうってこと?うわぁ…。神様の名前って、こわい。


「さて。まずはこの場所の説明をしようか。ここは世界のはざま。君の世界の外側、他の世界へとつながる場所だ」

「はざま…。世界につながる、世界の外側…」

「わしが君をここに呼んだ。正確には、わしの声に応えてくれたものを連れ出したのだ」

「声…?」

「理解しやすいように声と言っているだけだ。実際に話しかけたわけではない。そうさな、波長が合ったとでも言えばいいか。君の世界で言う神隠し、あれが近い」


 なるほど。何かを聞いた覚えはないと思ったら、実際に話しかけられたわけじゃなかったのか。

 でも、神隠しかぁ…。それってつまり、僕、向こうじゃ行方不明ってこと?いやまぁ、僕が消えても誰も困らないけどさ…。


「わしは君の世界に呼びかけていた。わしの世界を救ってくれるものを探していた。そうして応えてくれたのが、君だった」

「世界を、救う…?」

「そうだ。今、わしの世界は滅亡の危機に瀕してる。突如現れた「魔王」の存在によって」

「魔王、って…」


 なにそれ。魔王によって世界が危機に瀕してるとか、どこのゲームの話?つまりこれ、僕に勇者にでもなれってこと?

 僕、運動は苦手なんだけど。というかこれって魔物とかと魔族とか、そういうのと戦うって事だよね?無理、無理だよ。殴り合いのケンカとかすらしたことないのに、どうやって戦えって言うの。


「君にはわしの世界に来てもらいたい。「勇者」として、「魔王」を倒してほしい」


 やっぱり…。


「あの、僕は、」

「もちろん、そのままで戦えとは言わんよ。必要な力はわしらから授けよう。折れぬ心も、揮う剣も、そのための知識も技量も、すべて」


 つまりチート能力はくれる、って事だよね?

 折れぬ心、は精神耐性とかかな。命を奪っても気にしなくなる、ってことかな。

 揮う剣は聖剣とかかな。最強の専用武器かな?

 知識、は創造神様の世界の常識とか言語とかそういうのかな。あとは魔法とかあるならそれも?

 技量はそのまま剣術が勝手に身につくって事?


「どうだ、頼まれてくれんか」

「どう、って…」


 致せり尽くせり状態なのはわかるけれど。でもこれって僕である必要ない、よね?


「あの、僕には、無理です。他の人に頼んでください…」


 僕には無理。勇者なんて、戦えだなんて。そんなの、無理だよ。


「他の人、か。それは不可能だ」

「え?」


 不可能?なんで?


「わしが君の世界に干渉できるのは一度だけ。それ以上は許されとらん」

「許すって、誰に…?」

「もちろん君の世界を統べる神に。わしの声に応えてくれたのは君だけだ。よってわしの世界に呼べるのもまた、君だけだ」

「そんな…」


 リセマラもクーリングオフもないとか、そんなばかな。ひどい。僕以外無理とかそんなの僕のが無理だよ!


「どうか、頼まれてくれんか。君だけが、わしらにとって最後の希望なんだ」

「最後、って」


 創造神様の世界はそれだけ切羽詰まってるってこと?創造神様の世界の人たちじゃ、どうにもならなかった、ってこと?

 そんな世界に行って、戦って来いって事?僕が?


「あ、の。僕が断ったら、創造神様の世界は、どうなるんですか…?」

「どう、か。まず間違いなく滅びることになるだろうな。すべての命が「魔王」の搾取の対象になるだろう。動物も魔物も聖獣も、人類種も、いずれは神すらも。何一つとして例外なく。家畜として、道具として、ただ消費されるのみだ」

「そんな…」


 なにそれ。なにそれ。流石にそれは。そんなのは。


「なんで、魔王はそんなことするんですか…?創造神様は、どうして魔王なんて作って、」

「「魔王」が何を考えているのかは、わしらには分からん。そしてわしは、「魔王」なぞ創っておらん。あれはわしらの世界の外からやってきた侵略者じゃ」

「侵略者…」

「だからこそ、わしらもまた外の存在を頼る事にしたのだ。わしらの世界には、「魔王」に対抗できるものが存在しないが故に」


 そ、っか。魔王って、侵略者なのか。本当に、どうしようもないんだ。創造神様の世界じゃ。対抗手段が、ないのか。

 だから、外から。勇者を、呼ぶことにしたのか。同じ外の者なら、って。

 僕が、やるしか。僕がやらなきゃ、世界が一つ、滅びるんだ。


「頼む。どうか、わしらの世界を救ってほしい」

「…僕、は。普通の人間、です。取柄なんてないし、痛いのは嫌だし、死ぬのは怖い、です」

「そう、か…」

「で、でも!それ、でも。僕が、僕以外に、できる人はいなくて、僕がやらないと世界が滅ぶとか、そんなの言われたら、」


 そう。僕以外。誰もいないなんて。僕がやらなきゃ、世界が滅ぶなんて。大勢の人が、人として扱われないまま死んでいくなんて。そんなの言われたら。


「見捨て、られないです。知らんぷりなんて、できない、から」

「では、」

「や、ります。どこまで、できるかなんて、わからないけれど。できるところまで、がんばります」

「そうか!そうか、…ありがとう。すまない、ありがとう」


 創造神様が、嬉しそうに笑って、僕の手を掴むから。

 だから僕は、頑張ってみようと思うんだ。はじめて、こんなにも誰かに必要とされたのは、はじめてだから。


 そうして僕は、勇者となって創造神様の世界に降り立つことになった。



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