1:勇者の仕事が終わった日のこと。
アリアル歴三二三五年―――。
この日、世界は歓喜に沸いていた。すべての人が、喜び、安堵していた。
神聖帝国リリヴァル・ターレ、帝都ヴァリアル、ヴァリアル城謁見の間にて。
そこで一つの式典が行われていた。
玉座には皇帝が、周囲には帝国の高位貴族。この大陸の主要な国の王族と重鎮、果てには他六大陸六国家、すべての王族たちが出席している。人類史始まって以来の出来事。
彼ら彼女らの目的はただ一つだけ。ある者の偉業を讃える。ただそれだけのために、すべての者が集まっていた。
「勇者カケル・コーノミヤ様、ご入場!」
入場を告げる声と共に、謁見の間の大扉がゆっくりと開いていく。
そこにいるのは一人の少年。見た目は普通の子だ。黒い髪に黒い瞳、どこか幼さを残したその子供は、真っすぐと前を向き、静かに、ゆっくりと進んでいく。
所定の位置についたのか、少年はゆっくりと跪き、頭を垂れた。
「これより「魔王」討伐の功績を称え、勇者カケルへの報償授与式を執り行う!」
進行役の貴族の言葉を受け、皇帝を立ち上がった。
「勇者カケル。此度の「魔王」討伐、まことに大儀であった。そなたのおかげでこの国は救われた!いや、この国だけではない。この大陸、他の六大陸、そのすべてが!この世界そのものが、そなたの行いによって救われたのだ」
「もったいない、お言葉です」
「勇者よ。我ら人類種は、そなたの献身に報いねばならぬ。そなたの願いを聞かせてほしい。我らの力の範囲で、その願いを叶えよう」
「私は―――、っ…?」
少年が何かを告げようとしたその時。何かに気付いたかのように、少年は息を詰まらせゆるりと目を見開いた。
そして少年は、泣きそうな顔で笑いながら、言葉を紡ぎ始めた…。