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海でぐー/現代ファンタジーシリーズ

怪獣といふもの

作者: 海でぐー
掲載日:2021/07/07

777チャレンジの一環です。

暇つぶしにどうぞ。




 その日、地球に衝撃が走った。



「おい、空を見ろ!」

「なんだあれは⁉」

「鳥だ!」

「飛行機だ!」

「いや、スー……宇宙船だ‼」



 とある国のとある場所。


 あるいは、別の国の別の空にも。


 多くの地から見上げる空に、謎の物体が確認された。


「な、なんて大きさだ……」


 その巨大な円盤状の飛来物は、雲を押し退けて地上へと落ちて来た。


 空を切り裂き、大気を割って、轟音と共に。


 だが、物体がただ落ちるのとは比較にならないほど、ゆっくりと。


 明らかにコントロールされた動きで、それは()()()来たのだ。


「な、何が始まろうとしているんだ……?」

「地球の終焉か……」

「人類の滅亡か……」

「終わりの、始まりか……」


 人々が各々にそれっぽいセリフを放つ中、円盤状の何かが地上に着陸を果たす。


 その場所は、日本の国の関西と呼ばれる地域の一角。


 周囲に障害物の無いただっぴろいエリアの中心付近。


「しゅ、首相‼ 我が国の領土に、円盤状の何かが‼」

「え、円盤状の何かって、何だよ⁉」

「しゅ、首相、落ち着いてください! キャラが変わってます!」

「ん、んだな。落ち着いで、本来の喋り、さねばな」

「そ、それもおかしいですが。普段そんな訛ってなかったでしょ?」


 そうして首相官邸が大いに取り乱す中、その円盤状の……つまりはUFOはお構いなしに、次のアクションを見せた。

 着陸して間もなく、その一部が溶けだすように剥がれ落ち、大きな穴となる。


 それは、()()のための「出口」だった。


「そ、総理‼ いいですね、撃ちますよ⁉」

「いいわけないだろ! お、落ち着け!」

「最後までこの国を見捨てずにやろう」

「ははぁん? シン〇ジラのセリフ言いたいだけだな、こいつら」

巫山戯(ふざけ)るのはそれくらいに‼ 何か降りて来ます‼」


 真っ先に現場に駆け付けた民放のヘリコプターからの映像が、日本中に届けられる。それはもちろん首相官邸の一室にも。

 そして、国民の大多数が食い入るように見つめるなか、UFOから降りてきた()()の全容が明らかになった。


「……なんだ、あれは……」

「あれじゃ、まるで……」

「「「か、怪獣……?」」」


 そこにいたのは、特撮の着ぐるみを着ているようにしか見えない()()

 大きさこそ人間とは比較にならないほど巨大ではあるのだが、きっとテレビの前の全員が同じことを思っただろう。


 ――――これ、特撮の番組かなにか……か?


「…………A」


「しゅ、首相⁉ 何か喋りましたよ⁉」

「シッ! まだ彼が喋ってる途中でしょうが‼」


「……A、Aa、アー、あー、ああー。ま、まぃくぅ、no、てすテす、てすと、tyゎ」


「……なんて?」

「まいくぅ、の、てす……テスト? とか言いませんでしたか?」

「ま、待て。まだ慌てる時間じゃない。まずは聞こうじゃないか」


「……ま、ま、㋮! まい……マイクの、てすと、宙‼ あ、ぅアー?」


「……」

「……」

「……」


「マ、マイクの、テステス。テスト中。ち、地球人類の皆さん? き、聞こ、えてますで、しょうか? こちらは、あなたたちからすると、宇宙人です」


「……じ、自分で宇宙人と言ったぞ?」

「そこは、我々は宇宙人だーではないんですね」

「さっきからネタが古いから、若い世代にはきっと分かりませんぞ、総理」

「今言ったのは私ではない。厚生労働大臣だ」

「わ、わたくしも言っておりませんが⁉」

「お巫山戯(ふざけ)はその辺に! まだ続くようです!」


 怒られて納得のいかない顔をする厚生労働大臣を尻目に、全員がテレビ画面に注目する。


 すると、そこに映る巨大な怪獣らしき生物が周囲をキョロキョロと見回し、その視線をヘリコプターの方へ向けた。


「……そちらの、映像装置と思しきもので見えていますかな? この大地、あるいは星の代表者の方に連絡できれば、できるようなら、していただきたい」


 怪獣のセリフに、首相官邸がザワつく。

 それは星の代表なんて荷が重いという意識の現れからか、それとも一瞬でテレビカメラを理解した知性の高さに驚いてのことか。


 首相官邸の面々が、そしてテレビの前の多くの人たちが思った。

 きっとこれは、手の込んだ特撮風の悪戯なんだろう、と。


 着ぐるみを被った人間が、タチの悪いドッキリをやっているだけだろう、と。


「我々はアリズドグ星人と呼ばれる他の星の民。この国の方々と友好を結ぶため、やってまいりました。どうか、代表者による対話を」


 だが、その動作や仕草は明らかに着ぐるみのそれではない。

 そして、CGなどで作られた映像のような違和感も存在しない。


 最近の技術は非常に優れている……とはいえ、流石に目の前の生物が加工されたものか本物かは判断できる。超一流の特殊メイクであっても、人が化けた猿と本物の猿ではやはり違うように。


 だから、真に聡い者たちはそろそろ気付き始めていた。

 これ、本物の宇宙人なんじゃね……と。




 ……

 ……




 それから数時間後。


 段階を踏んで、遂に日本の代表団と宇宙人との対話が実現する。


「……は、初めまして。私がこの国の代表であります、総理大臣の巻です」


「対話に応じてくださってありがとうございます、カンさん。アリズドグ星からやってまいりました、星団連合代表の〇×△ヮトゥ¥¥¥でございます」


「な、なんですって……?」


「おっと、失礼しました。この星の方には発音することも聞き取ることもできないようですね。翻訳機でも我の名はお伝えできないようですので、今は仮に……「U」とでもお呼びください」


「わ、分かりました。では、ユーさんと」


 自衛隊、そして特別大使による宇宙人との初会談が行われている間に、首相官邸では世界各国との調整が行われ、まずは日本の代表による対話から始めることが決定される。

 それは、日本を生贄にして様子見をしたいという各国の思惑ではあったのだが、日本としても自国の領土に飛来されたのだから仕方のない部分はあった。


 むしろ先頭を切って宇宙人と対話するなど名誉なことで、代表の巻は他の大臣たちから次の選挙に有利に働くだろうと助言されたこともあり、「初めて宇宙人と対話した人物になれる」と息巻いていた。

 まあ、本当に宇宙人と初対話したのは自衛隊のとある人物だったのだが。


「不躾に大変失礼をいたしました。事前調査の結果、この地に降り立つのが最も対話が成功する可能性が高いとデータが出ておりまして」


「デ、データ……ですか?」


「ええ。惑星外から観察したところ、ここ以外の土地ですと銃や核兵器なるもので対話前に攻撃される可能性も拭えないという結論が」


「そ、それは……まあ、この世界の国家には、そういう所も無くはないですかな」


「我々には国家という括りが無いもので、この島の様子が比較的平和だと判断してのことです。それに、どうやらこの国には“怪獣映画”なるものがあり、我々の姿にも動じない可能性が充分予想されましたので」


「……そ、それは、まあ、確かに。他国……いえ、他の地にもそういったものは存在しますが、我が国では特にそういう文化が根付いてはおりますかな。特撮映画、怪獣映画、あるいは怪獣文化とでも呼べるものが」


 その光景は世界各国にリアルタイムで流されている。

 ゆえに、総理大臣の巻は慎重に言葉を選びながら内心恐々として会話していた。


「観察した限りでは、巨大な我々に似た姿の怪物が襲い掛かり、人々を恐怖に陥れる……という内容でしたが。それでも、そういった姿を映像外で再現し、幼体から老体まで様々な人々と交流の場を設けている場面をお見受けしましたので」


「……それは…………?」


 話の内容が理解できなかった巻は、背後で控えていた数名の補佐役の者に助言を求め、その結果それがアミューズメント施設や民間での所謂「着ぐるみショー」のことではないかと予想を立てた。


「ああ、なるほど。確かにこの国……いえ、この島では各所でそういった催しが行われておりますな」


「あれを見て、我々としても歓喜しましたよ。こんな奇跡のような出会いがあるなんて……と。正直我々の外見では、まず受け入れられないだろうと想像していたもので」


 そう話し、Uと名乗った宇宙人は背後に控えていた()()()()()()()と顔を合わせてガハハッと笑い声をあげる。

 その光景は、その者たちが友好的だと知らない者が見れば、巨大な怪獣や()()などが雄叫びをあげているようにしか捉えられなかったことだろう。


 宇宙人側のメンバーには、代表のU以外にも巨大な鳥の似姿の者、まるで巨大な蛾のような姿の者、どう見ても巨大クラゲにしか見えない者など、地球人の常識では理解し得ない外見を持つ者たちが集っていたのだ。


「で、ですが、巨大な口に鋭い牙をお持ちのようですし、最初に見た時は私たち地球人を映画さながらに襲いに来たのかとヒヤヒヤしておりましたよ。ははははは」


 その言葉で、画面越しに状況を見守っていた各国の者たちが背筋を凍らせる。

 まだ出会って間もないというのに、それは見ようによっては失言にも取れたのだ。同国の者たちでも「また失言かましやがった、政治家が」と思った者は多かっただろう。


 だが、その思いに反して当人たちは和気藹々としていた。


「フハハハハ! それはそうでしょうね。これだけ違う外見ならばそれも仕方の無いことです。我々とて某映画の如く、まずは戦闘機とやらで何発か撃ち込まれるかもしれないと覚悟しておりましたからね。こうして対話していただけたことには頭の下がる思いです」


「しかしながら、それだけ大きなお体ならば力に任せた侵略というのもお考えにはならなかったのですか?」


 その言葉には、巻の背後に控えていた補佐役たちでさえもヒヤリとさせられる。


 だが、幸運にも当の宇宙人たちにはジョークとして捉えられたようで、大きな笑い声(おたけび)とともに場が一段と盛り上がる。


「フハハハハッ! 随分と率直なご意見ですな! ですが、そんなことは無意味ですよ」


「ほう?」


「何故なら、我々は映像の怪獣とは違って現実の生物ですからな。こうして対話できる高い知性も持ち合わせています。だというのに、自分たちが大きな怪我をするかもしれないリスクや、反撃されて死ぬかもしれないリスクを冒してまで現地生物の生活圏や文化を破壊して回るなどナンセンスと言えましょう」


「なるほど、確かにその通りだ」


「この対話によって我々は利益を得るかもしれない。交易や権利の獲得など、それは永続的に得られるものかもしれません。もしもこの星を破壊して回り、一時的に物資や資源を得られたとしても、それは比較にならないほど少ないでしょう。仮に我々が映画のような()()()()()怪獣ならば別だったでしょうが」


「……それは、素晴らしいお考えですね。確かに私たちとしても、居住区や文化圏を破壊されては反撃せざるを得ない上に、復興に回す労力が大きくて要求に応じるどころでは無かったでしょうからね。どうやらあなた方は私たちよりもずっと優れた文明をお持ちのようだ」


「そんなことはありません。地球の皆さんからしたら異形の姿というだけで、我々とて皆さんと同じ程度ですよ。宇宙を旅できる分、多少は優位かもしれませんがね」


 それは明らかに大きな技術差ではあったのだが、互いに謙遜し合って笑いながら対話する姿は、まるで着ぐるみとスーツという()()()()の差しか存在していないようにも映っていた。


 失言にヒヤリとさせられる場面もあったものの、今は多くの者たちが「対話したのが彼で……巻でよかったのかもしれない」と思わされていた。


「では、そろそろ本題に入らせていただきましょう。我々としては、今後とも対話を続けながら地球の皆さんと交流を持ちたく思います」


「さようでございますか。我々としても、未知の存在である異星の相手……いや、同じ宇宙の仲間として対話できれば幸いです」


「我々を、外見で判断せず対話してくださって本当にありがとうございました。地球の皆さんでも打ち合わせは必要でしょうから、時間を置いてまた後日、再度会談をお願いしたく思います」


「多大なお気遣いに感謝いたします。次は、この世界の各地から代表者を集ってお会いできるのを楽しみにしております。きっと、あなた方との出会いは世界に大きな影響を与えるでしょうからね。非常にいい意味で」


「それはよかった。それでは、本日はこの辺で」


 そうして無事に、第一回の対談はお開きとなる。

 そして以後、多くの会談が繰り返され、怪獣たち……もとい宇宙からの来訪者たちは皆の日常へと変わっていくのであった。



 この後に、地球では様々な怪獣映画が作られることになった。

 だが、元々あった怪獣映画とは、人々に問題提起を投げかける意図のものが多かったのだ。例えば核の脅威を怪獣に置き換えてみたり、環境破壊に注意喚起を齎すべく作られたもの。


 さて、問題提起のツールだった怪獣が、それ自体が実在の存在となったなら。

 今度は、どんな()()()()が作られていくのだろう?



 そうだったら、ワクワクで夜も眠れない。

 そんな未来は、意外とすぐそこにある……のかもしれない。


 怪獣という文化が、永遠に続きますように。





                        ――Fin――



昔から怪獣映画が好きで、子どもの頃はよく怪獣が目の前を闊歩する夢を見て魘されていました(笑)


大人になると怪獣映画でワクワクすることはあまり無くなりましたが、怪獣好きは相変わらずです。

この作品のように現実に怪獣が現れて、会話したり触ったりできたら、私は幸せ過ぎて死ねると思いますw


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