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色褪せ令嬢は似合わない婚約を破棄したい。【コミカライズ配信中】  作者: 橘ハルシ


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番外編 いつかの、未来10 ~ありがとうを伝えよう~ 後編

 城での仕事は退屈だ。延々と書類仕事と陳情の面会が続く上に、兄は国王になっても仕事を手伝ってくれと山のように回してきて、息をつく暇もない。なにより、家族の気配がないのが耐えられない!

 というわけで、今日も今日とて屋敷でできる仕事は屋敷でね、と大量の書類を馬車に積んで早めに帰ってきた。


 お茶の時間には間に合ったかな、とこっそり屋敷に入って驚かせようと家族の姿を探していたら、厨房の扉を覗き込む息子達を見つけた。


 ……あんなところで何をしているのだろう? いつも真面目で冷静な長男のテオドールもいるから、今日のお茶の時間のお菓子が何か気になる、というわけではなさそうだ。それに、二人しかいないということは、末娘のディートリントが中にいる可能性が高い、と考えて飛び上がる。


 えっ、ディーが厨房に!? あんな火や刃物がたくさんある場所にいるなんて、危険すぎる!


 ぐるぐると怖い想像が頭をめぐり、足音を忍ばせるのを忘れてバタバタと走っていけば、振り返った息子達が目を丸くした。


「父上っ! おかえりなさいっ」

「ただいま、パット。ディー、無事っ!?」


 飛びついてきた次男のパトリックを、腰にしがみつかせたまま厨房に飛び込むと、ぽかんとした顔の愛する妻と眉間にしわを寄せた愛娘がこちらを見ていた。


「……リーン!? ええと、おかえりなさい。いきなり、どうしたの?」

「もうっ、お父様! 勝手に入ってこないで」

「あの、ほら、ここは刃物や火を扱うから危ないでしょ……」

 

 娘からのきつい一声と冷たい視線を受けて、しどろもどろに言い訳をすれば、びっくりしていた妻のエミーリアの表情が和らいだ。


「大丈夫よ、リーン。私もディーも、包丁やオーブンは使ってないわ。あら、パットとテオもきたのね。じゃあ、ちょうどできたところだし、多めに作った分を一緒に食べましょう! ね、ディー」

「仕方ないわね。練習分はお母様と二人で食べるつもりだったのだけど、特別に食べさせてあげる!」


 エミーリアとディートリントは何か作っていたらしい。確かに厨房内は甘い匂いでいっぱいだ。恐る恐る近づいて台の上を見ると、たくさんのチョコクッキーが並んでいて、それぞれ小さな花やキラキラしたものでめいっぱい飾り付けられていた。


「これを二人で作っていたの? とても綺麗で、食べるのがもったいないくらいだね」


 僕の言葉に、テオオールも近づいてきて目を見張る。続けて、僕の身体を上ってきたパトリックも、首を伸ばして顔を輝かせた。


「ディーと母上みたいに可愛いね」

「美味しそうー、今、ひとつ食べていい!?」


 口々に感想を述べると、ディーが嬉しそうに胸を反らせた。


「クッキーもディーとお母様が作ったのよ! パット兄様はまだ我慢してて! でも、最初のほうは飾るのが難しくて、満足のいく仕上がりにならなかったかったから、もっと練習して本番は完璧なの作ってあげるね」

「ありがとう、楽しみにしてるよ」


 ディートリントとエミーリアはこの飾りは使いにくかった、こちらはとても見た目がよくなるから、これは買い足そう、と二人で楽しそうに話し合っている。その様子を眺めて、ふっと気がついた。


 ……これって、もしかして、感謝の日用!?


 感謝の日に、愛する娘と妻が作ったお菓子を貰えるなんて、僕は最高に幸せな男じゃないだろうか。これは明日、兄上達に自慢しなくては! あっ、その前に僕も何か用意しないと。



 テオに先導され、ディーを抱っこし、背中にパットをくっつけてうきうきとお茶の用意がされたテラスへ歩いていく。背後から首に回されたパットの腕で、時々息が止まりそうになるのに耐えながらたどり着けば、先にお茶の準備をしていたエミーリアが優しい笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃい。ちょうどお茶が入ったところよ」

「母上、手伝うよ」


 すかさずテオが彼女の元へ駆け寄ると、残りの子供達もポンポンと飛び降りてそれに続く。寂しさよりも、僕も早くエミーリアの側に行きたくて急いで後を追う。

子供達にまとわりつかれている彼女の手からティーポットを受け取り、すぐ間近でその柔らかな丸みを帯びた頬を見た途端、いたずら心が湧いた。


「エミィ、チョコがついているよ」


 そう言って頬にさっとキスをすれば、振り返った彼女がぱっと赤くなった。

「えっ、どこ!? いつの間についたのかしら?」


 急いで頬を擦ろうとするのを止めて、もう一度頬に口づける。


 よし、今この瞬間は彼女の思考も視界も僕が独り占めだ。それにしても、結婚して十年くらい経つというのに、未だに反応が可愛くてたまらない。


「父上、チョコなんて……いてっ」

「パット、それは言わない」


 エミーリアのドレスを掴んで見上げていたパットが僕の嘘を暴こうとしたのを、テオが頬を両手で挟んで黙らせているのが視界の端に映った。


 噓がばれてもきっとエミーリアは怒らないと思うけど、後でテオには礼を言って、パットは慰めておこう。そして、二人と一緒にエミーリアとディートリントへの贈り物を考えよう。


 エミーリアと会えなくて落ち込んでいた昔の僕に、この光景を見せてあげたい。信じられない、妄想だって思うだろうけど、これはれっきとした現実で君の大切な未来だから、安心してエミーリアを愛し続けていいよって伝えてあげたい。


 だって僕は、今もこれからも愛する喜びと愛される幸せでいっぱいなんだ。




~おまけ~


「わあ、ピンクのバラの花束だ。可愛い! お父様、お兄様達、感謝の日の贈り物をどうもありがとう!」

「ディーも素敵なクッキーを作ってくれてありがとう。大事に食べるからね」

「お父様、絶対に今日中に食べてね!?」

「えっ、今日中はちょっと……しばらく飾っておきたいんだけど」

「もう! 早く食べないとカビちゃうかもって料理長が言ってたから直ぐ食べて!」

「じゃあ、絵で記録してから……」

「そう言うと思った! あのね、お父様には特別にお母様と私で描いたクッキーのデザイン画を上げるからそれで我慢して」

「えっ、エミィの描いた絵!? 絶対に欲しい!」

「……やっぱり、お父様にはディーの描いたのだけあげる」

「ええっ、それは……それも、嬉しいけど、できたらエミィのも欲しいな。だって僕には絵を描いてくれたことがないんだよ?」

「そうなの? お母様はディーといっぱいお絵描きしてくれるよ!」

「そんな! 羨ましい」

「お父様、そういうの大人げないって言うのよ?」

「うっ……」



「まあ、素敵。私は真っ赤なバラなのね、とっても綺麗でいい匂い」

「僕と父上と兄上が庭の温室で選んだんだよ! 母上、気に入った?」

「もちろん! ありがとう、大事に飾っておくわね」

「母上、ドライフラワーにすることもできるから、いつでも仰ってください、と庭師が言ってたよ」

「あら。テオ、それは嬉しい提案ね。後で頼んでおくわ」

「……あっ、忘れてた。母上、僕からは、もう1つあるんだ」

「何かしら…………っ!!」

「あ、母上が固まってる。パット、それは元居たところに埋めてこい!」

「ええ? せっかく見つけた宝物なのにダメなの? このこ、大きくなったらカブトムシになるんだよ!?」

「僕は、母上のためにも、カブトムシになってから迎えにいってあげたほうがいいと思う」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


削ったけれど、エミーリアは100本のバラの花束を貰った設定。

娘さんはもう少し少なめ。

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