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番外編 絵を描いたのは

※リーン6、7歳頃です



「違うっ! エミーリアはもっともっともーっとかわいくて綺麗!」

「いえ、こんなものですよ。そんなに美化出来ません」

「これ何の絵?……えっ、リーンの婚約者? 人間なの?! 冗談でしょ?」

「ほら、姉上だってエミーリアはもっともっとすっごくかわいいって!」

「いや、可愛いとかそういう話じゃなくて、これ、棒人間じゃない。まさか、この三角の部分がドレスじゃないわよね?」

「もちろん、ドレスですが?」


 通りすがりにヘンリックの手元のスケッチブックを覗き込んだ姉のメラニーが固まった。


「……で? なんでいきなりそんな絵を描いてるの?」


 僕とヘンリックは顔を見合わせた。


 エミーリアに会って熱を出さないための訓練に使うなんて、この姉にだけは知られたくない。


 僕が言いたくない、と口をきゅっと閉じていたらヘンリックが小さくため息をついて代わりに答えた。


「……いつでも会えるように、ですよね」

「うん!」

「なにそれ。絵じゃ会ったことにならないじゃない。変なの」


 ヘンリックの説明に大きく頷いて同意した僕に、姉は疑り深い目を向けつつもそれ以上は追及してこなかった。


「ヘンリック、貸して。私が描いてあげる」


 言うと同時に姉が彼の手からスケッチブックを取り上げ、鉛筆を走らせた。


「わー、姉上、ヘンリックより上手」

「あたりまえでしょ、あんなヘニョヘニョな線の落書きと比べないでくれる?」


 得意気に胸をそらす姉の後ろでヘンリックがいじけた。


「でも、エミーリアに似てない」

「なんですって?! つねるわよ」

「あねふぇ、もお、つねっひぇる」

「メラニー、止めろ! 二人で何をしてるんだ?!」

「あにふぇー、たすけひぇ」


 姉に思いっきり両頬をつねられて、痛いと手を振り回して抵抗していたら通りかかった兄が助けに入ってくれた。



「……エミーリア嬢の似顔絵かぁ」

「ヘンリックも姉上も似てないの」

「俺も絵は上手くはないんだけどな」

「わぁ、さすが兄上。姉上より上手いよ!」

「なんですって、リーン。もう一回言ってみなさい!」

「うわーん、兄上助けてぇ」

「こらこら、さっきから賑やかだね。三人揃って何をしているのだい?」

「父上ー! 姉上がつねるんだ」


 おっとりとやってきた父にしがみついて姉の非道を訴える。父はしゃがんで目の高さを合わせると僕の涙を拭いて頭を撫でた。


「ホウホウ、エミーリア嬢の似顔絵をね。おお、フェリクス、絵がうまいな!」


 父は僕と姉からそれぞれ話を聞いた後、兄の手元を覗き込んだ。


「でも、エミーリアはもっとかわいいの」


 ポツリと呟けば父が苦笑した。


「本当にリーンは彼女のことが大好きなんだなあ。で、君は自分で愛する人の絵を描いてみたのかい?」

「僕がエミーリアの絵を描くの?」

「おや、まだだったのか。まず、自分で思うように描いてごらん」


 会話を聞いていた兄上が、スケッチブックの新しいページを開いて僕の手に渡してくれた。

 僕は鉛筆を握ってその白い紙の上に大好きなエミーリアを写すべく目を閉じた。


 エミーリアといえば、ふわふわの曇り空の髪でしょ、すべすべのほっぺでしょ、真っ直ぐ僕だけを見てくれるきれいな灰色の目でしょ、それから温かくて柔らかい手でしょ、えーと、それから……。出来る限り細かく思い出してあの可愛さを全て描き出したいと考えていたらつーっと鼻に違和感を感じた。ついでに身体も熱くなってくる。


「リーンハルト様っ?!」

「リーン?!」

「あらやだ、鼻血吹いたの?!」

「おや、顔も赤いな。大変だ、熱が出ている!」

 

 慌てたヘンリックと父に抱えられ、ベッドに放り込まれた。



「僕、エミーリアの絵を描かなきゃ。ロッテ、紙と鉛筆ちょうだい」

「リーンハルト様。残念ですが、それはお熱が下がってからにいたしましょう」


 額に冷たいタオルを乗せながら僕の侍女のロッテが諭すように言う。僕は悲しくなってポロポロ泣いた。



■■


「と、まあ、そんなことがあってね。僕が君に慣れるためにこの絵が飾られていたってわけ」

「それでこんなところに私の絵があったのね。びっくりしたわ」


 城の僕の部屋に隠してあったエミーリアの絵が本人に見つかってしまった。もう想いが通じ合って結婚してるし、見られたって構わないのだけどあの頃の話をするのはちょっと恥ずかしい。


「それで、この絵は誰が描いたの?」

「結局、母の一声で城の画家に描いてもらったんだ」

「まあ、私ってば贅沢ね」

 

 エミーリアは絵の自分を興味深げに眺めた後、その横に並んで僕の方へ向いた。


「どう見ても絵の方が綺麗じゃない?」


 少し頬を膨らませて怒ったような彼女に僕は目を瞬かせた。


 これは……絵の自分に嫉妬している? 僕の妻は可愛すぎる!


「何言ってるの、エミィ。何の反応もない絵よりこうやって表情がくるくる変わる君の方が断然素敵だよ! それに、この絵は君にそっくりだと僕は思ってる」


 僕にとって、世界で一番綺麗なのは生きているエミィだからね、と耳元でささやけば彼女が耳まで真っ赤になった。


 もうっ、そっちこそ何言ってるの! と僕の肩を握りこぶしで叩いて、ぷいっと横を向いた彼女を抱き寄せて腕に閉じ込める。


「僕はこうやって触れられる君が何よりも大好きってこと」 


 ぷしゅーっと音がしそうなほどに赤くなったエミーリアが必死に話題を変えようとする。


「リーン、この絵はどうするの?」

「うーん。君にバレちゃったし、せっかくだから屋敷に飾ろうかな?」


 どう? と灰色の瞳を覗き込んで尋ねれば、全力で首を横に振られた。


「ダメ? 残念。でもそうだよね、屋敷にはエミィ本人が居るものね。じゃ、城の執務室に飾ろうっと」

「ええーっ」


 エミーリアが悲鳴のような声をあげたけど、これは決定。これでちょっと寂しさが紛らわせるかな。



 ……1ヶ月後、余計にエミーリアの居ないことを感じるので絵は元の場所に戻すことにした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


コミカライズ読んでくださった方、ありがとうございます。2話にて飾られていた絵をネタに書いてみました。王家のきょうだいはいつも賑やか。

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