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【番外編】公爵夫妻、街へ行く 後日談 前編

今頃?と思われると思いますが、読み返していてこのネタ使ってなかったなと思い出しましたので・・・。初心に戻って?


※エミーリア視点

 

 

 私は手に針を持ちテーブルの上の紙を見ながら、布切れと格闘していた。

 

 先日初めて街へ行き、自分で買ったぬいぐるみキットが完成に近づいているのだ。

 

 「ここが顔になるのだから重要なポイントよね。クマなんだから丸みが大事っ・・・なはずなのに、なんでこうもカクカクするの?」

 

 ぶつぶつ呟きながらちくちくと縫い続ける。

 

 

 しばらく後、針を置いた私は両手を高く上げて伸びをし、そのまま握っていた手を開いてバンザイをした。

 

 「出来たー!」

 

 私は手のひらに一つずつ乗せた、灰色と淡い金のクマ達を誇らしく眺めた。

 ちょっと歪だけど、ちゃんとクマに見えるし自分で作ったという特別感がある。

 

 結局、色々あってリーンにこれを買ったことをまだ言っていない。

 もうここまできたら、出来上がったものを渡す時に伝えてサプライズプレゼントにしよう、と決めて空いた時間全てを使って作り上げた。

 

 でも、公爵夫人になりたての私はやることが多くて、リーンがいない自由時間というのは思ったよりも少なかった。

 おかげで、この手のひらサイズ2体で数ヵ月も掛かってしまった。

 

 「ロッテ、ミア。見て、ぬいぐるみが完成したの。」

 「まあ、かわいらしいですね!」

 

 侍女2人に見せたところ、ロッテは直ぐに褒めてくれたが、ミアはじっと眺めてからぼそっと言った。

 

 「このままでも可愛いですけど、首にリボンとか飾りをつけるともっと素敵かも。」

 

 説明書にない物をつけるという考えがなかった私は、それを聞いてあらためてクマ達を見直した。

 

 ・・・確かに、リボンがあったらもっと可愛くなる。それが、お互いの目の色だったら特別感も増しそう。

 

 「薄青と灰色の細いリボン、あるかしら?」

 

 ぽつりと呟けば、私の意図を察した2人が直ぐに探して持ってきてくれた。

 

 ・・・だけど。

 

 「幅が丁度いいものがないですねえ。」

 「色もぴったりのものはありませんね。」

 

 流石に、こんな小さなクマの首に合うものは公爵邸には置いてなかった。

 

 ボタンやビーズで飾っても綺麗だし、色も目の色にこだわらなければ丁度いいサイズのリボンがある。

 

 ・・・でも、せっかくお互いの髪の色の生地で作ったのだから、リボンを目の色にしたい。

 すっごくわがままかもしれないけど、それは譲れない。

 

 今度、リーンが街に連れて行ってくれた時に買おうかしら、と思ったところで閃いた。

 

 「今から街にリボンを買いに行きたいわ!」

 「ええっ?!今からですか?!」

 「ええ。リーンは1人じゃなかったら行っていいって言ってたわ。ロッテ、ミアと護衛の人達が一緒ならいいでしょう?」

 

 お願いっと手を合わせてロッテを拝めば、ちらりと時計を見た彼女がため息とともに頷いてくれた。

 

 「確かに今から急いで行けば、旦那様がお帰りになるまでに戻ってこられると思います。ですが寄り道など出来ませんよ?」

 「大丈夫!ぱぱっとリボンだけ買って帰って来るから。ありがとう、ロッテ!」

 

 

 ■■

 

 「という訳で、リボンを買いに来たのだけど・・・」

 「なるほど、ぬいぐるみの飾りですか。」

 

 私はぬいぐるみ屋のヴォルフとカウンターを挟んで会話していた。

 ヴォルフは店長の息子で昔うちの騎士だったらしいけど、ぬいぐるみ好きがリーンにバレて母子でこのお店を任されることになったらしい。

 

 外見は筋骨隆々で強面なんだけど、話せば穏やかで優しいし、ぬいぐるみという共通話題があるから私は直ぐに仲良くなれた。

 

 会えばこうやってぬいぐるみ談義をしたりする。いつもはリーンがいるから長く話せないけど、今日は気兼ねなく話せる。

 

 「残念ですが、うちにはそういうのは置いてないんです。斜め向かいの手芸店に行けばあると思いますよ。」

 「分かったわ、行ってみる。でね、ヴォルフ。このお店でもぬいぐるみを好みに飾りつけられるように、リボンとかボタンとかミニサイズスカーフとか扱ってみたらどうかしら?」

 「奥様が欲しいのですね?」

 

 すかさず突っ込まれ、私はうっと詰まった。

 

 「いえ、その、自由に飾りが選べたら世界で自分だけのぬいぐるみって気がして、より特別感がね、出ると思うのだけど・・・」

 

 しどろもどろになりながらもっともらしい理由を述べたが、ヴォルフにニコニコと頷かれ、結局本音を白状することになった。

 

 「・・・だって、センス抜群のヴォルフが作る小物類も見てみたくなっちゃったんだもの!うちのぬいぐるみにもスカーフとか小さなバッグとかつけたいなあと思ったのだけど、やっぱり無理よね。」

 

 店長もいるけれど、ヴォルフ一人でぬいぐるみを作ったり店のことほとんどしてるんだもの、これ以上は仕事増やせないわよね。

 

 私は勢いだけで言ってみたものの、直ぐに目線を下げそれを撤回した。

 

 「ごめんなさい。言ってみただけだから、気にしないで。いつか、自分で作ってみるわ。では、手芸店に行ってから帰るわね。リーンが帰ってきちゃうから。」

 

 暇を告げ、くるっとヴォルフに背を向けて歩き出そうとした時、ほんわかとした声が掛けられた。

 

 「此処は奥方様の為のお店なのですから、貴方のご要望は何でも承ります。それにぬいぐるみのカスタマイズは、他のお客様にも非常に受けそうですから是非やりたいと思います。」

 「本当?!」

 

 がばっと振り返って瞬速で戻った私は、笑顔で頷くヴォルフへカウンターから身を乗り出してまくし立てた。

 

 「あのね、結婚して初めて見たのだけど、リーンがお城に仕事へ行く時の正装がとっっても!かっこいいの!紺色地に金糸で刺繍が入っているのだけど、そういうスカーフをライオンのエルに付けたい思ってるのよ!えっと・・・出来たら、でいいのだけど。」

 

 私の勢いにヴォルフが小さく両手を挙げ目を見開いて固まっていた。

 自分でも興奮し過ぎたと思った私は、そっとカウンターから手をのけて誤魔化すようにスカートを手で払う。

 

 「・・・分かりました、先ずはそれを作ってみましょう。ライオンの大きさはどれくらいですか?」


 直ぐに正気を取り戻したヴォルフが尋ねてくれて私はこれくらい、と手で大きさを作って伝えた。

  

 ふと、ザワザワという気配を感じて後ろを振り向けば入口から複数の人がこちらを覗いていた。

 

 「これは一体、どうしたの・・・?」

 

 扉を開けたままの姿勢で固まっている私の護衛を見つけて尋ねれば、大変バツが悪そうな顔で答えてくれた。

 

 「申し訳ありません。奥様の大きな声が聞こえたので、何事かと扉を開けたところ、奥様のお話が・・・全て、外へ筒抜けになってしまいまして・・・。」

 

 私が大きな声で話した内容って、アレ?!

 

 「冗談よね?」

 「いえ、その・・・」

 「いーじゃないですか、奥方様のご領主様への愛が溢れる叫びに我々は感動しました。」

 「奥方様は制服がお好きなの?」

 「何言ってんの、奥方様はご領主様が着てないとダメなのよ!」

 「かーっ、若いっていいやねー!」

 

 真っ青になった私へ街の人達が口々に感想を述べてくれるが、私はそれどころじゃなかった。

 

 このままだと、まだ誰にも言ったことがない私の好みが、街中に知られてしまう。

 

 「お、お願い。リーンにはこのこと内緒にしてて下さい・・・!」

 

 彼に変な目で見られたり、嫌われたりしたくない。

 

 必死に両手を合わせて頼み込む私に皆、ニコニコして頷いてくれた。

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