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続編 最終章開始記念 【番外編】いつかの、未来4−3

※次男パトリック視点

 

 

 ・・・俺は、迷ったらしい。

 

 母と妹のディートリントが散策に行って、しばらくしてお腹が落ち着いた俺は、2人を追いかけることにした。

 

 そういえば、俺がピクニックの場所から離れた時には、俺の護衛以外に騎士達が何人もついて来てたのに、なんで今1人なんだろう?

 

 あれかな、獣道や低木の繁みにあいてる俺サイズのトンネルばっかり通ってたから、ついて来れなかったのかな。

 

 でも、母達と合流出来れば問題ないでしょ。今日父に『困った時に使って』と渡された道具もあるしね。

 

 うんうん、と1人頷いたところで気がつく。

 今がそれを使う時なんじゃないかと。

 

 ポケットに手を入れてそれをとりだそうとしたら、なんと手からすり抜けて転がり落ちていった。

 

 うそ?!

 予備があることを忘れて、つい反射で追いかけた俺は派手に坂道を転げ落ちてしまった。

 

 

 「いったたた。」

 「あら、パット?」

 

 聞き慣れた声がして顔を上げると、そこには服と揃いの帽子を被った母がいた。

 母の服も所々汚れて、あちこちに葉っぱも付いているからコケたのかもしれない。

 

 「母上!ディーは?」

 「あの子がケーキを食べたいと言うから、一度戻ったの。それで貴方がいないから私だけが探しに来たのだけど・・・もしかして私達は迷子かしら?」

 「もはや、遭難じゃない?」

 「ええっ!こんなことになるなんて思わなかったわ。・・・どうしましょ、ここで待っていれば見つけてもらえるかしら。」

 

 途方に暮れた顔になった母を見て、俺がしっかりしなくちゃと思った。

 

 「なんとかして早く戻らないとリーンが心配するわ。あ、そうだ!」

 

 何を思いついたのか、母は腰に付けたポシェットから紙に包まれた物を取り出して俺の前で開いた。

 

 しわしわの紙の中には3センチくらいの丸薬のようなものが2つ入っていた。

 

 それを見た俺もポケットから同じ物を取り出す。

 

 「俺も持ってる。父上が『困った時に使って』ってくれたの。」

 「そうそう、私は『迷子になったりピンチになったら直ぐ使ってね。』と渡されたのよ。パット、これ使いましょうか。」

 

 父にこうなることが読まれていたようで悔しいが、俺のプライドは捨てて母のために早く助けを呼んだ方がいい。

 

 「硬いところに投げつけるんだったよね。俺がやるから母上は離れてて。」

 「あ、待って。向こうに人の気配がするわ。ここがどこかわかるかも。行ってみましょ。」

 

 おおきく振りかぶって投げつける瞬間、母から制止された。

 確かに繁みの奥の方から話し声がする。猟師や木こりだろうか?

 

 ひょいひょいと木の枝などをかき分けて近づいて行ったところ、急に母が無言で俺を地面に押し付け自分もその横に伏せて身を隠した。

 

 いつものほほんとしている母が、こんな素早い行動をするなんて驚いた。

 

 「思ってたのと違うわ。・・・この人達、ここで人に言えないことしてるみたい。」

 

 困ったわね。と口の中だけで呟き、母はすまなさそうに俺を見た。

 

 「パット、ごめんなさい。あそこで使っておけばよかったわ。貴方、ちょっと戻ってそれ全部石とかに叩きつけてきてくれる?」

 「母上はどうするの?」

 「うーん、気になるから、もう少し近づいて何をしているか見てくるわ。」

 「それ、危なくない?」

 「大丈夫よ!任せておいて!」

 

 その言葉に一抹の不安をいだきながらも俺は母の指示に従った。

 

 そーっと戻って、さっき見つけた大きな岩に全力で父にもらった物をぶつけて、直ぐに離れた大木に登る。

 

 ぱあんっ

 

 大きな音と共にもくもくと煙が、なんと赤と黄色のド派手な煙が空を突き刺すように立ち昇った。

 

 確かにこれなら俺達の居場所が直ぐに皆に分かる、けど。

 

 とんでもない光景に口をぽかんと開けて見入っていた俺の耳に男の怒声が聞こえてきた。

 

 「おい、何の騒ぎだ?!・・・女だ、隠れて取引を見てやがった!」

 

 木の上からそちらを見れば、母が男達に捕まって隠れていた場所から引きずり出されていた。

 

 しまった!近くでこんなことをすれば気付かれるに決まってる。

 母は分かっていて俺に投げたら直ぐに木に登って隠れるように言ったんだ。最初から自分が囮になるつもりだったんだ。

 

 どうしよう。

 

 父か騎士達が来るまで木の上でじっとしてなさいって母は俺に指示したけど、このまま母を見捨てるなんてできっこない。

 

 でも、大人の男が十数人いるところに闇雲に出ていっても勝ち目はない。

 

 木の上で迷っていたら、男の悲鳴が上がった。

 

 「うわあああああっ!ハーフェルト公爵夫人だ!」

 

 見れば、母の頭から帽子が落ちて珍しい灰色の髪が現れていた。

 

 叫んだのは多分母を知ってる人だ。母を見てこの反応をするのは大体悪い人だって前に兄が教えてくれた。

 

 母の後ろにいる父が怖くて、ああやって叫ぶんだって。

 

 母はこういう反応には慣れているようで、平然と笑っている。

 

 「あら、こんな所で会うなんて奇遇ねえ。貴方エルベの商会と取引があったわよね。最近、お金の流れがおかしいと思ってたのよ。やっぱり、違法な取引をしてたのね。」

 「なんだ、この女。お前の知り合いか。」

 「いや、このお方に見つかったのは不味い。この人の夫はこの国の重鎮で不正に厳しいんだ。」

 「なるほど。じゃあこの女が喋れないように殺すしかないな。」

 「それはダメだ!そんなことしたら俺達は夫のハーフェルト公爵に八つ裂きにされて末代まで祟られる。」

 「なんだそりゃ。うだうだ言うな、見られたら殺す、決まってるだろ!」

 

 きらっと刃が光って母に吸い込まれたように見えた。

 

 「母上!」

 

 思わず声を出してしまったが、向こうも何か揉めていて聞こえてないようだ。

 母が何か使って抵抗しているらしく、男達の喚く声と激しいくしゃみが聞こえる。父は母に他にも道具を渡していたみたい。

 

 俺も何か母の手助けをしなくちゃ。

 

 ふと石がポケットにあるのを思い出した。綺麗だったから母と妹にあげようと思って拾ったんだけど、非常事態だ。俺は木の上から全力でそれを男達の方へ投げつけた。

 男の誰かに当たったらしく、野太い叫び声が聞こえた。

 

 続けてもう一度。これも当たったらしい。でもそれでもう一人いることがバレた。

 石がどこから飛んできたのか探している。

 だけど、もう投げる物がない。

 

 でも、そろそろ父達も近くまで来ているかもしれない。大声で呼べば父の耳に届くかも。

 

 「父上ー!母上を助けて!!」

 「パット!どこ?!」

 

 俺の呼びかけに待ち望んでいた父の声が応えてくれた。

 俺は直ぐ下に父の頭を見つけて、迷わず飛び降りる。

 

 「父上!俺はここ!あっちで悪いやつらが母上を殺そうとしてる!母上は俺のために囮になって捕まったの!」

 「なんだって?!」


 俺を抱き止めて笑顔になった父の表情が凍りついた。

 

 会話を聞いていた周りの騎士達が瞬時に俺が指した方向へ走る。

 あれ、うちの騎士だけじゃない。何故か、城の騎士まで混ざっている。

 

 「パットはテオとここで待ってて。危ないからついてきちゃだめだよ。」

 

 父は俺を下ろしながらそれだけ言うとあっという間に走っていった。

 

 

 「パット、怪我はない?本当に君が無事でよかった。」

 

 頭にぽんと手が置かれて優しい兄の声を聞いたら、一気に涙が溢れてきた。

 

 怪我はないと、心配かけてごめんなさいって言わなきゃと思っているのに出るのは嗚咽だけで、俺はとにかく無事と伝えるために首を縦に振り続けた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


次男頑張った。

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