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続編 最終章開始記念 【番外編】いつかの、未来4−2

※長男テオドール視点

 

 

 「お父さま、もっともっと高く上げて!お花に触りたいの!」

 「あー・・・じゃあ、あっちの低い枝の方に行こうか。」

 「やだ!あのお花がいいのーー!」

 

 父の馬に乗せてもらってここまで来て、さらに父に肩車してもらっているのに妹のディートリントはさらにわがままで父を振り回している。父は嬉しそうに従っているが。

 

 初めて家族揃っての郊外ピクニックだからはしゃぐのも仕方ないけれど、父大好きの弟のパトリックがへそを曲げそうで心配だ。

 

 そういえば、その弟はどこだろう?母の姿も見えない。

 まさか、もう行方不明になったのかと、慌てて周囲を見回せば、少し離れた場所で2人一緒に敷物やお弁当の準備を見守っていた。

 

 そういえば、彼も母と郊外に馬でピクニックに来るのは初めてだったっけ。

 父と三人で遠駆けついでにピクニックとかはたまにやるんだけど、母は今まで妹がいて来れなかったから。

 

 

 「母上、パット、何してるの?」

 

 とりあえず二人にしておくと危険だと思い、合流した。

 

 「兄上!母上とお弁当の話をしてたんだ。兄上は何食べたい?」

 「・・・お弁当に入ってるものを食べるけど。」

 「テオ、今日はサンドイッチ3種とスコーン、ぶどうパン、チキン、果物とサラダがあるわよ。あとおやつにケーキとビスケットとドーナツと・・・」

 「え、そんなにたくさん持ってきたの?!」

 「兄上、サラダは絶対食べなきゃダメなんだよ!でね、全部食べたいけど途中でお腹いっぱいになるかもしれないでしょ?だから母上とどの順番で食べるか考えてたんだ。」

 

 ・・・平和だな。

 

 わくわくしている二人を見て心の底からそう思った。

 

 その時、目の前にひらりと落ちてきた花びらが視界に入り、僕はつられて頭上に広がる満開の花を見上げた。

 

 空がピンクに埋め尽くされている。満開になって直ぐなのか、まだ風に揺られても花吹雪にはならない。

 言葉では言い表せないその美しい景色にしばらく見入った。

 

 母が父に強請ってまで僕達に見せたかったのも頷けるその極上の春の風景に、使用人達も時々手を止めて見惚れているようだ。

 

 僕が花をうっとりと眺めていることに気がついた母が横に来て嬉しそうに話す。

 

 「綺麗でしょう?結婚して直ぐの春にね、リーンに馬で連れてきてもらったのよ。あの時は、まだ馬に乗れなくて悔しかったから次の日から練習を始めたのよね。」

 「そうなんだ。その時も2人でピクニックをしたの?」

 「あの時はね・・・えーっと・・・その。」

 「母上?」


  ただ何気なく返しただけの質問だったはずが、母の顔がどんどん赤くなってきた。

 

 一緒についてきていた弟も不思議そうに母を見上げている。

 

 母も気がついていて頬を手で押さえて隠そうとしているのだけど、もう耳まで真っ赤で全く隠せていない。

 

 そこへ妹を肩に乗せたままの父がやって来て、この微妙な雰囲気を見て首を傾げた。同時に肩の上の妹も同じように首を傾げる。

 

 「エミィ、顔が赤いよ?どうしたの?」

 「お母さま、真っ赤っか!」

 「父上、母上と最初にここに来た時ピクニックした?」

 「やあ、パット。最初にここに来た時?ああ、あの時か・・・まあ、ピクニックはしなかったかな。」

 

 母は父の声を聞いてますます赤くなっていく。

 

 一体全体、父上はここで母上に何をしたの・・・?

 

 ■■

 

 「ダメだ、俺は全種類食べられなかった!」

 「そりゃ、美味しいからってあれだけ最初に同じ物を食べたらそうなるだろうね。」

 「兄上は全種類食べたの?」

 「まあ、少しずつだけどね。母上が全部オススメっていうし・・・。」

 

 満腹で無念そうに残りのお弁当を見ている弟の横で、妹が口を閉じてサラダのトマトを拒否している。

 トマトをフォークに刺して娘の口が開くのを待っている父が、根負けして自分の口にそれを放り込むまであと少し・・・。

 

 更にその横で母が侍女のミアとお弁当の感想を楽しそうに話している。多分、次のお茶会で出すメニューについてなんだろうな。

 

 今日の予定も半分過ぎた。あと2時間もすれば帰邸するはずだ。母と弟が一緒に出掛けると事件に遭うというジンクスは、今日は発動されないかもしれない。

 

 食後のお茶を飲みながらほっとした僕だったのだが。

 

 ■■

 

 「お父さま、テオ兄さま。お母さまとパット兄さまは?」

 「えっ?ディーはエミィと散策してたんじゃないの?」

 「ケーキが食べたくなったから戻って食べてたの。お母さまはパット兄さまを探してくるって行ったっきり帰ってこないの。」

 「パットは食べ過ぎで倒れてたから、そのままにして僕達は高台からの景色を見に来てたんだけど、いないの?」

 「ディー達を追いかけて行ったってミアに聞いたけど、会わなかったの。」

 

 妹をここまで連れて来た護衛の騎士にも尋ねれば、それぞれ騎士達がついて行ってたのに両方とも見失ってしまったようで、『ただ今総出で探しております』と青い顔で言われた。

 一縷の望みを持って僕達の所に来たのに、二人とも居なかったので、もう顔面蒼白だ。

 

 僕と父は顔を見合わせて、やっぱりこうなったかと目線だけで会話した。

 

 でも、今回は2人バラバラで行方不明なのかな?いつもと違うパターンかもしれない。

 

 「テオ、僕達も戻ろう。エミィもパットもそんなに遠くには行ってないだろうから、きっと直ぐ無事に戻って来るよ。」

 

 後半は自分に言い聞かせるように硬い声で父が言ったその時、近くの繁みが動いて人が現れた。

 

 葉っぱを頭につけて低木をかき分けて出てきたその人は、どこかで見たような濃い灰色の制服を着ており、父を見た途端叫んだ。

 

 「ハーフェルト公爵閣下?!なぜここに?」

 「何をそんなに驚く?私は今日休みで家族とここへピクニックに来ているだけだが。」

 

 瞬間で公の言葉遣いになった父で思い出した。この制服は城の騎士だ。そういえば、よくうちに来てる。

 

 でもなんで、こんな所にいるのだろう?

 ・・・嫌な予感しかしないのだけど。

 

 父もそう思ったらしく顔が強張った。それを機嫌を損ねたと勘違いしたらしい相手の騎士が慌てたように説明した。

 

 「実は昼前に、この山で他国の密売人と我が国の商人達が取引をするという密告がありまして。」

 「よりによって、今日この時間この場所でか!本当にあの2人は引きが強いな!」

 

 ああもう!と片手で顔を覆って呻いた父に、恐る恐るといった体で城の騎士が告げた。

 

 「できましたら早々にお帰りになった方が安全かと思われます。後は我々がきちんと対処致しますので。」

 

 その台詞に顔を上げた父は、首を振って壮絶な笑みを返した。

 

 「指揮は誰が取ってる?私も加わると伝えて。」

 「はい・・・えっ、ええっ?!どうしたのですか、閣下。いつもなら『そう?じゃあ、頑張ってね。』で終わらせるのに!」

 「迷惑?」

 

 父が半眼になって彼を見つめる。横で見ている僕ですら腰が引ける怖さだったから、騎士の彼はとんでもなく怯えて両手を顔の前で千切れるほど振ってその言葉を否定した。

 

 「いえまさかそんな!閣下がいてくださるなら大変、心強いです。ですがご家族が・・・」

 「その家族が今この付近で行方知れずでね。大事な妻と次男が高確率でその取引現場にいると思うんだよ。」

 「ハ、ハーフェルト公爵夫人が?!それは、商人等は気の毒な・・・いえ、隊長に報告して参ります!」

 

 城の騎士は直立不動で敬礼して、大慌てで去って行った。

 

 それを見送った父は、不安そうに服を握ってきた妹に気がつくと、笑顔になって抱き上げた。

 

 「ディー、大丈夫だよ。父がお母さまとパット兄さまを無事に連れて帰って来るからね。だから君は皆と一緒に先に屋敷に帰って待っててね。」

 「テオ兄さまは?」

 「僕は、父上を手伝う。・・・足手まといなだけかもしれないけど、何かの役には立つと思うんだ。」

 

 そう言ってから父の顔を窺えば、逡巡するような表情をしてから頷いてもらえた。

 

 「お父さま、テオ兄さま。絶対お母さまとパット兄さまと帰ってきてね。約束よ?」

 

 ここはわがままを言うところではないと承知しながらも、妹は約束を強請ってからうちの騎士と一緒に戻って行った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


思い出で照れたり、密輸組織という大物を釣り上げたり、忙しいエミーリアのピクニック。

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