続編 最終章開始記念 【番外編】いつかの、未来4−1
続編の方もついに最終章突入です。
今回はこちらの番外編も全五話となりました。最後の公爵一家のドタバタです。
※リーンハルト視点
「今度のお休みに家族でピクニックに行きたいわ!」
そう可愛い妻がお願いしてきたのが5日前。
彼女の頼みを断ったことがない僕が、少し逡巡したのを見て取った妻は、一生懸命指を折って行きたい気持ちを伝えてきた。
「ディーも4歳になったし、パットも馬に乗れるようになったし、テオもあんまり屋敷から出ないし、何より今年は綺麗に咲いてるって聞いたのよ。だから、子供達と一緒に見たいなって・・・ダメ?」
結婚して十数年。3人の子供がいるというのに、妻の可愛さは全く衰えない。
それどころかさらに強力になった『ダメ?』にうっかり『いいよ』、と言いそうになって必死で踏みとどまる。
行き先は結構遠くの山裾にある森。昔2人(護衛付き)で花見に行ったことがある。確かに綺麗な場所だったけれど・・・。
本音としては今まで通り、庭でピクニックをした方が安心だ。だけど、エミーリアがここまで言うのは珍しい。
ここで断ったら彼女が今後、僕にこうやって甘えてくれなくなるかもしれない。
それだけは嫌だ。僕は腹を括った。
「分かった。5日後の休みに決行しよう。君の望みを叶えるために僕は全力で準備するから!」
「リーン、ありがとう!でも、そんなに気合い入れなくても、ただのピクニックだから大丈夫よ?」
僕にぎゅっと抱きついてお礼を言ってくれた後、不思議そうに続けた妻に僕は軽いキスをすることで返事に代えた。
早速、料理長とお弁当の相談をしなくちゃ、と嬉しそうに部屋を出て行く妻を見送った僕は、全てのやることを放り出してうちの騎士団長の所へ走った。
■■
「団長、エミーリアの希望で今度の休みに家族でピクニックに行くことになった。行き先は花が咲く森だ。」
詰め所の扉を開けると同時にそう宣言したら、団長以下、そこに居た騎士達に緊張が走った。
「だ、旦那様は、それを了承なさったのですか?」
震える声で尋ねてきた団長と目を合わせずに僕は頷く。その瞬間、周囲に絶望感が漂った。
「だって、エミーリアが『ダメ?』って可愛らしさ満開で聞いてくるんだよ?それに、断って失望されたくなかったんだ・・・。」
「ええ、そのお気持ちは十分に分かりますよ。旦那様は奥様に頼まれたら、断れないですよね・・・。」
必死で言い訳すれば、皆一様に同情の眼差しで頷いてくれた。
「では、我々がやるべきことはただ一つ。今までの失敗を繰り返さぬよう、しっかり対策を立ててご家族をお護りすることだ。」
広いテーブルに大きな地図を広げた団長が重々しく宣言し、皆がその周りに集まる。
「毎回、こうやって万全の対策を立てているはずなのに、どうしてあのお二人はいつもいつもそれを掻い潜って行くのでしょうか?」
「それが分かれば苦労はしない。」
「あれは、もはや特殊能力だとしか思えないよね。エミーリア一人でも迷子だトラブルだとしょっちゅう何かに巻き込まれていたけど、パトリックと一緒にすると遭遇する事件の危険度が跳ね上がるのはなんでだろうね?」
「・・・お二人の特殊能力の相乗効果、でしょうか・・・。」
そう、エミーリアとパトリックが一緒に出掛けると何故かトラブルというか、事件に巻き込まれる。
街へ行けば二人で迷子になった上で何かの事件現場に出くわし、店に入れば強盗に遭い、山へ行けば山賊と鉢合わせる。
最初のうちは偶然だと思っていたが、毎度となるともはや笑っていられなくなった。都度、助ける僕と騎士達の心臓がもたない。
なので、ここ数年は街へ行くときも2人はバラバラにし、家族でのお出かけは末っ子のディートリントが小さいからという理由で、なるべく庭にしていた。
流石に庭なら2人セットでも池に落ちるとか、泥まみれになるくらいで済むから・・・。
それから当日まで、空いた時間全てを使って騎士達と打ち合わせ、準備を整えた。
■■
そして、当日の朝。
「いいお天気ね!とっても楽しみ!」
「母上も馬で行くの?」
「ええ、もちろん。馬で出かけるのは久しぶりでわくわくするわ。」
「俺も!母上と一緒に馬で出掛けるのは初めてだね!」
「そう言えばそうね。なんでかしら?」
のんきな母子の会話に周りの騎士達が遠い目をしている。
彼等にとって今日はとんでもなく緊張する一日になるだろう。無事に帰れたら労わないといけないな・・・。
「父上、お疲れ様。今日は何事もおこらないといいね。」
長男のテオドールが凛々しい乗馬服姿で僕の所へやってきて労ってくれた。
髪色も顔つきもエミーリアにそっくりな彼はその涼やかな容貌と公爵家の跡取りということもあり、11歳にしてもうご令嬢達の注目の的でお茶会の度に騒がれている。
それを本人が酷く面倒そうにしている様子に、同じ経験をした者として同情している。
「でもなんでよりによって、森でピクニックなの?」
「エミーリアが、どうしても皆で行きたいっていうからさ・・・。」
「あの2人、絶対に何かに巻き込まれると思う・・・。」
幼い頃から2人のとばっちりで色んな目に遭ってきた彼の目は凪いでいた。
「一応、色々と対策は立てて来たんだよ。」
「どんな?」
僕と騎士達の知恵と涙の結晶の策を語れば、彼の目がきらりと光った。
「それは随分と思い切ったね、父上。僕は今、ちょっとだけあの2人に期待した。」
「テオ、何事もないのが1番いいんだよ・・・?」
「父上だって、それで済むと思ってないからこれだけの準備をしたんでしょ?」
「まあ、そうだけどね・・・。」
「お父さま、テオ兄さま!見て!」
2人で諦めの境地になっていたら、可愛らしい声がした。
同時に後ろから服の裾を引っ張られて振り向けば、ディートリントが得意気な表情でこちらを見ていた。
彼女は、邸外に馬で出掛けるのは今日が初めてだ。まだ一人では馬に乗れないので、僕が乗せていくけど。
今日は張り切っていつもは下ろしているふわふわの濃い金の髪を一つに結んで、真新しい乗馬服を着ている。
・・・ん?この服のデザイン、何処かで見たような。
「ディー、その服よく似合っているね。それ、母上とお揃いがいいってねだってたものでしょ。とっても可愛いよ。」
妹を溺愛している長男がさらりと褒めている。彼は他の令嬢達に対しては超塩辛対応なのに身内には優しい。
そんな彼は未だ心に決めた人がいないようだ。彼が恋に落ちたらどうなるのか、どんな人を愛するのか、密かに楽しみにしている。
「お父さま、ディーの乗馬服、素敵でしょ?」
再度服の裾を引かれて、直接的に感想を求められた。
「うん、とっても可愛いよ。お母様とお揃いなんて羨ましいな。」
「もう、お父さまはお母さまばっかり!今日はディーと一緒に馬に乗るんだからね!」
「ごめんね、ディー。しっかりエスコートさせてもらうから、機嫌直して?」
「うーん。お父さまだから、しょうがないかな。」
うっかり本音を漏らせば娘にむっとされたので、慌てて謝った。
「ディー、お父様に可愛いって言ってもらえた?リーン、見て見て、ディーとお揃いの乗馬服!」
そこへ当の妻本人が娘とお揃いの服を見せに来た。
「エミィ、とっても似合ってるよ。君はそういう格好をすると本当に凛々しくて美しいね。その上、ディーと2人並ぶと最高に可愛い!」
思い付くままに感想を述べていたら、ディートリントが拗ねた。
「お父さまは、お母さまのことはたくさん褒めるのね。ディーのことは『とっても可愛い』だけだったのに。」
「あら、そうなの?でも、私とディーが一緒で最高に可愛いんだから、ディーがいないとダメなのよ?」
いや、エミーリアだけでも最高に可愛い、と言いそうになって横の長男に無言で止められた。・・・うん、後で2人の時に言おう。
「ディーがいたら最高にかわいい?」
大きく頷いて返せば、小さなお姫様は満足気な笑顔になった。
妻も娘も最高に可愛い!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次男はエミーリアの能力を引き継いだ・・・?
実はアルファポリスさんの方には、この話の前に番外編が一話あります。
こちらにも掲載すべきか悩んだのですが、あちらで賞に応募した際に投票してくださった方への御礼なので、アルファポリスのみの掲載とすることにしました。
本編には全く影響しない小話なので読まなくても問題ありませんが、もし読んでみたいと思われた方は以下のリンクをコピーするか、同じ名前で投稿しているのでそこから探していただいて『御礼 番外編 いつかの、未来4』を選んでいただければと思います。
内容は娘が父にプロポーズすることから始まる話になっております。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/463088498/279543999/episode/5651980
リンクを押したら飛べるような貼り方を調べてやってみたけれど、できませんでした。
不便で申し訳ありません。