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5.【番外編】4歳の出会い2

■■

sideE



背の高い生け垣に囲まれた小さなスペースに無造作にバスケットが置かれ、中にクッキーやケーキ、小さな水筒、おもちゃとゲーム盤が入っていた。あと、くまのぬいぐるみ。


「あ、かわいい。くまのぬいぐるみ。」

「くま、好き?」

「くまが特別に好きなんじゃないの。ぬいぐるみが好きなの。」

「何のぬいぐるみが好き?」

「なんでも。でも1つも持っていないの。お母さまが私にはぬいぐるみが似合わないからいらないでしょって。」

「好きなのにだめなの?エミーリア、これ持って?」


リーンはそう言うと私にぬいぐるみを渡す。くまのぬいぐるみは彼の髪のようにふわふわで、暖かかった。

私はそのぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめた。


「ぬいぐるみ、似合うよ?僕、たくさんぬいぐるみもっているから、そのこはあげる。」


その言葉に私ははっと彼を見て、首を振った。


「それはいいわ。どうせお母さまに取り上げられるもの。・・・じゃあ今だけ、貸してくれる?」

「もちろん。好きなだけ抱っこしてていいよ。」

「ありがとう・・・嬉しい。」


私はうっとりとしてそのふわふわに頬ずりしながら顔を埋めた。


その様子をリーンは嬉しそうに見ていたが、思い出したようにバスケットを引き寄せ、中の水筒を取り出すと、お茶をコップに注いで渡してくれた。




おやつは本当にたくさんあった。そして美味しかった。

二人で食べるといつもより美味しいと喜ぶ彼の笑顔に、つい、食べすぎた。


このままだと夕食が食べられず、母に怒られそう。


お腹を押さえつつ、彼に笑顔を向ける。


「ごちそうさまでした。リーン、ありがとう。美味しくて食べ過ぎちゃったわ。」

「よかった!じゃあ、次はゲームしよ?相手がいないとつまらないんだよ。」

「いいわよ。ルール教えてくれる?」


しばらく二人で遊びながらたくさんおしゃべりをした。

楽しくてつい気が緩んだ私は、家では決して口にできない、母のぐちもこぼした。


母は私の目と髪の色が気に入らないので、服は姉のお下がりだけで、新しい物を買ってもらえないこと、おもちゃも自分だけのものはないこと、いつも他の姉弟達と比べられてけなされることなどをポツポツと話すと、彼の顔が曇ってきた。


彼を嫌な気持ちにさせるつもりじゃなかったのに、つい愚痴をこぼしてしまった自分を心の中で叩き、私は慌てて笑顔を作った。


「こんな話をして、ごめんなさい。でもね、お祖父さまとお祖母さまとお姉さまは私のことをかわいがって大事にしてくれるの。お姉さまはおもちゃを好きなだけ貸してくれるのよ。だから、私、大丈夫。」


リーンはなにか言いたそうな顔をしたが、うまく言葉にできないらしく悔しそうな表情を浮かべてこちらをみた。


そんな彼に声をかけようとして、ここに来た目的を思い出した。


「忘れてた・・・私、ここにお花を探しに来たんだったわ!」


慌てて立ち上がった私にリーンも驚いて立ち上がる。


「え、お花?何の花を探すの?」

「見ると幸せになれるお花よ。お祖母さまが病気だからお花を見たって報告したいの!」


そう言うと、彼は困った顔をした。


「僕、わからないから、庭師に聞いてみる?」

「うん。珍しいお花だって言ってたからすぐにわかるよね。」


二人で意気揚々と手を繋いで花と庭師を探しに行った。さすが、お城の庭園にはいろんな種類の花が咲いている。


そして、とにかく広かった。

さらに、向こうでパーティーが開かれているからか、庭師の姿もない。


仕方なく二人で咲いている花を片っ端から見ていったが、どれがそうだか全くわからない。


「そういえば、お祖父さまは何色の花だって言ってたっけ?」


散々庭をまわって、そう言って首を傾げる私をリーンがげんなりとした顔でみてきた。


珍しいお花だから、すぐに見つかると思っていた私が悪かった。彼を無駄に歩かせてしまったことに申し訳なさが募る。


「ごめんね、リーン。」

「ううん、僕も知らなくてごめんね。今度庭師に聞いておくから、また来た時に一緒に探そう?」

「そうね。私もお祖父さまにまた詳しく聞いておくわ。って私、もうここに来ることないのよね。」

「え、僕もうエミーリアと遊べないの?そんなの嫌だ。」


リーンの目にみるみるうちに涙がたまる。私はこの子の泣き顔に弱いらしい。

涙を止めようと必死で言葉を探す。


「ごめんね、もう会うことはないと思うけど、私とリーンは1番の友達よ。もし会うことがあれば、一緒にお花を探しましょ?」

「ほんと?僕とエミーリアは友達だからね!約束だよ?!」


友達という言葉が効いたようで、彼はたちまち笑顔になった。私もほっとして笑顔になる。


私と目があった彼の顔が赤くなった気がした。連れ回したことで、熱でも出たかと心配したその時、遠くから誰かが彼を探す声がした。


「大変、リーンのことを誰か探してるみたいよ。もしかして、パーティーが終わったのかしら。私もお姉さまのところへ急いで戻らないと。」


姉のことを思い出して慌てた私は、持っていたぬいぐるみを彼に返して、パーティー会場と思われる方向に走って行こうとした。


「待って、エミーリア、幸せになれる花の代わりに病気のお祖母さまにこれ持っていって!」


私の腕を掴んで引き止めたリーンが、そう言いながら側に咲いていた青い花を折りとって、渡してくれた。


近づいてくる人の声に焦った私は、お礼を言ってその花を受け取ると今度こそ彼の元を離れた。




会場でなんとか合流した姉は心配したと、大変ご立腹だったが、迎えにきた母には、ずっと一緒にいておりこうだったと言ってくれた。


祖父母だけには、花を持っていった時にリーンのことを話した。二人は目を丸くして聞いてくれ、お友達ができてよかったね。と頭を撫でてくれた。


私は彼のことを他の家族には言わなかった。言えば、特に母に嫌な思い出に変えられそうだったから。




■■

sideL



「リーン様、リーンハルト様、探しましたよ!何でこんな所にいるのですか!」

「あ、ヘンリック!聞いて!僕、友達ができたんだよ!雲の精みたいで、すっごく綺麗なんだ!」

「はあ?ああ、そのくまのぬいぐるみのことですか?確かにふわふわ感が雲っぽくて、かわいいですね。」

「ちがう、女の子なの!」

「はいはい、そのくまは女の子なんですね。そんなことより、兄上達が戻られる頃ですよ、リーン様も早く戻らないと叱られますよ。」

「それは大変。急いで帰ろう。・・・エミーリアはちゃんと戻れたかなあ。」

「そのくま、名前までついたのですか。」

「だからちがうってば!」


全く話が通じない側役のヘンリックにエミーリアのことを説明するのは諦めて、僕は早々に城内にもどった。


廊下を走っていたら、曲がり角に兄の後ろ姿を見つけた。


「兄上〜。」

「やあ、リーン。いつもパーティーの時は挨拶ばかりだと言って機嫌が悪いのに、今日はご機嫌だね。」


僕の呼び掛けに振り返った6つ上の兄は、優しく頭を撫でてくれる。


「兄上、今日お友達ができたのです!そういえば、こんやくしゃは決まりましたか?」

「それはよかったね。嫌なパーティに出た甲斐があったじゃないか。ところでリーン、婚約者なんて、そんなこと誰に聞いたの?」

「姉上です。今日は、兄上のこんやくしゃを選ぶのだから、兄上にひっついてちゃだめって言われました。」

「あー・・・だからリーンは朝から不機嫌だったのか。メラニーは言い方がキツイから。」

「兄上、こんやくしゃってなんですか?」


頭を撫でる手が止まって、兄上の目線が上をむいた。


「うーん、そうだなあ・・・。大人になってもずっと一緒にいる約束をした人、かな。」

「じゃあ、僕のこんやくしゃは兄上と、父上と母上と・・・」


僕は一生懸命指を折って、ずっと一緒にいたい人達を数えた。


「リーン、婚約者は家族以外の女の人、一人だよ。メラニーの場合は家族以外の男の人、一人だけど。」


ずっと一緒にいたい家族以外の女の人と言われたら、今日出会った女の子しか浮かばなかった。


「じゃあ、僕のこんやくしゃはあのこがいいです!」

「ええっ、もう決まったの?まさか、今日できた友達って、招待されていたご令嬢?!うわー、リーンに先に婚約者が決まるとか、ないよな?」




兄との会話の後、僕はすぐに父の所に飛び込んで今日会った彼女を婚約者にしたいと訴えたが、流石に早すぎると却下された。

ついでに会場を抜け出して庭で遊んでいたこともバレて叱られた。


しかし、めげずに頼み続け、認めてもらおうとサボりがちだった勉強や剣術も真面目にやるようになった。嫌いだった読書も毎日続けた。


1年後、根負けした両親は、ノルトライン侯爵家にこっそり打診した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次で出会い編は終了です。

リーンの婚約奮闘記、結末はいかに。21時更新です。

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コミカライズ連載中!
詳しくはこちらから!(出版社のHPへ行けます)

11話からの新しい表紙です! 幸せそうな二人…特にリーンが!

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1話から10話までの表紙です!

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