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【番外編】公爵夫妻のお花見

こちらは、他の投稿サイト様でリクエストいただいた、お花見がお題のお話です。 

※エミーリア視点

 

 「リーン、まだ駄目なの?」

 「もう少し我慢してくれる?」

 「この体勢で目を閉じてるのは、結構怖いのよ?」

 「ん?僕を信用してないの?君を落とすわけが無いでしょ。」

 「でも揺れるし、どこを走っているのかわからないし。」

 「じゃあ早く着くよう速度を上げるから、しっかり掴まってて!」

 

 そう言うなり、私のお腹に回された彼の腕に力が籠もる。

 ひゅっと耳元で風の音がして馬の足音が変わる。振動も大きくなり、私は目をつむったまま、ぎゅううっと更に力を込めて彼にしがみついた。 

 

 そのまま走ること数分、徐々に馬の速度が落ちていき、ついに止まった。

 

 「エミィ、よく頑張ったね。もう目を開けていいよ。」

 

 待ち望んだその言葉に、ぱっと目を開けた私の前に広がっていたのは一面の淡いピンク色だった。

 

 「うわぁ・・・綺麗!」

 

 そこは満開の木々に囲まれた場所で、馬に乗っている分、花がより近くて幻想的な雰囲気だった。

 

 「すごい、花に手が届きそう。」

 

 うっとりと差し出した手のひらに花びらが一枚落ちてきた。

 少しひんやりとして滑らかで繊細な色の花びらに見惚れていると、リーンの顔が近づいてきた。

 花びらが見たいのかと顔の前に手を差し出すと、なんと彼はその花びらを食べた。

 

 「リーン?!お腹壊すわよ?!」

 「まあ、大丈夫でしょ。それより、僕のほうも見て?」

 「えええ・・・本当に大丈夫なの?」

 

 心配しながら彼を見たら、さっとキスされた。

 

 「もう!」

 「花と君、とっても綺麗でここに連れてこられて良かった。」

 

 怒っても全く動じない彼のその台詞で、私はまだお礼を伝えていなかったことに気がついた。

 

 「リーン、こんなに素敵な場所に連れてきてくれてありがとう!」

 

 さっと彼の頬にキスをして、そのままの勢いで彼の首に抱きつく。

 彼が慌てて手綱を引きつつ私を受け止めた。

 あ、馬上なの忘れてたわ。

 

 「ねえ、リーン。降りて歩いてみてもいいかしら?」

 「いいね、そうしよう。」

 

 リーンが先に降りて手を差し伸べてくれる。私はそれ目掛けて飛び降りた。

 

 

 落ち葉や草のおかげで足元の感触は絨毯のようにふかふかだった。

 仰ぎ見ると淡いピンクの天井の隙間から青空がところどころ見えて、その優しい色合いに心が穏やかになる。

 差し込む陽光が少し眩しくて手をかざす。

 

 「本当に綺麗ね。どこか違う世界に来たみたい。」

 

 両手を空へと伸ばしてくるりとまわったら、ささやかな風が吹いて花びらがひらひらと落ちてきた。

 私は腕を伸ばしたまま、落ちてくる花びらをとろうとジャンプした。

 

 「えいっ!・・・捕まえたっ!リーン?!」

 

 着地しようとしたら、なぜかそこで彼が笑顔で腕を広げていて、私はそのままその胸に飛び込む形になった。

 

 どさっ


 彼に抱えられ、そのまま一緒に地面に倒れる。下はふかふかなので痛くもないし怪我もしていない。私は更に彼をクッションにしているし。 

 

 「・・・リーン、わざと倒れたわね?」

 「まさか。君が重くてね?」

 

 いつもいつも軽々と私を担いだり、抱き止めたりしているくせに、こんなときだけ私の重さを理由にするなんて!

 私は彼の胸の上に手をついて上体を起こし、下にある薄青の目を真っ直ぐに見つめた。

 

 「そう。支えきれないほど重くて悪かったわね。もう二度と、私を抱き上げないで頂戴。私、貴方に負担をかけたくないの。」

 

 真面目な表情と声でそう告げると、彼の顔が真っ青になった。

 

 「わあっ!重いって言ってごめんなさい!お願いだから、君を抱き上げるのを禁止しないで。そんなことされたら僕の楽しみが減っちゃって悲しすぎるから!」

 「・・・本当に私がもの凄く重くなったら、抱き上げるのをやめてね?」

 「うん。その時はできるようになるまで鍛えるよ。」

 

 そういう問題?とは思ったけど、もういいやという気分になった私は、力を抜いてぽすっと彼の上に倒れ込んだ。

 すかさずぎゅっと抱きしめられる。彼の鼓動が耳元で聞こえて幸せな気持ちになった。

 

 そのままじっと目を閉じていると、彼が話しかけてきた。彼の身体に耳をくっつけているので声が響くようないつもと違う感じに聞こえてくる。

 

 「こうやってたら、出会った時のことを思い出すよ。あの時は僕が上から覗き込んだから、今と上下逆だね。あの時の女の子がここにこうしていてくれて、僕の奥さんになってるなんて、夢みたいだ。」

 

 うっとりとささやくリーンに、私も頷く。

 

 「本当ね、こんな美しい場所に2人でいると、全てが夢かもと思えてくるわ。この幸福な夢はいつか覚めるのかしら・・・。」

 

 自分で言っておきながら、不安になって彼をそっと見つめる。

 彼は花に負けないような優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でた。

 

 「大丈夫。ずっと続くから安心してていいよ。」

 「それならよかった・・・。」

 

 そのまま優しく頭を撫でられていたら、だんだん瞼が重たくなってきた。

 

 「リーン・・・寝ちゃいそうだわ・・・。」

 「いいよ、寝ても。」

 「やだ。せっかく花を見に来たんだもの。起きるわ。」

 

 そういいながら起き上がった私は思いっきり空気を吸い込んで伸びをする。

 

 「君とずっと寝転がっていたかった・・・。」

 

 そうぼやきながら、とても残念そうに起き上がった彼の背中は草だらけ。

 

 「リーン、草がいっぱいついてるわ。はたいてあげる。」

 「それは大変。エミィ、お願い。」


 私はぱたぱたと手で払い落としていく。

 その広い背中を見ていたら、急に愛しくなって抱きつきたくなった。

 うーん、どうしよう。

 ここなら普段やらないことをしてもいいかな。

 

 えいっ

 

 私は自分の気持ちに正直に、彼の背中に抱きついてみた。

 そのまま彼の肩に顔をすりすりっとくっつけた。

 

 「くすぐったい。エミィ、急にどうしたの?」

 

 嬉しそうな笑いを溢して彼が問う。


 「なんにもないわ!私がこうしたかっただけ!」

 

 私も嬉しくなって彼の背中にくっついたまま笑った。

   

 

 ■■

 〜木陰にいる護衛三人〜

 

 「あー、奥様の笑顔最高!」

 「お前、そんなこと言ってると旦那様に消されるぞ?」

 「まさか。だって旦那様も今絶対、同じこと思ってるぜ。それに、俺は旦那様と一緒にいる奥様を見るのが好きなの。」

 「大丈夫ですよ。この人、こないだ旦那様と奥様の可愛さについて盛り上がってましたから。」

 「それは護衛としてどうなんだ・・・?」

 

 「しかし、旦那様は嬉しそうだな。」

 「そりゃ、あれだけ準備してたものな。」

 「いつでも休みが取れるように前倒しで仕事片付けて。」

 「毎日、ここに人を遣って開花状況を確認して。」

 「気温と天気も毎日城のお天気読みに聞きに言ってたもんな。」

 「報われたかな。報われてるな。」

 

 「それにしても、いつも以上にお二人とも俺達の存在、忘れてるよな・・・。」

 「「あー・・・。」」

 

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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